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66、王子たち

木を隠すなら、林の中・・・・


フェリアが魔導師の塔は、沢山の匂いがあってわからなかったと言った。

魔導師であれば、精霊のことは知っているはずではないのか?

ならば、気がつかれる前に口封じを考えたと思うのは自然だ。

まして今、ここにはザレルの妻となったセフィーリアがいる。

普通を装う人間が、ますます気がつかれてはまずいと思うはずだろう。


「まさか、魔導師の塔の?」


ザレルが腕を組み考える。


確かに。


フェリアは精霊の姿の時に塔の方向へ手を伸ばしていた。

そして意識を失う前、見つけたと言ってなかったか?


「魔導師の塔か……娘は確かに精霊の姿で塔の方に手を伸ばしていた。調べた方がよいのかもしれんな。

俺もこの騎士長の職に就いたとき、魔導師の塔には手をつけるべからずと言われてきた。

あそこは城中にあって、城中ではない魔導師の城。

何代か前の王が、城の守りを固めさせるために他の土地から移させたと聞く。

それがこうして裏目に出るとは思いもしなかったであろう。」


ザレルの言葉に、レスラが顔を上げた。


「しかし厄介な事だ。彼らが素直に調べに応じるとは思えぬ。

私は直接彼らに会うた事は数えるほどしかないが、王の覚えも高く口を出すことさえままならぬ。

キアナルーサはいかがか?」


「え?あ、ああ、うん、そうだな。」


キアンが魔導師達を思い浮かべ、首をひねる。

だが、自分も説教されることはあっても、意見を言ったことなど無い。

いくらか親しいと言えば、遠見のルークくらいか。


「僕も……特に……そうだな……

わかった、僕からも王に言葉添えをしよう。

父に許可を得られれば、塔の者達も黙って応じるだろうから。」


でも、父は自分の話を聞いてくれるだろうか。

自信がない。

これまで一つとして、自分の言うことにうなずいて貰ったことが無いのだ。


レスラが不意に顔を上げ、うなずいた。


「私も父に今夜、力になってくれるように話してみよう。

今は王伯父もお身体の具合が悪く、あまりお話を聞いてもらえぬかもしれない。

キアナルーサの力になるように、私も父に頼んでみるとしよう。」


「そうか!そうしてくれると助かるよ。

じゃあ、明日にも宰相叔父に会いに行くからよろしく頼む、レスラ。」


「わかった。」


レスラの助け手で、キアンの顔がホッとゆるむ。

後ろに立つゼブラが、少し眉をひそめチラリとライアを見た。


ザレルが腕を組み、渋い顔で目を閉じる。

まさか、敵の手下が城内にいるとは考えたくはない。

が、すべて考えられることには手を打っておいた方がいいだろう。

娘が命がけで与えてくれたヒントを無駄にしたくなかった。


「では、こちらも手を回し、王子のご指示をお待ちする。よろしいか?」


「わかった。ではザレル、調べをどうするかは、そちらは頼むよ。」


「了解した。こちらは塔へ踏み込む際には部下を同行させるようにするとしよう。

俺自身が赴くと、長のゲール殿にも反感を買うことになろう。

恐らく宰相殿も、同じ考えで配下の方を送られることだろう。

話を聞くだけと言う空気を作ることも大切かと思う。

今回は、揺さぶりをかけて様子を見ることが先決。

あとは……王子の采配次第だ。よろしいか?」


「う、うん、わかっている。」


キアンが緊張感に固くなる。

この問題には、率先して当たらなければならないだろう。

これは、父に認めて貰うチャンスだ。

結果的にどうなろうと、精一杯がんばろう。今はそれしか考えられない。




話を終わり、キアンと共にレスラ達も部屋をあとにした。

部屋に戻るキアンを頭を下げて見送り、レスラカーンが顔を上げる。


「私は……ひどい顔だったろう?」


一つ大きな息をつき、たもとで涙のあとをふいた。

心の中のショックが、ようやく落ち着いて一つの決意に変わってきている。


「いえ、お変わりなく。なにか?」


「なんでもない。

ライア、今夜父上にお時間をいただきたいと伝えてくれ。」


「はい、お伝えいたします。ではいったん部屋へ戻ります。

お疲れでございましょう、部屋に戻りましたらなにか口当たりの良い物をお持ちいたします。

とにかく、おけがが無くて何よりでした。」


レスラがライアに手を引かれながら、ギュッと手を握った。


「ライア、私は立つことにした。」


それが何を意味するか、ライアにはよく分かる。

もう、今までのレスラと違う、この方はひっそりと生きることをやめるつもりなのだ。


「はい、ライアも死力を尽くし、お側におつかえいたします。」


「すまぬ、迷惑ばかりかけるな。」


「いいえ、私はそのお言葉をお待ちしておりました。そう……思います。」


「そうか……父には恐らく、無理だと言われるだろうがな。」




ゆっくりと部屋へ向かう二人のあとを、青い蝶がひらひらと追い、そして廊下の壁にある飾りに留まった。





『寝た子を起こしたか……』




蝶から、ぽつりと声がした。

ゆっくりと羽を動かし、廊下の影の暗闇を向いてその毒々しいまでに青い羽を開く。


『援軍を襲ったことで開戦するかと思ったが、なかなかそう簡単には行かぬ』


もう一つの声が、ひっそり暗闇からささやくように聞こえてくる。


『今の王は、王族で争い無く上手く助け合っている。

宰相を揺さぶって、かえって敵を増やしていたのでは何事も進みがたい。

難儀な事よ……やり方を変えよ』


『うるさい、命令などするな下賤が。

この失態、お前の玩具が引き起こしたこと。この借りはいつか返して貰うぞ。』


風に吹かれ、飛び立つ蝶がレスラを追って飛んでゆく。


『下賤か……ククッ、人間ごときが滅びの道を進むがいい。』


不気味なかすれた笑い声が響いて暗闇に赤い相貌が光り、それはやがて閉じて消えた。


王族の王子で王位継承権の上位にいる2人です。

王は3人兄弟なので、王の死後、もし宰相とラグンベルクが名乗りを上げるとそこで大変なことになります。

だから、いわゆる精霊王を訪ねる旅は継承争い回避にもなります。

王にとっては自分が継いで欲しい人間を旅に出せばいいので、都合のいい決まりです。

とは言え、やはり物言う力の強いラグンベルクを子のいないベスレムへ養子に出したのも、親心かもしれません。

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