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98、再度猛襲

風をまとい、宙を舞うリリスが呪を唱え大きく両手を魔物に向ける。


「グアッ!」ズウンッ


魔物は少年の姿でありながら、見えない重量があるかのように、風に押されて地響きを立て地面に押さえつけられた。

魔物を押さえつけている間に、兵達が背後に回って矢を放つ。

しかし、矢は届くことなく寸前で青い炎に包まれ燃え尽きてゆく。


「グウッ」


少年は苦しげな声を上げ首をひねってリリスを見上げると、背中の炎の羽を大きく持ち上げリリスを払いのけた。


「あっ!……つっ!」


青い炎は冷たく熱い。

それは触れただけで骨まで焦がしそうだ。

風の精霊達がリリスをかばい、彼を正面の兵達の所まで一旦引かせた。


「ああ……メイス……」


魔物の少年は、やはりメイス。

四つ足で這い回る様はまるでトカゲのようだ。

しかしその顔はうつろな目をつり上げ、激しく息を吐く口からはよだれを流しながら舌を出し、時々青い炎がこぼれ出す。


「リリ!ケガはないか?!」


「あいつは昨夜の?!いや、様子が違うぞ。」


駆け寄ってきたイネス達に、背後から兵が声をかける。


「巫子様!先ほど吹き飛ばされた兵が……」


振り向くと、兵が3人身体を半分焦がしながらうつろな顔で、ゆらりゆらりと身体を揺らして剣を振り回している。


「馬鹿な、息に触れただけで汚れるとは。

こちらの兵は下がれ!これ以上被害が出ると足手まといだ!

リリ、俺が魔物を押さえる、お前はこいつらを押さえよ。」


メイスの背後で、弓を持つ兵が数人建物の影から次次と弓を射る。

しかしメイスはそれを虫でも払うように青い炎の羽根を大きく羽ばたかせ、軽々と矢を払った。


「諦めるな、矢が尽きるまで放て!」


それでも、兵達はなんとかメイスを狭い中庭から開けた場所へおびき出そうと、繰り返し矢を放つ。

それに加勢するミランの元に、一人の若者が5本の矢を手に走ってきた。


「ミラン様!御師様から‥レナファン様からこれを!一種の呪いで、必滅の矢と。

ただ、効果にムラがあるそうで、失敗作だそうです!すいません!」


思い切り頭を下げる、レナファンの弟子からそれを受け取り、矢筒に入れる。


「必滅?なるほど、色んな術の応用で矢を作られるレナファン様なら間違いなかろう。

試します!」


「はい!」


矢の攻撃がことごとく無効になる中、ミランがその矢を1本取り、メイスを狙う。

それは羽根の炎を突き破り、メイスの足に刺さった。


「やった!」


思わぬ攻撃にメイスの身体がびくりと跳ね上がり、大きな叫びを上げる。


「やったぞ!もう一本!」


「ギャッ!ギギ……」


メイスが矢を口にくわえて抜き、苦しそうな声を上げ振り向くと羽ばたく。


「引けっ!」


ミラン達、矢を持つ兵が慌てて下がり、メイスは飛び立つとそれを追い始めた。


「サファイアゆくぞ!魔物を封じ被害を早く食い止めるのだ。

リリ、こちらは任せ、お前は兵を押さえよ!」


「イネス様!」


リリスが追いかけようとして足を止め、背後の3人に目をやる。

どう見ても、汚れの大元であるメイスを巫子に任せた方がいいのはわかっている。

恐らくは、ただの魔導師である自分にはどうしようもないだろう。

でもメイスを自分の手で助けたい。


だが…………


クッと唇をかみ、リリスが3人へ向かう。


「リリス殿、こいつらの動きを止めよう、我らも手伝う!」


心にまとまりが無く戸惑っていたリリスに、騎士のブルースが仲間と共に現れ声を上げた。

ハッとしてそちらに気を引かれた瞬間、フラフラと歩み寄っていた他の兵士が一人、横からリリスに剣を上げた。

リリスが腰の剣を忘れ、呪を唱えようと指を組む。


「あっ!危ない!」


遅い、しまった!


ギインッ!


とっさに呪文を唱えるより早く、横から男がリリスの前でその剣を受けた。


「馬鹿ものっ!集中せよ!」


ガーラントが兵と剣を交わし、隙を見て思い切り蹴り飛ばす。


「ガーラント様、ガルシア様は……」


「俺はお前の守だと言ったはず。子供は黙って守られよ!」


「そうだ!魔導師殿、この4人は我らの仲間。

我らに任せ、貴方は友に向かえ!」


ブルースが、兵を率いて己を失っている4人を取り押さえる為に立ち向かう。


「お前はお前の決した道を行くのだ。

皆が力になる!行け!」


ガーラントがリリスの背を押す。


「はい!」


リリスは大きくうなずき、そしてブルース達に手を挙げた。


「風よ、呪われし者の動きを制約せよ!

彼らを救いし者らに加護を!」


風が吹いて精霊達が兵の手助けに向かう。


「お願いします!」


リリスはくるりときびすを返し、メイスのもとへ走り出した。


メイスは普通の少年ですが、今の彼は見かけの大きさではないようです。

まるで、怪獣のような地響きを立てて歩き、見えない質量があります。

さて、どうするのでしょう

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