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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、

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582、リリスがいないことに気がつく

一瞬で消えたマリナの精神体に、思わずグレンが顔を隠す前垂れを跳ね上げ、聞いたこともない声を上げた。


「あああああああああ!! なんと言うことをしてくれた。

今こそ青様の千里眼が必要なときであるというのに。」


ガーラントが、もっともだという風に、神妙にうなずく。


「ふむ、立ち去るとは思いがけぬ反応だな。

あのくらいでへそを曲げるとは、まるで子供かご老人ではないか。」


「なにをのんびりと! あのお方は黄泉で長い時を生きておられる。

現世では年若いが、精神は御長老なのだ! もう少し言葉を選んでいただきたい! 」


「あいわかった。次から注意しよう。もう遅いが。」


グレンが、大きなため息をつく。


「これで周囲の不審な者は自ら探さねばならぬ。

自分で傷害を増やすことになるのだぞ。」



「わかった、申し訳なく思う。

だが、こうも簡単に離れるとは、ふむ。

もしかして、探しに行ったのではないのか? 」


「探しに? 」


思いがけない言葉に、リリスの顔を見る。

確かに、ここまで目を覚まさないのは、精神体を飛ばしているときの様子とそっくりだと思う。


「なるほど、赤様はここにいないのかもしれない。

青様はそれに気がつかれたのか。

巫子様は我らと違って精神体で自由に行動される。

我らはお身体をお守りするよう託されたのだ。」


しかし、赤様がいないと、こうも状況がきびしくなるのか。

とにかく、日の神と青様はもっとも気難しいお方。

気を付けねば。


マリナは見かけと違って偏屈な所がある。リリスがいないと顕著だ。

だが、またすぐに現れることを期待して、外をゆくオキビにさらなる警戒を指示した。




砦から来た4人の道案内は、先の町に用があるらしい。

国境の川を渡る橋の近くまでと言って、シニヨンに乗ってきた。

国境を渡る橋の位置は、特にわかりにくい。

アトラーナに入れば、あとは日の向きと山の位置で進む方向はわかる。


毛並みが茶やグレー、白や黒と多彩な大型猫のミュー馬と違って、シニヨンは首の周りに薄くグレーの毛が生え、斑点のある緑の身体に青いラインが頭から背に数本入った大型のトカゲだ。

前脚は小さく、立ち上がって歩くわけだが、後ろ足が大きく進化し、鋭い爪で地面を蹴って進むので、ミュー馬の倍はスピードが出る。

その代わり、スタミナは無いらしい。


「何が餌なんですか? 管理しやすいので? 繁殖は? 」


シニヨンが珍しいアトラーナの人間が、トランの道案内を質問攻めにしてしまう。


「いや、私は南部の出なのでミュー馬の方が馴染みがないのです。

だからミュー馬と比べてとはさっぱり。」


「なるほど、我らは馬といえばこれなので、珍しくて質問してしまいます。ご自分の馬で? 」


「ええ、メルダといいます。

よくがんばってくれます、南部の家にはメルダの子が3頭いますよ。」


男は、ずいぶん可愛がっているようで、首をなでるとメルダは頭を上げて首を振る。

知性が低いのかと思ったら、飼い主をちゃんと理解しているようで、アトラーナ兵は驚いた。




しばらくすると、馬車が止まった。

馬車の外で周囲を警戒するオキビが、小窓の下に来る。

中にいるグレンが、壁越しに小さな声でささやいた。


「何があった? 」


『前で女性が助けを求めているようです。見てきます。』


グレンが前に行き、御者台から望む。

若い女が一番前を行く者に何か叫んでいる。

御者台のブルースが、近くの兵に話を聞いてグレンに伝えた。


「地元の女らしい、トランの方が行かれたようだ。助かった。」


「離れた場所での保護であれば問題ないか…… 」


「馬車に近づけないよう頼むか。」


「頼む。」


ガーラントが、後ろから何があったのかと問う。

説明していると、外から次々と伝わってきた。


「前で女性が助けを求めていると。今様子を見に行って……

盗賊に追われたそうだ。このままトランの方と同行すると。」


「こんな所で? 女が1人か? 」


グレンも、確かに腑に落ちないと思うが、女性は砦の近くの村へ寄った帰りだという。

怪しいと言っても、事実そうだと言われてはどうしようもない。


「オキビに監視を頼む。」


「そうしてくれ。ブルース、城へ行ったグルクは戻ったか? 」


「まだだ、だが加勢を頼んでも合流はうんと先だ。

腹を決めて動じるな。」


「わかっている。」


2人は、はぐれミスリルの怖さを知っている。

エア姉弟は自分たちが食う目的だった。

彼らは目的のためなら何でもするのだ。





リリスの元を離れたマリナは、城にある自分の身体に一旦戻っていた。

少し眠って目を開くと、いまだ見慣れた絵の飾ってある客室の一つだ。

もっと明るい角部屋に行きたいが、いまだその希望は叶えられていないらしい。

開け放たれた窓からは心地良い風が通って、ゴウカが室内の壁に下げた白い聖布がゆらゆらと風に揺れている。

祭壇を作りましょうとゴウカが言ったが、祭壇を作るのは仮住まいでしかない、この部屋ではないと思った。


窓の外からは、まだ庭を整地する下働きたちの話し声がする。

トランの石工がきたことで、謁見の間の崩れた重い残骸が動かせるようになったらしい。

一旦整地して、それから元のように謁見の間を作ると聞いた。

だが、マリナがボロボロの絨毯は外せないと、 外してはいけないと念を押したことで、謁見の間は後回しで設計に留めて置くとなってしまった。


そうなのだ。


まだ、終わっていないのだと、

火の精霊たちがそこに封印されたままなのだと、いやでも見せつけられて、解決できないもどかしさに、リリスの苦しみがわかった気がする。


ぐううううう……


随分腹が減っている。

最後に食事を取ったのはいつだっけ?

覚えはないが、身体は普通に食事、排泄は出来るらしい。

そのための世話も神官が担っている。

ただ、意識がないのでされるがままだという事だ。

黄泉で会った何代も前のマリナ・ルーは、心を飛ばして遊びに行ってる間に、子ができてしまったの。

と笑っていた。

笑い事じゃないと思うが、子を見たらすぐに父親はわかったけれど、言うと首をはねられるのが、わかっているから黙っていたらしい。

だが、結局は火の神に焼かれて死んだと言うから、神は怖いと思う。


周囲を見回し、ゴウカとホムラを見ると起き上がった。

すぐに、2人が横にひざまずく。


「グレンたちの声は届いているの? 」


「は、我らは繋がっておりますゆえ。」


「うん。赤は、身体からどこかに行ってしまった。

意識を伝って探すが見つけられない。

恐らくはこの世界にいないのだろう。

黄泉か、狭間か。探しに行こうと思う。」


「どうしてそのような事に。」


赤を一番心配しているホカゲが、狼狽えたように聞いてくる。

ホカゲは赤を迎えに行くと聞かなかったが、ホカゲとゴウカがもっとも疲れていると判断して、迎えにはグレンとオキビをやった。

誰が行ってもいいのだ。

彼らは誰も、戦闘能力が高い。


「疲れ切った所で、あのガラリアという新しい地の王が……

そうだな、例えれば、へろへろに疲れ切った赤をグーで殴ったはずみに、精神体がどこかに飛ばされたという感じかな。」


「な!なんと! 」


神官の2人が、仰天して顔を上げた。

あー、たとえが悪かったか。

ホカゲが、目をつり上げて立ち上がる。


「その、地の王を成敗して参ります。」


はあああ〜〜、やっぱそう言うよね。


「よい、たとえだ。たとえ。

見ていただろう、あいつはあいつなりに、赤を休ませたかったのだ。

早まるな、精霊戦争まで起こされたら、我らはもう、神殿どころではなくなってしまう。」


「は、口惜しいですが、自制いたします。」


どうも神官たちは血の気が多い。

2人が頭を下げるのを見て、息を付いた。

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