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62、一の巫子セレス

翌日早朝、

もう一人の地の神殿より来た巫子セレスがレナントの城へ着いたとき、城は緊張した空気が漂い、皆落ち着かない様子で隣国の使者を迎える準備をしていた。


セレスはイネスより一つ上の神殿の第一の巫子、最高位の巫子だ。

皆、彼が来ることは噂となっていたので、いつ来られるかと浮き足立つように心待ちにしていた。


グルクが降り立ち彼が着くと伝達が城中を巡り、ひと目姿をと駆けつけ、手を合わせて頭を下げた。

その美しさは隣国まで知れ渡るほどで、彼がフードを取るとストレートの肩までの金髪がふわりと風になびく。

チラリと視線を寄せるとエメラルドの瞳が吸い込まれるように美しく、周囲からはため息が漏れ聞こえた。


「良く、よくおいで下さいました。

皆心待ちにしておりました、ご無礼をお許し下さいませ。

おお・・相変わらず、なんとお美しい・・・

私は・・・」


「御長老キナリス殿お久しぶりでございます。

レナント城は相変わらず美しく、空から拝見して戦闘の跡にため息が出ました。

少しでもお力になるようにとヴァシュラム様から拝命しております。

2の巫子イネスと共に、存分にお使い下さい。」


「勿体なき、まことに勿体なきお言葉。

当主ガルシアは朝まで会議でありましたので、今少々休んでおります。

どうぞ客間でお待ち下さい。ただ今ご案内しますので。」


「お気遣い無く、こちらへは何度かお邪魔しましたので。

皆さんもお仕事に戻られるようご伝達下さい。

ああ、良い風ですね。おや?あれはイネスではないか?」


案内される方へ向かっていると、イネスとリリスが走ってくる。

相変わらず仲のいい二人に苦笑しながら、連れてきた身の回りの世話をする少年カナンに、荷物を部屋に運び込むよう指示した。


「兄様、早かったのですね。」


息を切らせ、イネスが嬉しそうに駆け寄った。


「ああ、寒くて早くに目が覚めたので、夜明けと共に出たんだ。

霧が出て、ひどい湿気で参ったよ。」


「湿気?大丈夫かな、いい音出るかな。」


イネスが振り向き、荷物の所へ向かうカナンと言う少年に声をあげた。


「カナーン、荷物にフィーネがあっただろ!」


「はい!ございます!」


慌てて引き返して、カナンが息を弾ませる。


「持って参りましょうか?」


「ああ、でも状態はどうだ?」


「大丈夫だと思います。野宿があると聞いて湿気に左右されないよう、センネの木の箱に入れて参りましたし。」


「そうか、あの箱なら大丈夫かな。じゃあリリに渡してくれ。」


「はい、まだグルクの背にありますので出して参ります。」


ダッと駆けだした彼を見送り、リリスに声をかけた。


「リリ、先に行って。俺は兄様と一緒に公に会って行くから。」


「はい。では先に行って調律を済ませておきます。」


カナンを追って行くリリスの後ろには、ガーラントがぴったりと付いて歩く。

セレスがイネスに、クスッと笑った。


「おや?あの騎士はリリの護衛かい?イネスの恋敵だね。」


「誰が恋敵ですか!俺は親友です!」


「おやおや、リリがいるからフィーネを持って行くと聞かなかったくせに。

フィーネは人の心をいやし、また恋を語る楽器でもあるよ。

だだっ子の親友は疲れるだろうな。くくっ」


「もう、男同士で誰が恋を語りますか。

フィーネは神事ですよ、神事!兄様は意地悪ですね。」


むくれるイネスに、サファイアがぽつんとつぶやく。


「昨夜はリリス殿の所へ、夜這いに向かわれたようですが。」


「ばっ、ばかっ!お前は口が軽い!」


顔色を変え、チラリとセレスの顔を見る。

セレスはにっこり微笑みながら、目はちっとも笑っていなかった。


「イネス、帰ったら話があるから。」


「に、兄様〜」


「巫子らしからぬ言動は控えるように。」


「はい。」


浮かれたイネスがシュンとする。

後ろで、プッと吹き出すサファイアとルビーの声が聞こえた。


くそー、神殿に帰ってからいじめてやる。


イネスはうつむいたまま、グッと拳を握りしめ固く心に誓った。




そうして客間に通され、謁見ではガルシアの言葉も短く、どうも仮眠の途中だったらしい。

ずいぶんと濃いお茶を流し込んで、無理矢理覚醒を促している様子だ。

しかし隣国の使者が午後に到着予定のため、その迎える準備をしていると忙しそうだ。


「使者には不穏な動きも見られないと言うことだ。

問題の魔導師殿の部下も同行者にないということなので、巫子殿の出番はないかもしれぬ。

未だ隣国とは友好国の協定を破棄してはいない。

こちらも後ろに武装した騎士は控えさせるが、表向きは歓待を持って迎えるつもりだ。

だが、気は抜けぬのでよろしく頼むぞ。」


「はい、しかし……本城からの増援が襲われたと聞きましたが。」


セレスの言葉にガルシアが、大げさにため息をついた。

それは宣戦布告かと城内が大きく揺れて、また城下の町も大騒ぎになったことを治めるのにたいそう苦労したため息でもある。

とりあえず、本城が決起にはやらなかったことが救いだ。

戦争となれば、ここトランとの国境の町レナントが戦場になるのは必至。

それだけは避けなければならない。


「あれは敵の正体が見えん、早々に隣国の魔導師と断定は出来かねる。こちらも調査中だ。

襲われた者の話を聞けば、隣国の魔導師の暴走とも思える。

叩かれて、すぐに声を上げるのは今は避けた方が良かろう。

死者が出たのは辛いが、誰も戦争など願ってはおらぬよ。」


「はい、神殿も戦いの回避のために我らをここへ派遣しました。

それはヴァシュラム様のご意志。

ヴァシュラム様は隣国の王ともご親交がございましたゆえ、きっと力になりましょう。」


「うむ、では使者が来るまで休むと良い、お疲れであろう。部屋は準備させている。

少々騒がしいかもしれんが、耳をふさいで我慢してくれ。」


「ふふ……はい、それではお言葉に甘えて、そうさせていただきます。」


部屋を出ると、セレスが小さくため息をついた。


「ガルシア殿もお疲れのご様子だな。」


「は、昨夜は朝方まで会議であったとか。

しかし、強い緊張感があまり感じられないのも、あの方らしいかと。」


サファイアが頭を下げる。

横でイネスがパッと駆けだした。


セレスは面食い疑惑のヴァシュラムのお気に入りですが、顔で一番を勤めているわけでは無く、器量も力も誰もが認める器を持った巫子です。

男ですが大変な美人で、近隣諸国にも広く知られて有名でもあります。


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