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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、

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583、国境の道を帰る

ぐううううう


またマリナの腹が鳴って、ゴウカが頭を下げた。


「お食事の準備を致します。」


「いや、そうだな。

赤がよく行ってただろう、面白そうだから食堂に行ってみよう。」


「では、お着替えを。」


言われて、下着に薄衣しか羽織ってないことに気がつく。

立ち上がると、2人が服を着せはじめた。


「食事を取ったらまた出ようと思う。

赤を見つけて連れ戻さねば。

その前に、一度主様に挨拶に行く。


ガラリアめ、まだ力の加減も出来ぬクセに、迷惑なことだ。

文句を言ったら、すまないと言っていた。

すまないで済むか、阿呆が。

ことごとく地の神殿は利用させてもらおう。」


最近のマリナの服は、神官たちが持ってきた真白い精霊の布だ。

大きな一枚布を身長に合わせて上を折り、それを巻いて両肩をブローチで止めたり結んだりする。


ブローチは地の精霊の細工物をもらったのだが、水晶に濁りがあると腹を立てて使おうとしない。

結局リリスが昔、髪を隠すショールを止めるのに使っていた、葉っぱの木彫りに針金を付けただけのブローチを、なぜか勝手に使っている。


ベルトをすればいいのに、マリナはベルトが窮屈だと嫌いだ。

だから風が吹けば盛大にめくれ上がることがあるので、急いで誰かが押さえる。

それが面白くもあるが、ちょっと困った事でもある。

下はパンツとシャツで、まともに下着姿をさらしてしまう。

ブローチをいくつも持っていないし、貴重な精霊布にあまり金物の針を通したくない。


すると、ゴウカが両手で差し出し、1本のベルトを見せた。

金糸で編んであり、一方の先端には豪華な房があり、もう一方の輪を通してぶら下げた形になる。

適度な重さがあって、ドレスを押さえるのだ。


「王妃より、献上のお品でございます。」


「は! 献上するものか、この王族が。

私をこんな粗末な部屋に住まわせておきながら。」


笑ってみせると、更に頭を下げた。


「献上のお品だそうでございます。

初めての御献上品が、このような品で申し訳ないと。

ですが、王がお若いときに使われていた由緒あるお品だそうで。」


ふうん、確かに、見た目豪華だ。

でも、あまり使ってないように見える。

あの王のことだから、派手すぎると思ったのだろう。


「それはそうだろう、王が使っていたならな。

まあいい、使ってよい。」


「は、では失礼致します。」


緩く斜めに腰に収まり、少し重さがあって馴染みがいい。

使い勝手がいいのが腹が立つ。


「次は豪華な神殿を建てて見せよと伝えよ。」


「は、」


「地の王ばかり好待遇しおって、どんな裏取引があるのか知れぬ。

だが、新しい地の王、出来ぬと言っていたクセに、あいつは穴を塞いで見せたぞ。

それも、異界人の命を使ってだ。思い切ったことだが、あれは収穫だ。」


にいいっと、マリナが見た事もない悪い顔で笑った。


「命で? 壁を作るのですか? 」


「異界の男で壁を作ったのだ。生きた壁をな。

まさか、精霊王が命を使うとは思わなかった。

だが、確かに1個の人間を使えば、安定した壁になる。

これは、大きな発見だ。

赤が目覚める前に、眷属の解放が叶うかも知れぬ。」


「で、ですが、いったい誰の命をお使いに…… 」


「差し出す者には家族に恩恵を与えよう。

いや、罪人の命を使ってもいい。

あんな絨毯一つ動かせないなど屈辱だ。

この事は赤には言うな。絶対だ。」


話すマリナの表情が、不気味な影を落として見える。

ゴウカが頭を下げながら、これは不味いことになったと思った。


今まで塞げなかった異界への壁を、塞ぐ手立てが出来たのは喜ばしい。

だが、まさか人の命を使うとは。

マリナ・ルウは、代々穏やかな全ての命を慈しむ母のような存在だった。

だが、このマリナはまったく違う。

これをなんと言ったらいいのだろう。


いや、あの穏やかで包容力のある赤様に、何度的外れのことを我らは言っただろうか。

下卑て育ちが悪いと。

我らは青様のお力に安心して、性格に目が行かなかった。

この方も、神殿の無い過酷な中でお育ちになったのだ。

赤様が隣にいる青様と、いない青様では大きく落差があるように感じる。

これまでは赤の巫子を青の巫子が押さえるのが普通だった。


だが、この青様は…… 気が抜けぬ。


しかも、この二人の巫子は、これまでのどの巫子よりも力を持っている。

リリスが目覚めない今、自分たちに抑える事が出来るのか、不安が大きくなった







ガラガラガラガラ


国境を進む馬車に、トラン兵に同行する女が気になる素振りで振り向く。

助けを求めてきた女は年若く、まだ10代の少女にも見える。

薄いグリーンのコットンスカートはすそが薄汚れて、逃げるときに転んだのだろうか。

頭には赤いスカーフをして、裾から見える髪は金色だ。

だが手に持つカゴには、何も入っていなかった。


「お使いというのは、何か届けたのかい? 」


馬上から不意に話しかけられて、少女が振り返った。


「え、ええ、お土産に木の実を頂いたのに、逃げているうちにこぼしてしまったわ。

怒られちゃう。」


ああ、それで何も入ってないのか。


「あの…… お偉い方の行列なのでしょう?

あの馬車には誰が乗っていらっしゃるのかしら? 」


目をキラキラ輝かせて、後ろの馬車を見る。

誰がとは言わないで欲しいと聞いていたので、トラン兵は言葉を濁した。


「ああ、お偉い方だよ。我らは道案内さ。まあ、丁度用があったのでね。」


「そう、運が良かったわ。」


笑う顔はひどく愛らしく、トラン兵をホッとさせる。

少女はポンポンとスカートを叩いて、なぜか一度、ピョンとスキップした。


道は一本道だが、近隣の村への横道がポツポツと現れる。

川が近いだけに生活の場も近いのだろう。

川への道は道らしくない道もあり、水を求めて行きやすいように草木を刈ってある。

山手の国境だけにあまり旅人は多くないが、重い荷物を積んだ交易商人の馬車は行き来しているのだろう。

橋が近くなると浅い轍も見えて、馬が歩きにくそうにしている。

しばらく行くと、少し広い川へ行く横道が見えた。

ギリギリ馬車が通る道幅だが、その橋の向こうはまだアトラーナではなくケイルフリントらしい。


「ケイルフリントに入ると深い森なので、日中でも薄暗くて安全にとは言いがたい。

それに、橋を渡ったら先の急な坂を上り、山道へと出ることになる。

アトラーナへは下りの坂が続いて、馬車は慣れていないとかなり危ない。

大回りの馬車道もあるが、砦城まではかなり距離があるのだ。」


「なるほど、向こうの国は川向こうの崖か。本当にここは国の境なのだな。

それにしてもこの地形は、攻めにくく、守りやすい。」


「我が国とケイルフリントは、この地形のおかげであまりいざこざはないのだが、ティルクには頭を痛めている。

数ヶ月前、ティルクの貴族に嫁に行かれた姫が、夫の粗相で共に殺された。

2国の橋渡しになればと希望を持って嫁がれたのに、ひどい仕打ちだ。

おかげでティルクとは、更に関係が悪くなった。」


「粗相くらいで殺されるのか……

そりゃあ、本当にティルクの民は大変だな。」


「ああ、あの様子では、まだティルクの残党もいるかもしれない。

もう少し先の、アトラーナと繋がる橋を渡れば、その先にアトラーナの砦城の関がある。

そちらを渡った方が良かろう。」


「わかった、よろしく頼む。

お嬢さん、あなたはどちらへ? 」


アトラーナ兵が問うと、少女が振り返ってニッコリ笑った。

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