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7、アトラーナへ

「では、リリス殿よろしいか。」


男女が口をそろえてリリスに迫る。

アトラーナへ行ってもいいと言った彼の気が変わらぬうちに、すぐにと急いた。


「はい、準備いたしますのでしばしお待ちを。」


一礼して部屋を出るリリスに、フェリアも急いでついて行く。

後に残された3人に、ヴァシュラムが睨みをきかせた。


「王子の持つ、ラーナブラッドを日々確かめよ。石が輝きを失った時、それは我らの総意としれ。」


「そのようなこと、アトラーナを見捨てるおつもりか?

隣国のトランが我が国を狙っているのです。今精霊王の後ろ盾を失えば、我が国は戦場と化するでしょう。」


男がゾッと震える言葉を放つ。


「だから心せよと言うている。

ククク、そうよな……それはアトラーナの弱体を語る言葉であろうな。」


「予言とは申されますな。

ヴァシュラム殿はキアナルーサ様に仕えておいでだと言うことを、どうぞお忘れ無きよう。」


「さあ、わしもリリスに付くかな?」



「なっ!」



愕然とする男に、ヴァシュラムがからかうように笑う。


「そうやってそれぞれの精霊王がリリスにご執心であること自体が、混乱させる原因の一つであるとわかりませんか?彼は王族ではないのですよ。」


見かねてとうとうルークが重い口を開く。


「ルーク殿、言葉にはお気をつけ下されませ。

王位継承者はキアナルーサ様ただ一人でございます。」


男が焦るようにささやき、ルークの顔を見る。

ヴァシュラムがククッと笑い立ち上がった。


「そう言うことだ。波風立たせたくなければ、キアナルーサの尻をたたけ。

あれが立派な王になると誓いを立てたからこそ、我らも忠誠を誓ったのだ。しかし我らは人間ではない。」


見捨てることもありえると、暗に臭わせる。



あのリリスこそが本当に、本来の後継者なのか……

まさか……そんなことはあり得ない。

王族の秘匿に関わるなど、宰相殿に暗殺されるやもしれぬ。恐ろしい事よ。


男と女ははっきりと答えを聞くのも恐ろしく、そのまま口を閉ざしてうつむいた。





異世界へと続く道を通り、久しぶりに訪れたアトラーナは、前と変わらない景色でリリスを迎え入れた。

アトラーナの王都ルランにあるこのキアナルーサの住む城は、高台に立つ石造りの中世の城を思わせ、門を中にはいると仰々しく兵が槍を構えて警備している。

案内されて城内へ入り、階段を上がって廊下の覗き穴のような窓からチラと見下ろすと、眼下にはビルなどあるわけもなくただ小さな家々が整然と並んで人々が生活する町が広がっている。


「向こうの世界とは全然違うのう。」


「フェリア殿、遊びではありませんぞ。」


「わかっておる。」


先を急ぐ一行に急かされ、伏し目がちにひっそりと歩くリリスを追いかける。

そして彼を力づけるように、フェリアは彼の華奢な手をしっかりと握りしめた。


「こちらへ」


大きな開き扉をくぐり、守る兵を横目に薄暗い廊下を歩いて行く。

ヒソヒソと囁く声は、やはりリリスの姿のことをうわさしているのだろう。

やがて慌てて女官らしき女性がショールを手に駆け寄ってきた。


「リリス殿、こちらをお使い下さい。城内でそのような姿は困りますので。」


「はい、申し訳ありません。」


やはり当然のように、ショールを整えすっぽりと彼は頭を隠そうとする。リリスには、それが自然なのかもしれない。

しかしむくれたフェリアが突然横からショールを奪い取り、窓からぽいと捨ててしまった。


「我が巫子にかぶり物など不要じゃ!無礼者!」


「な、何という無礼な!」


女官がわなわなと声を上げる。


「申し訳ありません、どうかお許しを。」


どうしたものか、頭を下げるリリスを横目に、フェリアはプイとそっぽを向く。



「よい、下がれ。」



突然彼の前に、大きな男の手が前に出て女官に下がるよう言いつける。

顔を上げると大きな扉の前で、正装し見慣れたがっしりとした体躯をした男が皆を迎えた。


「良い、気にするな。王はお前の容貌をすでにご存じだ。そのまま進むが良い。」


「お父ちゃま!」


フェリアがリリスの手を離れ、その男に飛び込んで行く。

ザレルは小さな娘の身体を抱き上げ、片手で抱いてやれやれとため息をついた。


「お久しゅうございます、ザレル様。」


リリスがキュッと唇をかんで前に出る。

ザレルは逃げても何の解決にもならないと、最後まで異世界へ逃げる事を反対していた。

セフィーリアとの夫婦喧嘩に申し訳なく思いながら家を出たのだ。


「やっと来たか。逃げ回るのをやめる気になったようだな。」


「おたわむれを、私は母上の言いつけを守っただけでございます。ザレル様。」


「様はいらん、私はお前の父代わりだ。昔のようにザレルと呼ぶか、父と呼ぶがいい。

彼女の心配性には困ったものよ、ずいぶん手を煩わせてくれた。

ヴァシュラム殿まで、たわむれが過ぎる。」


ザレルがため息をついて、腰に手を当て背を見せた。


「ヴァシュラム様はかくまって下さっただけで……私が悪いのです。」


リリスがうつむいて手を合わせる。


「さて、覚悟は出来たか?」


問われて答えは……自分が願うのはただ一つ。

その為にここに来たのだ。


「私は……争いを避けるためにアトラーナを出た方が良いと思っていました。

ですが、それは間違っていたようです。

私自身も足を踏み入れねば筋道は通らない。

どうか、王子にお目通りを。」


ザレルが振り返り、ニヤリと笑った。

そしてフェリアを女官に託し、リリスを見る。


「よかろう、王がお会いになるそうだ。

王子のために、お前はここに来たと伝えてある。」


「ええ、私は王子のために何なりといたしましょう。」


「来るがいい。」


先を歩き始めたザレルのあとを、リリスがついて行く。


「リーリ!」


「フェリア様はこちらでお待ちを。」


「う……うん、わかった。お父ちゃまが一緒なら安心じゃ。」


長い廊下を歩きながらザレルの大きな背中を見ていると、守られている気がしてホッと気が休まる。

やがて数人の貴族と女官、そして兵士が並ぶ謁見の間へと通され、皆が膝をつき頭を下げた。


こう言う絶対君主制での公然の秘密というのは怖い物です。

だいたいみんな知ってるけど、口にするのはタブーです。

その噂が広がるのを、誰より何より恐れるのは王族です。

王様の耳はロバの耳、穴掘って言うしかありません

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