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猫ライダー

作者: 銀色自転車


猫の話です。そして、高校生の話です。

読んでくれたら嬉しいです。






  今日も炬燵からしっぽだけ出して寝ていると、俺様の下僕(同居の人間だ)が可愛いだのなんだのとしっぽを握ったり撫でたりしてくる。めんどくさい。ハチワレ猫の俺様は今は絶賛お昼寝中なのだ。しっぽだけ振って相手をすると、もう一度暖かいまどろみに身をゆだねる。気持ちいいにゃ。


 何か食べる夢を見ていた。うにゃうにゃうにゃうにゃ。食べながら声が出ちゃうのはしょうがない。だっておいしくてご機嫌なんだもん。俺様幸せだ。何だかいつものエサと違うみたいだが悪くない。。ふわふわ。おいしーい。オムレツだ。ん?


 

「いい加減寝ぼけてないで早く食べて!圭太、間に合うの?」

 ああそうだ。気持ちいい夢を見た。今日は月曜日。朝練だ。まだ頭はぼーっとしてるけど、急がなくちゃ。インターハイが近づいて、出ると負けの俺のチームもちょっと皆頑張ってる。地区大会突破できたらいいな。朝食を食べ終えると慌てて支度する。髪ははねてるけど、まいっか。


 玄関を出る。いつものように自転車に乗る。シルバーの俺の愛車だ。高校までまで坂道続き、力を入れて猛ダッシュだ。風を切って走るぜ。

 うにゃうにゃうにゃうにゃー!

 いつもうりゃうりゃ漕ぐのに今日は何か変な言葉がとびだした。

 しかもなんか超ご機嫌だ。何だか耳がピンとして、ないはずのしっぽまでピンとしてる感じだ。気持ちいい!毎日の事なのに、今日の気持ちは何だ?ウズウズして、自転車なのに、ジャンプしてしまいそう!

 グッと足に力を入れて、全体重をかける。びっくりする程うまくいった。そのまま自転車ごとジャーーーンプ!!

 うおーーー。何だこれ。ET? 俺って天才?今までは本気出してなかっただけ?

 と思ったけど、着地で失敗して派手にコケた。学校の近くまで来ていたせいもあり、知らない女子にしっかりと目撃された。びっくりして目を見張り、口を押さえている。いたたまれない。せめて、近くにいたのが同じ部活の野郎どもなら大笑いして終わるのに。

 硬直した苦笑いで慌てて自転車を起こして、さっさとその場を去る。何もなかったって事にして!


「大丈夫?派手にコケてたって聞いたよ。」

 なぜバレてしまうんだろう。恥ずかしすぎる。

「別にどうって事ねえよ。」

 それでも心配してくるのは女子バスケ部の芽衣だ。「ケガしなかった?」だって。くそう。可愛いぞ。

 俺は一気にテンションMAXだ。

 隣のコートは女子バスケだ。張り切って朝練に励む。かっこいいとこ見せないと。いやいや、地区大会突破しないと。

 後半はいつものように部内の練習試合だ。やる気満々のせいか身体が軽い。いつもよりボールが良く見える。相手のボールを空中カットする。身体がしなる。ドリブルで2人抜いて、ジャンプして身体の向きを変えながら、狙い定めてシュート!

 わぁっと周りがどよめいた。野郎どもばかり、大喜びで抱きついて(激突して?)くる。

「スゲエよ、おめー!どうした!目醒めたか!」

 そうかな?そうなのかも。俺、スゲエ。


 クラスに行くと、芽衣がなぜかちょっとにらんで近寄ってきた。なぜ?俺何かした?ちなみに芽衣は同じクラスだ。

「右足、痛いんじゃないの?」

 くうー。怒った顔も可愛いぞ。言えないが!

「バレたかー。でもちょっとだから平気だよ。」

 そう。ちょっとくらい痛くても、平気なフリするのがカッコイイのだ。きっとコケた時にちょっとひねったか何かだ。コケた時点でカッコ悪いのは忘れてほしい。

「足、見せて。」

 嫌です。すね毛とか気にしないけど、部活でクサイとか、ただ足がクサイとか、なんとなくクサイとか!

「別に大丈夫だから。」

 とか、言っちゃうからたまに誤解されるんだけど、他に何て言えばいいのさ。

 芽衣は、ちょっと頬を膨らませて、(くぅーー)

「もう!もうすぐ地区大会だから、悪化させないようにね!湿布、いるなら保健室行こ。」

 だって。

 何それ可愛い。

 ホントにたいした事ないから、別にいいよといいながら、芽衣の頭をクシャクシャする。

 芽衣は、じっと俺の顔を見て、くすっと笑った。

「圭太、髪の毛はねてるよ。猫の耳みたいになってる。かーわいーー。」 

 後、張り切りすぎだよとか、シュートの時の滞空時間が半端なかったとか言ってくれた。

 それは良かった。ジャンプして片手でシュートするの、誰が滞空時間長いかって、よく男子で競ってたんだ。

 そんなんばっかりだったから出ると負けだったのか?


 帰りも俺の愛車に乗って帰る。

 今日は散々な日だった。授業中、眠くて眠くて、毎時間爆睡してしまい、叱られたり、部活頑張ってるからと、生暖かい感じで寝たままにしてくれてたり、その度くすくす笑われたり。でもまあいいか。バスケは絶好調だった。朝のあのシュートは、猫シュートいう名の伝説になった。なんか猫っぽい大技だったらしい。

 帰りは家まで下り道、俺はごきげんだぜ。シャーっとスピード出して走る。疾走。少し暗くなりかけの、夕焼けも終わる空。ああおもしろかった!またウズウズしてくる。うにゃうにゃうにゃうにゃー!とか言いながら、今度はコケずに帰った。



 俺様は基本昼間はずっと昼寝だ。それが俺様の仕事だ。今日もよく働いた。何かとてもごきげんだ。窓の外はもう暗くなってきた。ググーンとノビをして、玄関で待つ。誰かが帰ってくる気配がする。カギを開ける音がして、俺様の下僕が入ってくる。

「ただいまー!オセロ」

 ムギューとされる。

 今日ね、なんかオセロに似てる人に会った、と下僕が言った。朝こけてたの。黒いハチワレの頭が何だか似てて。

 俺様はそんな事には構わず、エサを寄越せとニャーニャー鳴いてやった。

 下僕は、何度か俺様にお手をさせようとして失敗した後、エサをくれた。俺様は猫様なので犬の真似はできないのだ。

 うにゃうにゃうにゃといいながら食べる。美味しいからー。

 勝手に声が出ちゃうのさ。

 でも何か、もっと美味しいのを最近食べた気がする。ふわふわの。何だったかな。



 俺様はたまに窓から街の安全を見守っている。昨日の朝は寝てたけど、今朝はまた窓からパトロール中だ。置物のようにじーっと見てるせいか、びっくりされる事もあるが。時々、隣のおばさんや、子供達がニコニコして振り返っていく。たまに車や自転車も行く。

 よく、通っていく、銀色の自転車が行った。ふ、と止まって、こっちを見る。じーっと見つめ合う。何だこいつ。俺様の可愛さにやられたか。ふ、ふん。そんなに見たって怖くないぞ。実は俺様は初対面の人間が苦手だ。下僕達はそんな俺様を見てビビリと言うが、窓越しなら平気だ。ふん。‥それでもまだじーっと見てくる。何してんだ、早く学校行け。‥

 学校って何だっけ。確か下僕達が行ってる所。知らないけど、何か知ってる気がする。俺様の事をじっと見てくるこいつも、何だか他人じゃない気がしてきた。


 そいつがニッと笑った。ちょちょっと近くまで来ると何か願かけのようにこっそりと手をあわせて、「今日も猫シュートできますように」誰にも聞こえないような小さい声で言った。

 なんだそれ。俺様は猫様で神様か。他力本願じゃなくて自分で頑張れ。でもなんか他人の様な気がしない。

 俺様は、人間にはよくわからない笑顔で笑ってやった。












 

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすく、最後まで楽しませてもらいました。猫を飼っていらっしゃいますか?実によく観察されていますね。
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