悠久の時の中で1
ゆっくりと瞼を開く、とても、とても長い間眠りについていたはずのに、まるで昨日の晩に眠りにつき今朝目が覚めたというような感覚だ
腕を動かそうとすると体に激痛が走った
そういえば、相当なダメージをおっていたなと、だんだん記憶が蘇ってくる
なんとかこの狭い空間から脱出しようともがいてみるがビクともしない
ならば
少しエネルギーを発散させると、"彼"を閉じ込めていたモノは砕け散った
どうやら自分は海中にいるようだ
相変わらず体は痛むがまずは浮上しなければと痛みを堪え海上へ勢い良く飛び立つ
宙に浮かびながら周りを見渡す
海が広がっているだけで陸が見当たらない
もう少し高い位置から見てみるかと、更に高度を上げようとしたとき
視界が霞みはじめた、思っているよりダメージが大きいようだ
それでもなんとかゆっくりと高度を上げ陸を探す
見つけた、少し遠いが陸が確認できた
だが体はもう限界のようだ、とりあえず何でもいい、あそこへ上陸しなければ
最後の力を振り絞り、ジェット機の如きスピードで目的地へ直進した
「魔術師の貴女に依頼したい事というのはですね、ずばりボディーガードなんですよ」
マリア、瑠智愛と机越しに対面する眼鏡の男が今回の依頼者だ
「ボディーガードねぇ...」
「えぇ、私達はとあるプロジェクトのために交渉を行いたいのですが、どうやら相手方に恐ろしい異形の者がついているみたいで」
「異形?」
男は眼鏡を人差し指で押し上げ、少し声を潜めるように語りだした
「はい、私の部下達が何度か交渉に向かったのですが、恐ろしい化け物に追い払われたと口を揃えて言うんですよ」
「マジかよ...」
「えぇ、なのでこうしてボディーガードを雇って交渉に臨もうという訳なんですよ」
男は足元に立て掛けていた鞄から封筒を取り出し机の上に置いた
「少し、危険な依頼ですので前金として1000万円」
その言葉を聞いて2人は一瞬思考がフリーズしたが、すぐにその金額を認識し、目を見合わせた
「い、1000万!?」
「せ、せ、先輩!これ、現実ですよね!?」
大騒ぎする2人を制止するように男は大きな咳払いをし、2人が静まったのを確認して話を続けた
「出来ればその異形の者を討伐してほしいんですよね、もし討伐出来たなら成功報酬として更に3000万お支払します」
「やります!」
マリアは即答で男の手を強く握りしめた
「そ、そうですか、ならお願いしますね」
男は若干引きぎみでマリアの手をそっと引き離した
「トシコよ、本日も大量である」
クーラーボックスを台所へ置き中の魚を見せる
トシコはコップにお茶を注ぎ「お疲れ様」とアレイスターへ差し出す
「む、そういえば醤油が切れそうだと言っていたな、よし買い出しにいくとするか」
「いいよいいよ、ゆっくりしときな、私が行ってくるよ」
「いや、しかし」
「歳よりは健康のために運動せにゃならんからね。」
「では、我はトシコが帰ってくるまで魚を調理するとしよう」
「あいよ、それじゃあ行ってくるから」
トシコが台所から出ていくと同時にアレイスターは調理の準備にとりかかる
ここでの生活ももう3年
"人間の食事"にも随分慣れた
3年、とても刹那の瞬間だったと思える短さだが、こうして当然のように魚を捌けるようになるまでを思い返せば案外長かったようにも思える