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65、見えないだけ

二人がザレルの部屋に近づくと、奥からレスラカーンの大きな声が聞こえた。


「フェリア、きっと戻ってくるのだ!私はいつまでも待っているから!」


キアンの足が止まった。

彼はまるで、恋人に別れを告げているようだ。


「あいつ、あんな小さな子に何言ってるんだ?」


「残念なことに、姿はお見えになりませんから。」


「まったく、何も見えない者が何か役に立つわけでも無し、邪魔にならぬよう部屋でじっとしてればいいのに。」


ゼブラが部屋の前にいたザレルの部下に告げる。


「王子が騎士長にお会いしたいと仰せだ。」


「お待ちを」部下が頭を下げ、部屋をノックした。


「キアナルーサ王子がお見えであります。」


ドア越しに声をかけると、中からライアがドアを開ける。

騒ぎのあとで、髪が少々乱れたライアは疲れたような顔をしている。

キアンの姿に慌ててピンと背筋を伸ばし、一礼した。


「これは王子、このような所までわざわざ足をお運びに……」


「よい、レスラ何をしている。叔父上が部屋でじっとしているよう、言われたのではないのか?

叔父上にご心配をおかけするな、あまり城をうろうろと……」



「キアナルーサ王子」



レスラカーンが、聞いたこともない張りのある声を上げた。


「な、なんだ、びっくりした。」


レスラカーンが立ち上がり、キアンの声のある方に向いてキッと顔を上げる。

酷く焦燥した顔は泣いていたのか眼が赤く、どことなく今までのふわふわとした存在感のない彼とは大きく変わったイメージを受けた。


「このたびはご迷惑をおかけした。

結果的に城を荒らし、フェリア殿を危機に追い詰めてしまったことをお詫びする。

私が彼女と何をしていたのか、王子にもお話ししよう。」


「あ、ああ、それを聞きに来たんだ。

これはセフィーリア殿、良く帰って来られた。」


セフィーリアがいちべつして軽くうなずく。


「我が子の危機に駆けつけるのは当然のことじゃ。

見ると他のドラゴンは来ておらぬようじゃが、呼ばずとも良いのか?」


キアンがぎくりと目をそらした。

おおやけに呼んで誰も来ない時を思えば、今は使いを出すくらいしか勇気が出ない。


「良い、おまえ達はアトラーナの守護精霊。

契約をしている僕が呼べばいつでも駆けつけよう。

とりあえずはお主がここにいる、心強いことよ。頼りにしている。

ザレル、邪魔するぞ。」


何かレスラの雰囲気に気圧されるように、キアンがゼブラのすすめるイスに座る。

それぞれイスにかけ、落ち着くとレスラが一つ深呼吸しながら頭の中を整理して、丁寧に語り始めた。

頭に浮かぶのはフェリアの明るい声、そして暗い声、嬉しそうに笑う声。



見えないだけだ。



見えないだけ、そのことに、どれだけ自分は隠れていたんだろう。



暗闇に隠れ、ただおびえるように耳をふさいでいた。

フェリアは小さな身体で、精一杯自分にできることをしていたというのに。

彼女はまるで見えないことなど忘れたように、自分と接してくれた。

私を命がけで救ってくれた彼女に、私は……応えねばならぬ。



レスラカーンはフェリアに聞いた、精霊の放つ香のこと、魔導師が精霊の力を増幅して力をふるうとき、その香も強くなる。使者が死んだ事件で変わった香りに気がつき、それを探していたことを簡潔にまとめ話して聞かせた。


「そうか、隣国の王女の使者が燃えた事件、あの時精霊の香りがしたと?

確かにあの時、あの子の様子が違っていた。そうか……それに気がついたのか……」


ザレルがため息混じりで、そして険しい顔になる。

思い返せば、確かに何かに気がついたようでもあった。

あの時は、あの惨状を子供が見るべきではないとの思いが先に立ったが、話を聞くべきだったのか。


「……で、私は相談を受けましたが、その香りは精霊にしかわからないというのです。

彼女が一人で探すというのを止めて、召使いの女たちに紛れ探すように手を回しました。

食事の世話は、城内の者と接する機会も多いでしょう。

ですが、結局はわからなかったと嘆いていました。」


セフィーリアが大きく頷きザレルを見る。


「確かに、あの子は良いところに気がついたのであろう。しかし、父に言わなんだのはまずかったのう。きっとザレルに褒められようと気負ったのであろう。けなげな子よ……」


母であり、自分の分身であるフェリアの気持ちはよく分かる。

娘の性格を思い、夫婦が大きくため息をついた。


「しかし……するとその間、接触の無かった者であると仰るか。

食事の世話をする女たちと直接接触がないと言えば、身分の高い者ばかりになるが……」


ザレルの頭には、次々と高位の身分の人間が浮かび上がる。

確かに、一筋縄でいかない偏屈な人間も多い。

だが、この国を売るような人間が果たして……


「もしくは……木を隠すなら、林の中と。」


ライアがつぶやいた。

障害というのは、たとえ生まれてからそれが普通にあったとしても、何かを負い目に、例えば人の手を借りなければならないという事を負い目に感じた瞬間、障害と感じます。

レスラカーンは目が見えないから何もできないと、周囲から思われていることが負担でした。

何が正解か、本城で暮らして迷いが出ているときフェリアが現れて、自分を頼ってくれたことが大きく背中を押します。

彼はようやく開眼出来たのです。

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