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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、

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581、マリナがへそを曲げる


狭間を飛んで、リリスは見て回った。

真っ暗で風もない。

地もなく空もない。

だが、何もないかと思うと、それが何かわからないものが漂って行く。

触れようとしたら、まるで拒むように闇虫が食い尽くして消えた。


「不思議な場所ですね。」


つぶやいて移動する。

移動している感覚はない。

でも移動していると確認できるのは、自分が作った部屋を中心にまわっているからだ。


「近辺に異常はない。

自分の考えだと、向こうの世界とこちらの世界、その間にこの狭間があると思っていたんですが、そう単純な話ではなさそうです。

穴が開いた場所は、向こうの世界と直結していた。

そう言えば、火の精霊が閉じこめられた結界は向こうの世界が見えていたっけ。

でもここはとても安定している。

穴が開くような不安定さがない。

この狭間はまた違う世界と隣り合ってるのかな。



結界の穴だらけの状況をみると、恐らく向こうの世界とは、互いに状況が悪いから穴が開きやすいってことかもしれないな。

ぬるい空気と、武器の激しい音と、血のにおい。

向こうの世界は人間の欲が強すぎる。

すでに精霊の姿も見えないし、地水火風のバランスも崩れてる。

自然を敬うより、便利さを突き詰めた結果なのか。


切り離すしか、手は無いのかもしれない。

あの火の精霊が守っている穴、あれさえ塞げば、きっとこちらの世界は安定する。

と思う。んー、難しいな。

気が進まないけど、やっぱりあの、ガラリアって地の精霊王の話を聞くしかないか。

でもあの人、聞いてもうやむやで話したがらないんだよなあ。」


ぼやきながら、ふわふわ部屋に向かう。

真っ暗で、景色も何にもないの、ほんと飽きちゃうなあ。


「闇虫さん、お花でも咲かせようよ。

僕がお日さまになるから。」


胸に手を当て、目を閉じる。

光が、リリスの内側からふわりと大きくなってゆく。

光ったら、周りにあるもの何か見えるかもしれない。


『 あーーーー!! だめだめだめー!

ダメだよ〜、君の光で闇虫が全滅しちゃうよ〜 』


穴を開けて首にぶら下げたドラゴンのうろこが、ビリビリ響いて叫びをあげた。


「えーーー! そうなんですか? 」


『 ここの生き物のバランス崩しちゃダメだよ〜

闇には闇の生き物が沢山いるんだから。

目には見えないけど、彼らは明るいところじゃ生きられないんだ 』


「しょんぼり、大変な過ちをするところでした。

教えていただき感謝です。

自分を基準にものを考えた、私がバカでした。」


『 まあまあ、仕方ないよね。僕らには何にも見えないし。

戻ってお茶でも飲もうよ 

昔、侯爵家で飲んだお茶の味さっき思い出したんだ。

強烈な奴。概念でお茶を作ってあげるよ 』


「へえ、それは面白そうですねえ。」


『 はっはっは、暇つぶしならドラゴンにお任せだよ〜

無駄に長く生きてるからねえ 』


「それじゃ私も黄泉で飲んだお酒に似たもの作ってみましょう。

甘くておいしかったですから、思い出すのは容易です。」


『 ほう、ほう、楽しみだねえ、まずはお茶ね 』


「はい、お待ちを〜 」


ふわふわをちょっとスピード上げる。

リリスは何となく、ドラゴンの入れ物作りを待つ間、心の疲れを癒やすように、のんびりとここで過ごしていた。





ざわざわざわ

ざざざざざ……


暗い森の中、空を仰いでも木々の間から小さく空がのぞくだけでなぜか心細い。

木立の間から、遠く鹿がこちらを伺い走って行った。

ここは国境のはじっこで砦とその近くの小さな集落への道があるだけで、人通りが少ないためかあまり整地されていない。

森のさざ波のような木々の音に鳥のさえずりの声、ミュー馬の足音と人の足音、馬車の車輪の音がゴトゴト鳴って、ひどく静かなようで騒がしい。


「今日は風が強うございますな。」


誰かが空を仰いでつぶやく。

雲は多いが、砦の天気役、空見によるとしばらく雨は降らないらしい。

どこか心もさざめき、何かありそうな気配に落ち着かない。

古い馬車だけに、この地面の状況では激しく揺れて中は居心地が悪いだろう。

リリスのことを思えば、この馬車ではあまり急ぐことが出来ない。

心ばかりが焦るのは、いい環境では無いなと思う。


「いてっ てて、デカい石を踏んだぞ。」


「車輪の跡を進んだほうがいいぞ。」


「なるほど、だがそれじゃ守りにならんがな。ははは! 」


整地されていないのも、守りの一つかもしれないなと、足をくじかぬように注意して進む。

一行は、ラグンベルクが引き連れてきたベスレム、レナントの兵たちで、双方から総勢70人の小さなものだ。

緊急だとリリスの言葉に、一部を砦から借りてほとんどがミュー馬に乗ってきた。

最初50といったのに、20人増やしたのはラグンベルクだ。

目的はケイルフリントへの加勢では無い。

リリスの護衛だった。

今はそれが功を奏したと言える。


今、歩きの者は、馬を馬車に譲って歩いている。

シニヨンを貸そうかと言われたが、アトラーナではなじみがないので管理が出来ない。

噂で餌は生肉だと聞いていたので、丁寧にお断りした。



アトラーナの一行は、トランの砦城で旅支度を急ぐと、二つ馬車を都合してもらった。

一つのかなり古い馬車に物資を積み、もう一つの馬車にワラを敷いて毛布を敷き、リリスを寝かせて出発した。

馬車の代金代わりにグルクをと公に話したが、馬車は提供するからグルクは連絡と空からの守りに使われるといいと丁重に断られた。

ありがたい、公には後ほど礼をしなければなるまい。


ケイルフリントの王子には、お迎えの方たちとともに眠るリリスに礼を言ってもらったが、やはりやり方が悪いのかどうなのか、いやそもそも日の神は最初から目覚めさせる気もないのだろう。

何事も起きず王子も話がしたかったのだろう。ひどく残念そうだった。


「リリが元気だったらなー、

ああ、もったいない。いい機会だったのに。」


マリナがリリスの額に手を当てながらぼやく。

予定では、リリスが王子を連れてケイルフリントの城に乗り込む、という算段だったのだ。


「まさか、主様に邪魔されるなんてさ。

僕の先見さえひっくり返すとは思わないよ。

まあ、リリも限界だったからね、仕方ない。

ああ、仕方ない。」


ガラガラガラ

ゴトン、ゴトン、


馬車が揺れるたびに、リリスの身体が跳ね上がる。

敷き物は薄く、十分ではないために寝心地は悪いだろう。

馬車にはリリスとグレン、ガーラントにもう一人、レナントの戦士が乗っている。

ブルースはミュー馬に乗って、オキビは徒歩で馬車の周りを伺った。


『 贅沢は言えないが、砦城は何処もなかなか物資が十分とは言えぬな。

まったく、もっとクッションを敷き詰めるとかできぬのか?

布団一つよこさぬとは、巫子をなんだと思うておる 』


思うようにいかなかったことが口惜しいのか、マリナにしては珍しく、砦を出てからずっと文句を言っている。

ガーラントがため息をついてチラリと見た。


「馬は十分にあった、砦で必要な物はそろっていた。

何も不自由などなかろう」


ずっと文句たらたらのマリナに、ガーラントがとうとう口を開いた。


『 ほう、ずいぶん肩を持つな、私の赤を馬屋のようなワラに寝かせておきながら 』


「彼らは良くしてくれたでは無いか。道案内までつけてくれた。

リリスであれば、ワラの一本でさえ辞退したであろう。

無い所に出せというのが、わがままと言わずしてなんとする。」


『 へ、へえ、ずいぶん肩を持つじゃないか、なにかね?

砦が弱者だとでも言うのかね? はっはっは!

まるで巫子だな 』


「騎士だ。

砦は国境の端に位置して攻めてくるものいれば、まず盾になる場所だ。

囲まれると籠城して加勢が来るのを待つばかり、常に物資は貯めておく必要があり、よって常に物資に余裕はない。

弱者とは言うまい、彼らこそ最強だと言おう。」


不満に満ちていたマリナが視線を泳がせ、ギリギリと歯がみする。

横にいたグレンがアワアワと、マリナに手を伸ばす。


「青様、ご無礼を…… 」


『 我は疲れたので帰って寝る 』


そう言うと、ぽんと消えてしまった。

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