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67、王子の側近

部屋へ戻るキアンが、思い立ったように顔を上げ、ふと足を止めた。

振り向いて、何か考えている様子でゼブラから目をそらす。


「いかがなさいました?」


「うん、ちょっと母上に会いに行こうと思う。」


「お后様にで?……あ!」


ゼブラの声に振り向くと、取り巻きを引き連れた貴族院の長が足を止めてこちらに頭を下げている。


「父上!」


思わず声を上げたゼブラに、キアンがポンと肩を叩いた。


「行ってくるといい、久しく会ってないだろう?僕は母上の所に行くよ。」


「しかし……お一人では。」


「一人じゃないし、たまには一人にしてくれよ。」


笑って近くの近衛騎士を一人呼び止め、警護を頼んで先を歩き出す。

ゼブラはその背中に頭を下げ、貴族院の長である父の元へ走っていった。


「お久しゅうございます、父上!」


「久しいな、ゼブリスルーンレイア。元気にしていたか?」


「はい!父上もお元気なご様子でうれしく思います。

あの事件での会議にご出席になられたんですね。今日もお忙しいのですか?」


この事件での非常呼集に呼ばれてきたのだろう。

城内でも良く姿を見るが、父は忙しくこうしてゆっくり話すことは滅多にない。

白いヒゲを蓄え、珍しく穏やかな顔の父は笑うとゼブラの肩をやさしく叩いた。


「このたびの事件、王子に難が及ばず幸いであった。お前も大変であろう。

王子のお世話も身辺警護も、お前の仕事の評判は高い。お前のおかげで今後レナパルド家も安泰であろう。

王子が王となりし折りは、王家との距離も更に近くなる。期待しておるぞ。」


「はい。

そう言えば、オルセウス兄様のご婚礼がお決まりになったとお聞きしましたが。」


「おお、さすがに耳が早いな。

相手は……幼少時にお前と婚約していたグラント伯のミリテア嬢だ。

お前とは名ばかりの婚約だったが、オルセウスとは無事婚礼を迎える。

お前も婚礼には暇を戴いて来るがいい。きっと二人も喜ぶことだろう。」


「ミリテアが・・・・」ゼブラがふと考えて、ニッコリ微笑んだ。


「ああ、彼女には2年ほど前に帰りましたとき、久しぶりにお会いしました。

たいそう美しくなられて……私の姉上になられるのですね。」


父は機嫌良く、大きく何度もうなずく。

よほど嬉しいのだろうと、この機嫌の良さもうなずけた。


「今日は少し、時間があるのだ。お前の部屋にお邪魔するとしよう。」


「本当ですか!はい!喜んで!

父上はお忙しすぎるのです、しばし我が部屋でお休み下さい。」


父と共に歩いて行くゼブラの明るい声に、周囲の兵達が驚いて見送る。

やがて姿が見えなくなると、ホッと息をついた。




その日の夕方、宰相の居室ではレスラカーンが父と食事をしながら、心に決めた重大な決心を父に告げていた。

それは宰相には喜ばしい言葉であったが、レスラの予想通り穏やかに反対された。

書類に目を通すことさえできない彼には、とても高いハードルがそびえていたのだ。

宰相の仕事は、書類に目を通しサインをする仕事も多い。

だが彼の決意も固く、それはライアの負担が増えることを意味していた。



翌日夕食も終わり一息ついた頃合いに、ライアの元にゼブラが訪ねて来た。


「ライア殿、昨日取り決めた宰相殿へのお話。あれはいかがとなった?」


「これは……こちらから出向きます物を。」


ライアが一礼して、椅子を勧めた。

騎士の養子ではあるが元は庶民の出のライアは、この貴族院の長を父に持つキアナルーサの側近が苦手だ。

同じ王族の王子に仕えると言っても、育ちの格が違う。

それを鼻にかけるゼブラではないが、どう接して良いのかライアには不安だった。

ゼブラにお茶を勧め、向かいに立っていると座るように笑って指示された。


「何を固くなっておられる。我らは共に王子にお仕えする身、助け合いましょう。」


「は、はい。あ、レスラカーン様でございますが、昨日お父上様に話はお済みでございます。

分かったと仰っていただきましたので、滞りなく王子のお力になられるかと存じます。」


「そうか、それはよい。こちらも準備は上々、あとは宰相殿の後押しがあれば王子もお喜びになられよう。

ところでレスラカーン様は少々お変わりになられたと昨日感じましたが。」


「はい、昨夜お父上様とお話になられましたとき、ご自分もキアナルーサ王子をお手伝いになられたいと……」


「つまり宰相殿の跡目に?」


「はい、しかしお父上様は荷が重かろうと反対なさいましたが、レスラカーン様の決意は固いご様子です。」


ゼブラが茶を飲み、少し考える。


「しかし……レスラカーン様は外と接する機会がこれまで少なかったのでは?

私もこう申してはなんですが、王子の右腕となられるには少々……」


レスラカーンに対する無礼は承知で言葉を濁す。

ライアもそれは覚悟している。

ニッコリ笑って首を振った。


「いえ、ずっとそばにお仕えして私は分かっております。あの方は幅広い知識にあふれ、聡明で慈悲深いお方。

きっと王子のお力に」


「ならば!」


ゼブラが突然話を切る。

その顔は非常に厳しく、ライアも初めて見たものだった。


「そのお力をお見せいただきたい。

それに昨日の発言のご様子を拝見しますと、王子と王のご関係が悪いように聞こえます。

騎士長の前でしたからお気が緩まれたかと存じますが、下の者に誤解を与えるようなご発言はお控えなさるよう願います。

無礼は承知の上、このゼブラがそう申していたとお伝え下されませ。」


強い言葉に、ドキッと身体がすくんだ。


「はい、私も気づかず失礼をいたしました。

今後気をつけられますように主にも申しますので、どうか今回は穏便に願います。」


固くなるライアに、ゼブラが微笑んだ。


「おわかりいただければ良ろしいのです。今日はこの辺で。

これは私が気づきましたことで、王子からは特にご不興は買っておりませんのでご安心を。

では、よしなに。私はこれで失礼いたします。」


「はい、今後ともどうぞよろしゅう願います。」


穏やかそうで、怖い方だ。


ゼブラが部屋を出たあと、リンリンと隣室のレスラから呼び鈴が鳴った。


「お呼びでございますか?」


「すまないが、この書物を読んでおくれ。父上に、読んでおくよう頂いたのだ。」


「はい、承知いたしました。しばしお待ち下さい。」


本を受け取り、ろうそくの明かりに照らして読んで聞かせる。

彼の目であるライアの重要な仕事だ。

目録に目を通していると、クスッと横でレスラが笑った。


「ゼブラが来てたようだね。声が大きいからすっかり聞こえてしまったよ。

いや、聞こえるように言ったのかな。」


「怖い方です」苦笑いで返す。

レスラの様子を気にするように探ると、それが見えているように顔を上げた。


「彼は彼なりにキアナルーサを一番心配しているんだよ。

キアナはなかなか自信を持って話さないところがあるから、つい横から口を出してしまった。私も悪かった、注意するよ。」


「王はお加減が良くないので、王子もご心配なのでしょう。

お后様もずっと伏せっていらっしゃいますし、王子もお気の毒です。」


「そうだな、キアナが隣国の姫とのご婚礼が決まったとたいそう喜ばれていた頃は、お二人ともとてもお元気だったのに。

隣国との関係が悪化して、ご心配が増えられたのだろう。

早くこの問題が解決でき……れ……ば……」


不意に、レスラカーンが立ち上がった。


「いかがなさいました?」


「ライア、ライア、杖を!父に会わねば!」


ライアが慌てて杖を渡し手を取る。


「どうなさったのです?」


「わからない、これははっきりした事ではないし……でも、少しでも可能性があれば父に話さなければ!」


「可能性が?」


「そうだ、城内で体調を崩したら誰が薬を作る?」


「それは……医師が診たあとは薬草を魔導師殿が……あっ!」


「すぐに、薬湯を飲むことをお止めしなければ。父が進言したら、聞き届けていただけるだろう。」


「はい。」


手を引かれ、部屋を出るレスラを窓辺にとまる青い蝶が見送る。

蝶はひらひらと舞い上がり、そしてフッと消えた。

ゼブラ・・ゼブリスルーンレイアの父親は、公爵家の貴族のトップである貴族院の長です。

王子の側近は王子が王になると、自動的に王の側近となるのが通常なので、結局最後はお家のためにもなります。


ゼブラは元々家を継ぐ予定だったので、小さい時から愛らしいと評判だったミレーニアと婚約していました。

ミレーニアは貴族院の長を務めるレナパルド家の嫁にと親同士が取り決めているので、家を継ぐ人が夫になります。


ゼブラは側近に上がることが決まると、ミレーニアとも別れなければなりませんでした。

ミレーニアの家は爵位では2つ下なので、問答無用で意見も言えません。

ゼブラの父親は、貴族の中では大変恐れられている人物です。

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