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86、メイス夜襲

夜は更け、しんと静まる中を兵が交代する。

一寝入りしてきたのか、寝起きのあくびをして窓から星の瞬く空をのぞき込んだ。

まだまだ夜明けは先だ。

気を引き締め、隣国の人々が休むフロアーの廊下で、警護する仲間同士無言で手を挙げた。



剣を枕元において、疲れからかぐっすりとエルガルドが眠った頃、壁のろうそくが消えて黒い煙が上がり、それは次第に部屋を満たして行った。

やがてエルガルドの頭上にポッと青い炎が輝き、炎が大きくなってゆく。

室内が青い炎で照らされる中、炎の中に白い顔が現れた。

その顔は部屋を見回し、ほくそ笑んでずるりと半身を乗り出してくる。

そして片手を頭上で振り、炎を手の中に納めた。

闇に覆われたその少年は、不釣り合いな白い衣に包まれ踊るように一つ回り、大きなため息をつく。


「ふう、まったく厄介な事よ。巫子の結界が強いせいで自ら出る羽目となってしまった。」


面倒くさいとでも言った様子で、その少年、メイスが首筋から頬へ這ってきたトカゲの入れ墨を撫でる。


「ああ、そうだね。これも愛しいリューズ様のため。

今宵は静かすぎる。

さて………始めようか。

その前に……お前は先に永遠の眠りにつくがいい。」



ニヤリと、不気味にメイスが微笑む。

眠るエルガルドに手を伸ばすと、その手から閃光がひらめいた。


バシッ!!


「何ッ?ツッ!」


閃光はエルガルドの寸前で跳ね返され、メイスの指を一本傷つける。


「また結界の罠か!忌々しい!」


身をひいた瞬間、結界を破って窓が開き、ルビーが飛び込んできた。


「お前は!」


メイスが力をふるう間も与えず、ルビーが踏み込みメイスの胸を掌打する。


「がはっ!」


メイスの身体が後方へ吹っ飛び、間髪を入れずルビーは腰から聖水を入れた小袋を一つ引きちぎり、メイスの身体に投げつけると、銀の小刀を抜き彼の胸を刺した。


「ひっ!」



「縛せよ!」



小刀に向け、右手の指2本で指差す。

すると小刀から光りのツタが無数に伸びて、メイスの身体を縛り上げた。


「な、なにが……」


エルガルドがベッドから飛び起きて、部屋の隅で剣を握りしめている。


「おけがは?」


ルビーが聞くと横に首を振り、慌てて外へとドアに手をかけた。

だが、闇のようなもやも晴れずドアはビクとも開かない。


「くく……ククク……」


縛られ倒れたまま、メイスが不気味に笑い声を上げる。

ルビーは唇をかみ、とっさに心で兄を呼ぶ。

セレスも恐らく自分が動いたことは気がついたはず。

なんとか時間を稼ぎ、エルガルドを逃がすことを考える。

しかしそれを見透かすように、メイスがルビーを見てほくそ笑んだ。


「お前はミスリルの血族だな。小ざかしい、半精霊がヴァシュラムの飼い犬!」


「だまれ、魔物に魂を売った下賤が!」


半精霊と言われ、ルビーがカッとしてメイスの頬を殴る。

その瞬間、メイスの左頬にトカゲの入れ墨が這ってくると、ルビーに向けて口から炎を吐き出した。


「はっ!」


思わず身体を引いたが、右足が引かれる。

動かない足を見ると、青いヘビが絡みついていた。


「しまった。」


「汚らわしい手で、我に触れた報いを受けよ!」


ルビーが舌打ち、腰から一本の小さな剣をヘビの頭に投げる。

同時にメイスの身体が青い閃光を放つ。

ルビーの目が見開かれ、その閃光は次の瞬間炎となって爆発的にメイスの身体から吹き出した。





廊下には、エルガルドの部屋の異変に気がつき、兵が武器を持って集まってくる。

だが、ドアがビクとも開かない。


「どけ!」


セレスが駆けつけ、廊下を走りながら腰の剣を抜いて刃に術をかける。

そして着くなりドアへ剣を突き立てた。

剣が閃光を放ちドアを千々に破壊する。

壊れた扉から青い光があふれ、部屋から音を立てて青い炎が吹き出した。


「うわあっ!」

「ひいっ!」


「ルビー!」


セレスが部屋に飛び込む。

窓が吹き飛び白装束のメイスがバルコニーに立ち、クスクスと笑っている。


ルビーはエルガルドを背に、破魔の剣を盾にしたまま目を見開き微動だにしない。

エルガルドは壁にもたれたまま、ズルズルと足下にうずくまる。

しかしルビーは、あまりの惨状に死んでいるようにも見えた。


「ルビー!」


セレスが駆け寄ると、ルビーの手の破魔の剣が崩れて落ちる。

手を触れようとして、目を見開いたまま気を失った様子に思わず引いた。

黒髪が焦げ、紺のツナギの服は至る所が引き裂かれボロボロに焼けている。


「レニン……」


ルビーの本当の名を、セレスがつぶやく。


「セレス様、一体何が……」


兵がセレスの後ろに押し寄せ、そしてゾッと総毛立ち思わず引いた。


セレスの身体が、怒りで震えている。

その顔は、見えないが見えないことが救いに思えた。

巫子にあるまじき、その気配。


セレスの手が、無言でゆらりとメイスに向け上がる。


気がつくとメイスは、顔を引きつらせ恐怖で身体が石の様に動かない自分に気がついた。


「こ……れが……巫子だと?馬鹿げてる……」


凍り付く身体が、逃げることを忘れる。


パシッ!パシッ!


セレスの手首にあるリングが、スパークを上げセレスを牽制する。


「セレス様!」


部屋に飛び込んできたサファイアが、とっさに声を上げルビーの生死を確かめた。


「生きております!ルビーは無事です、セレス様!」


だが、怒りに震えるセレスは、手を下ろすことをやめない。

やがて二人の間の空間が大きくひずみ、メイスは死を覚悟した。



「兄様!!」

「セレス様……ルビー様!!」


遅れてイネスとリリスが部屋に飛び込み、イネスが思わずセレスの背中に抱きついた。


「おやめ下さい兄様!ここには沢山人がいます!どうか静まり下さい!」


セレスを止めるイネスの横で、ルビーに駆け寄るリリスの姿に、メイスが目を見開く。


「生きて……生きて我が前に……リリス!

髪を金に?!そこまでして身分を上げたいか!」


メイスが宙に浮きバルコニーを出ると、人差し指で横に空を切る。

闇が指に沿って空間に裂け目を作り、そこから顔の無い魔導師が二人現れた。


「あれは!!……メイス!!なぜ君が……!」


リリスが叫びを上げ、顔の無い魔導師の恐怖に思わず身をひいた。


「殺せ!破壊せよ!リリスを殺せ!」


メイスが顔の無い魔導師に命令する。

一人の顔の無い魔導師が彼の前に出ると、杖を振り上げた。


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