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97、盲進、猛進

ガルシアが廊下を歩きながら、大きく長いため息をつく。

まったく口惜しい、魔物と戦うことの出来る人間が少なすぎる。


「ああ……まったく、城の守りがまた欠ける。」


つぶやくようなため息混じりの言葉に、側近のクリスが耳元にささやいた。


「昨夜セレス殿の力を目にしただけに、皆も当てにしていたようで。

イネス様は剣舞では有名ではありますが、あれほどのお力は……」


「守りになるのか、イネスの力は実際俺も知らぬ。

教えろと一発殴ってみようか。

はてさて、せめて向こうの魔導師が何者かさえわかればな。」


「一発殴るはご遠慮下さい。」


「冗談だ。」


まったく、ガルシアの言葉はどこまでが冗談かわからない。

幼少の頃は側付きでクリスは随分振り回された。


「リリス殿!」


「御館様にお目通りを!」


階段を上ったところで声が響き、向かいの廊下から息を切らせ、リリスとガーラントが走ってくる。

途中で止めようとする兵を制し、ガルシアが足を止めた。


「なにか、騒々しいぞ。」


クリスが前に出て、怪訝な顔で声を上げる。

リリスは彼らの前に来ると膝をつき、頭を下げて静かに告げた。


「ガルシア様、お話がございます。大切な……事でございます。恐らく。」


「何か、はっきりと申せ。御館様はお忙しくあらせられる。」


「私は、過去に魔物と関わった者を存じております。」


クリスがキョンとして、ガルシアの顔を見る。

気でも狂ったかと、首をかしげた。


「過去とは、伝承で伝わる事と申すのか?

あれは数百年前の事、ふざけた事を…………」



ドーーーーンッ



心を決めてリリサレーンのことを話そうとするリリスを遮るように、突然地響きが大きく城を揺らし、城中から悲鳴が上がった。



「なにか!何が起きた?!」


「御館様!結界が破られました!

中庭に魔物が、奥の棟にお逃げ下さい!」


廊下で兵が、慌てふためいた様子で走り回る。

ガルシアたちが中庭の見える窓に駆け寄った。

ここは2階だが、青い炎がごうごうと立ち上っているのが見える。


「なんと!巫子殿の結界も駄目か?」

「そのようで。」


兵があとからも、転げるように報告に走ってきた。

焦る顔は、悪い知らせだと告げる。


「城下にも数軒家が破壊されたと報告が!

先ほど煙が見えましたので、確認に行かせております!」


「魔物の火であれば、水では消えんかもしれぬな。城下にルネイを向かわせよ!大火にしてはならぬ!」


「はっ!」


とうとう、被害は城だけでは済まなくなってきたのか。

元より城だけで済んでいたのは、敵の考えも有ってのことだったのだろう。

窓から下を見ると、大きな炎の翼を持つ少年が四つん這いで青い火を吐いている。

少年の回りは土がえぐれ、何か大きな力が働いたのか美しい中庭の庭園は破壊されている。

樹木が四方に倒れ、青い炎になめられた場所は黒こげになっていた。


「あれか!あっ、馬鹿者!下がれ!」


聞こえるわけもなく、中庭では真っ正面から兵が数人向かってゆく。

四つ足の少年はゆっくりそちらを向き、衝撃波をともなった炎を吐き出し、兵はあっという間に吹き飛ばされ視界から消えた。


「クリス!正面の兵を下がらせろ!城は壊れても構わん、盾になる必要はない!

後ろに回り込むように伝えよ!」


「私が参ります!ガーラント様はガルシア様を!」


「あっ、待てリリス!」


廊下にリリスの声が響き、ガーラントの覗く窓の隣の窓から赤い髪の少年が飛び降りてゆく。

ガーラントが思わず追って窓から手を伸ばし、身を乗り出した。


「待て!俺はお前の守りだ!」


その声を振り切って、リリスはその火の翼の少年に視線を落とす。

それは、正気を失ったメイスの姿。

ここまで力を放出して破壊する姿は、どう見ても彼の力と思えない。

これ以上被害を増やす前に、彼をなんとか押さえねばならない。


リリスが呪を唱え手を伸ばすと、風が集まり魔物を地面に押さえつけた。

それを見ていたガルシアが頬を打ち、思わず呆れた様子で首を振る。


「なんて奴だ!

ガーラントよ!あいつは危ないとか、怖いとか教わってないのか?」


「御館様!ここは危のうございます!お守りしますのであちらへ。」

ばらばらと、背後には兵が集まってくる。

ガーラントも迷いながらガルシアの元に歩もうとした時、大柄の騎士ケルトが目の前にグッと拳を出した。


「お前はお前の守りたい者の元へゆけ!御館様は我らがお守りする!」


ガーラントが、ハッと顔を上げるとガルシアが大きくうなずく。


「行け!あの猛進シビルを守ってこい!」


「はっ!」


ガーラントはその場に膝をつき、そして一目散に部屋を飛び出していった。

猪突猛進と言いますが、アトラーナに猪はいません。

猪の代わりに、シビルという羊の種類の動物が例えに使われます。


シビルは織物が盛んなベスレムで放牧が盛んですが、驚くと一斉に全力で走り出して危険で飼いにくいので、最初飼おうと考えた人はいませんでした。

まさに猪突猛進、人が居ようとお構いなしに走り出します。


ベスレムへ養子に行ったラグンベルクは、あまりのベスレムの窮状を目にして調べ、織物産業に目を付けました。

羊毛はほとんどが隣国から買い、技術はあっても材料を隣国の言い値で買わなくてはならないので、利益が出ず領民は苦しんでいたのです。

そこでラグンベルクは、飼いにくいが上質の毛が取れるシビルに目を付けます。

飼いにくいなら、飼えるように工夫すれば良いと、谷間を開墾して牧草地を作り、シビルが走っても飛び出さないよう石造りの柵で囲ってシビルを多数買い付けました。


ベスレムは、驚くほど豊かになった事で、王家の威信も上がったのです。

ベスレムの今があるのは御館様のおかげと、ラグンベルクの人望の厚さはそこから来ています。


と、まあ、ずいぶん話しが外れました。

ベスレムはラグンベルク、レナントはガルシア、本城ルランは・・さて、キアンの荷は重いです。

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