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85、内政干渉

両断されたと思った手紙は元の姿のまま床に落ち、短剣をしまったセレスが指で挟んで拾い上げる。


「さて、お読みになりますか?」


「そうだな。」


ニヤリと笑うガルシアがうなずき、呆然と見ていた傍らのレイトがあわててその手紙を受け取ってガルシアに差し出す。


「御館様……」


レイトの手が心配なのか少し震えている。

ガルシアは大丈夫だと手を握り、そして何事もなく受け取った。

手紙を広げ、ガルシアが無言で目を通す。

やがて手紙から視線をはずし、騎士に訪ねた。


「手紙の内容は聞いたかね?」


「はい、素性のわからぬ魔導師を何とか排除できぬかと、城のこれからを王女は危惧しておいでです。

私も、今の城の現状は良いものとは思えません。」


「なるほど、トラン王はひどく啓蒙しておいでだと手紙にはある。

どうも、今回の騒ぎは原因がはっきりしているようだな。」


「私も、こちらの現状に驚きました。

ますますあの魔導師に不信感がつのります。

ですが、王と王子は最近ご不幸が続きまして、お話を聞いていただける状態ではないのです。

まして、城内でのリューズ様のお力は大きくなるばかり、しかもあの方のことを調べようとする者は、何故か不幸に見舞われます。

トランであの方に意見する者はありません。

どうか、アトラーナのお力添えがいただければと……」


「わかった、こちらも検討はしてみよう。

だが、他国が内政に関わることは、下手をすれば戦になる。

その覚悟も王女はおありなのかね?」


びくっと騎士の手が震え、唇をかむ。

戦……の覚悟……

それは、助けを借りようとしているこの国と・・・・・。


「そ……れは……」


セレスは腕を組み、壁にもたれる。

じっと、騎士の言葉を待った。





沈黙の重さは、判断の付かない事の重大さに比例する。

答えない騎士に、ガルシアがフフッと笑った。


「言葉で何と言おうと、誰しも平穏な毎日を望んでいる。

戦いを望まぬ気持ちを信じよう。

それは貴方らを大した武装もなくよこした、トラン王の人選を見ればよく分かる。

王女の手助けができるかどうかは分からぬ、だが、現状のままで良しとするには、こちらはすでにあまりにも犠牲が大きいのだよ。

王女には落ち着いて行動されるようお伝え願おう。

貴重な情報、助かった。」


「王女に、返事はいただけませぬか?」


「そうだな、検討するとだけ書いて置こう。

手紙を魔導師にも知られた今、具体的なことを書くのは王女にも危険が及ぶ可能性がある。

貴方もそのことは頭に留め置いたが良かろう。」


「は、元よりこの手紙を預かりましたときから、死は覚悟しております。」


ギュッと唇をかむ騎士は、厳しい顔をして余裕もないのだろう。

それほどリューズという魔導師に対する恐怖は計り知れないのだ。


「命がけか、大儀な事よ。」


ガルシアが、腕を組んで目を閉じる。

そしてペンを取り、サラサラとペンを走らせて一枚書くと、横のレントに渡した。

レントはそれをたたみ、封筒に入れて蝋で封をする。

騎士はその手紙を受け取り、ホッとした様子で頭を下げ部屋をあとにした。


「まあ、想像通りではあるが、どうした物かな。」


騎士が去ったあと、ガルシアが大きくため息をついて目を閉じる。


「さて、どう考えても、その魔導師はこちらとあちらを戦わせたい様子。

いっそ戦いますか?」


クスッとセレスが笑う。

ガルシアはひょいと肩を上げ、ため息を漏らし椅子にもたれて首を回した。


「まったく、俺は剣が苦手なんだ。レントを担いで山にでも逃げるか。」


「ご冗談はここだけになさいませ。

私は遠慮いたします。」


レントが笑うに笑えず、複雑な顔でセレスに椅子を薦めてグラスを用意し、軽い果実酒を注いだ。

今日はひどく足が痛い。でも、それをひたすら隠しているつもりなのに、ガルシアには簡単に見破られてしまった。

確かに、自分は担がれでもしなければ山などはとても無理だろう。


不甲斐ない。


うつむくレイトに、ガルシアがまた肩を揉めと指で誘う。

レイトはホッと微笑み、彼の背後に回って肩を揉み始めた。


「はてさて、どうしたものか。

兵を連れて王宮魔導師をやめさせろと怒鳴り込むと、戦争になるかな。」


「なりますね。間違いなく。

トランは大国と接しているので、兵も魔導師もかなりの戦力ですよ。

アトラーナの平和ボケの兵や、精霊と共にのんびり魔導の勉強している魔導師とは全然違います。」


「ひどい言われようだ。

まあ、精霊の国と言われるこの国はドラゴンの加護があったからな。

皆どこか、最後はドラゴンがと心の中で思っている節がある。

今まで攻め込まれたことがないのも、運が良かったんだろうな。」


「この国は聖域ですから、ヴァシュラム様もお怒りになるとどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。

その辺、どなたもおわかりです。だからこそ、そのリューズという魔導師の真意も分かりません。

もしかしたら……

リューズという魔導師、魔導師ではないかもしれません。」


「魔物かね?」


「さあ、誰かが誰かに操られているのか・・・・会えば分かるんですが。」


ガルシアが、大きくため息をついた。

相手が魔物だろうが何だろうが、こちらに災いしていることははっきりしている。

しかも、それが王の意志ではなく、魔導師が一人でやっているらしいことが自体をややこしくしているのだ。


「こういう時……彼なら、どう答えるかね?」


「彼?」


首を傾げ、セレスが天を仰ぐ。


「まさか、またリリに答えを聞く気ですか?」


少々呆れながらも、リリスの資質に気がついたガルシアに目をやった。


「フフ……本城があの子をいらんというなら、俺が養子に貰おうかな。

あれは磨けばもっと光る、そこらの魔導師で終わるには惜しい。」


「おやおや……でも、それも・・いいかもしれませんね。」


セレスが果実酒を一口飲んで息をつく。

神殿に来るときのリリスは、ルランにいるときのリリスとはまったく違うと、昔セフィーリアは残念そうに話していた。

いかにルランというところが緊張を強いられるか、生まれついてとは言え、監視付きの下働きは想像以上に辛かっただろう。


王子であると認めないなら、また別の王族に引き取られるのもいいかもしれない。

このガルシアなら、ルランの意向などまったく無視して思うように実行するだろう。


本城の奴らは歯がみして嫌がらせするかもしれないけど……


想像すると面白い。

でも、その前にセフィーリアという大きな壁が立ちはだかっているな。


セフィーリアがリリスにしがみついて離さない様子を思い浮かべ、セレスはクスッと笑った。

自国の中に意見することは出来ますが、隣国に意見するのは内政干渉となります。

特に君主制は王様の意見が大きいので、ご機嫌損ねると大変です。

今まで婚姻で作り上げた信頼関係も崩れると、嫁に行った娘達の命に関わります。

戦争になると通れた道も塞がれます。

たいへんです

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