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80、金の髪の少女


「準備が済みましたので、連れて参りました。」


「おおそうか、多少変わったように見えても構わぬ。入るがいい。」


促され、頭を下げてフィーネを持った金髪の少女が入ってくる。

黄色のシフォンのドレスに赤いベルベットの上着が華やかで、ゆるくウェーブの入った肩までの金髪を映えさせる。

少女は顔も上げず、部屋に入るとひざまずいた。


「ふうん、良いではないか。顔を上げ立ってみよ。」


アルマが促すと、少女は立ち上がり渋々顔を上げた。


「ほう……これは」


ため息をつく皆をよそに、イネスが愕然と立ち上がる。

ヨーコが飛び立ち、少女の肩に留まった。


「お、お前!」


「これ!」


セレスが引っ張り、イネスを無理矢理座らせた。

その少女は、女性楽士の姿をして、美しい金の髪に変わったリリスだったのだ。

さすがに瞳の色は無理だったのか、赤い瞳を隠すように髪を結ってある。

ほんのりと薄化粧が、美しさを際立たせてどう見ても少年には見えない。

リリスは皆に見られ、恥ずかしさに頬を赤く染めてうつむいた。


「あの、すいません。お目汚し申し訳ありません。」


何度も謝るリリスの頭をポンと叩き、アルマが額の汗を拭く。


「いやあ、赤い髪には難儀いたしました。擬体魔術の効きが悪うございまして。

この子の魔導力も強うございまして反発したのか、なかなか……

3度目で、ようやくここまででございますよ。

この子の赤い髪は魔導師の間では有名でございますからな。しかし何のきっかけで元に戻ります事やら。」


「良い、この2日ほどの話だ。

戻ったときはすぐに下がらせ、また術をかければ良かろう。」


「またでございますか?!」


アルマが辟易とした顔で悲鳴のように返す。

皆がクックと笑い、リリスを近くに寄らせた。

長老ザールが、ふとその姿に頭を巡らす。


どこかで……見たような……誰かに似ている。


ガルシアがリリスに語りかけ、リリスがホッとしたようにニッコリと微笑み返す。

その二人の様子に、ハッと思わず立ち上がった。


「いかがされた?長老殿?」


「まさか、まさか……あのうわさは……」


金の髪のリリスの姿、それはまさに現王の若い頃に生き写し。

しかし、それを口に出せようか。


確かに、ベスレムから流れるうわさの真偽が、王に関わることでなければ普通はすんなり信じただろう。

だが、それは世継ぎの問題なのだ。

今の王子が世継ぎだと、本城では通っている。

しかし、本城の貴族間では真偽をよそにこの子を持ち上げようとの声もあったと聞く。

それはもちろん、傀儡として現王族の強い力をなし崩しにしようという働きもあるからだ。

今は内乱を押さえる余裕がない。

貴族達が浅はかな考えで自分たちの力を鼓舞しようとすると、必ず内からヒビが入って行くだろう。


「いや、なんでもない。」


ザールが息を飲んで、心を落ち着ける。

そしてそっと周りを見回した。


ここにいる者で、王の若い頃を知るものはおらぬだろう。

それが幸い。


「御館様、使者殿が城下に入られたそうでございます。」


知らせが息を切らせてやってきた。


「よし」


ガルシアが立ち上がり、一同も立ち上がってうなずき合う。




「それでは皆、国のため領民のため、より良く働け!」




「はっ!」




ガルシアが声を上げ、一同が頭を下げる。

そしてガルシアを先頭に広間へと向かった。

睨むセレスを無視してイネスがリリスの手を引き、頬を赤らめて小さく話しかける。


ふと、ガルシアが横の長老に耳打ちした。


「髪が金色になるとベスレムのラクリスにそっくりだな。

キアナルーサの方が全然似てないと思わんかね?」


ニヤリと笑うガルシアは、長老の動揺に気がついたのだろう。

噂のことでカマをかけてきているのか、長老が顔を引きつらせて目をそらした。


「ご冗談を。ただの魔導師に何をおっしゃいます。」


「ククク……」


「年寄りをからかいめさるな。」


まったく、こんな時に緊張感のないことだ。

それでも、このまま見過ごすべきかは後で考えるとしよう。

今は、国の行方を左右する大事の時。

戦いが始まれば、多くの若い命が絶たれてしまう。

それだけは回避しなければならないのだ。


毛の色とは印象を大きく変えるので、顔が似ていても眉やまつげの色が変わると顔の印象はまったく変わります。

擬態魔術は色を変えるだけで無く、人間が動物になったりと術に長けて相性がいいといろいろ出来るようです


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