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88、涙をふいて

騒ぎはじき収まり、夜の静けさを取り戻して行く。

やがてセレスは部屋に帰ると、隣室のルビーの部屋へと赴いた。

ルビーはケガの手当も済み、カナンが着替えを手伝っている。


「どうか?」


セレスの問いに、少年カナンがルビーの着ていた服を示した。


「服にかけられた守護がなければ危のうございました。セレス様の破魔の剣も効かないとは、どんな魔物でしょう。」


不安げに語るカナンに、セレスが頭を撫でて下げさせる。

そして厳しい口調でルビーに告げた。


「修行が足りぬ、慢心と破魔の剣に頼るから隙ができるのだ。」


「はい、申し訳ありません。」


「横になるがよい、癒しを施す。

カナンは下がって良い。明日も早い、心配せずお休み。」


「はい、では失礼します。

何かございましたら、いつ何時でも何なりとお申し付け下さいませ。」


カナンが一礼して部屋を出る。

セレスが上着を脱ぎルビーに視線を戻すと、彼はベッドに座ったままグッと拳をにぎり、目に涙を浮かべ唇をかんでいた。


「悔しいか?」


「は……い……。口惜しゅうございます。」


わざと負けたことはあっても負け知らずのルビーには、初めて感じる完敗だった。


「フフ……それでよい。」


セレスが子供をあやすように、ルビーの頭を撫でて笑う。

そして優しく額にキスをした。


「あれとの戦い方、考えよ。

次は恐らく迷いや恐れを捨ててくるだろう。

お前は人を、あれから守らねばならぬ。」


「いいえ、私が守るのはセレス様です。」


「ククク……お前が守るのは人だ。

私を守るなどと、過ぎたことを……可愛い奴よ。」


壁のろうそくが、フッと消えた。

月明かりが窓から差し込みセレスの姿を青く照らす。

するりと服を脱いだその姿は、やがて穏やかに輝き何かが重なって行く。


「ああ……」


恐れにも似たため息を漏らし、ザワザワと気配に皮膚が総毛立つ。

ここにあるのはセレスであり、セレスでないもの。


ルビーはそれを見ることが許されない気がして、ギュッと目を閉じるとベッドに身体を横たえ思わず手を合わせた。






リリスの部屋の前には、サファイアを後ろにイネスが立っていた。

イネスが中をうかがい、ピッタリ耳をドアにくっつける。

サファイアが呆れて首を振り、小さく彼にささやいた。


「もうお休みなさいませ。リリス殿も一人になりたい時もありましょう。」


「うるさいな、お前はルビーの様子を見てこい。」


そうっと取っ手を握り力を入れると、ドアは相変わらず鍵もなく開く。

隙間から見ると奥のベッドには、リリスが膝を抱いて身じろぎもせず窓を向いて座っている。

頭の上に留まっている小鳥のヨーコが、くるりとこちらを向いた。

しっと唇に指を立て、うなずく。

静かにドアを閉め、イネスが思い立つとダッと自分の部屋に駆け出した。

枕を抱いて、再び戻るとまたドアを開ける。

隣の部屋に通じるドアから眉をひそめたガーラントがチラリと見えたが、出るなと手で合図するイネスの姿にひっそりと引っ込んだ。

イネスは黙ってずかずか入り、ボスッと枕を並べる。

もそもそベッドに上がり、気合いを入れて枕を叩いた。


「よし、明日も早いから寝るぞ。

あいつらいつ来るか知れんからな、眠れるときに寝ておかねば。

ほら、お前も寝ろ!」


うなだれるリリスから上着をはぎ取り、その上着でリリスの顔をごしごし拭いた。


「うう、痛い、痛いです。」


「お前はほんっとに泣いてばかりだな。

男だろう、泣くな!」


「泣いてません、目に何か入ったんです。」


「ウソつけ、川みたいに涙流してたくせに。

巫子を謀るとバチが当たるぞ。

さあさあ、寝るぞ!」


腕をグイと引いて、服のまま一緒に横になる。

ポンと布団を着て、大きくため息をついた。


「ああ、もう、本当にゾッとした。

兄様がこの城を半壊させたら、地の神殿の権威が落ちる。」


「ああ………セレス様……凄いですね。」


「あれは凄いというか、怖いくらいだ。

小さいとき、兄様が山で修行中に川で滑ってドボンしたのを、ついみんなで笑ったんだ。

そうしたら、無言でいきなりひと山突き抜けるほどのトンネル作ったんだぞ。

ひと山だ!向こうから光が見えたんだ、ホントに!

もーーー、すっごく怖かったというか……ああ、あのゾッとした感じ、お前にはわからぬだろうなあ。」


「ひと山……って、まさか先日釣りに行ったあの?

真っ直ぐそこだけ木が低いのはなぜだろうと思っていましたが……」


「そうだ、あそこ。

ヴァシュラム様がもの凄くお怒りになって、兄様は一週間戒めの間に閉じ込められたんだけど、いつの間にか逃げ出して行方不明。

もう大騒ぎだ。」


ちらと、リリスの顔を見る。

リリスはクスクス笑っている。ホッとして、ポンポンと頭を撫でた。


泣いてばかりです。

辛いことが多すぎるのです。

ごめんね。

今謝っておきます。

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