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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、

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580、闇虫に食い尽くされる

もやもやと形も無く、それは狭間をさまよっていた。

真っ暗な中を、消えそうになりながら、必死で意識を保って。

うつろな存在で、自分が何かを忘れそうになると、ゆらめく夢で自分を取り戻した。


助けを呼んでも、誰も来ない。

助ける者など、何処にもいない。

絶望など生易しい、まるで生殺しのようだと途方に暮れた。

生きながら、消えるのを待つしかないのか。

それは何日後?

何週間後?

何ヶ月後?

何年後? もしや、何百年後?

果てしない時間が待っていると思うと、途方に暮れるしかなかった。


声も響かないこの世界で、声を上げても無駄だと思ったら声が無くなった。

じたばたしても、意味がない。

絶望を感じたら、気がつくと手足が消えた。

見えているのか見えていないのかわからない。そう恐怖を感じていると、目が消えた。

精神体だということも忘れ、飢餓の恐怖に口が消えた。


真っ暗で石ころのようになって、生きるって何だったか考える。

今の自分の形がわからない。

山の中の一粒の石ころになった気分で、ただ暗闇に漂っていた。



リリ…… リリ…… リリ…… 



なぜか、リリスの顔だけが、記憶に鮮明に残っている。

いつも一緒にいた人々の顔は遠く、滅多に会えないリリスの顔は鮮明だった。

不思議に思いながらも、つのる気持ちに応えるように、胸が熱くなった。

きっと、今の自分は彼に救いを求めているのだと思う。

兄だと頼れと言いながら、不甲斐なさに涙が出る。

絶望を感じると、まるでなにかに蝕まれるように、その熱さが消えてゆく。

そうして、どんどん彼の心は小さく小さく、食い尽くされていた。


ふと、突然引き寄せられるように、暗闇の中を移動し始めた。

そんな気がする。

そんなふうに感じるのは、ここに来て初めてだった。


小さな光を胸に感じて、見たいと思った瞬間、目が開いた。

手を差し伸べたい気持ちが、細く長い手を一本作り出す。

駆け出したい気持ちが、小さな足を一本作り出した。

そこにあるのが信じられなかった。

なぜか、この虚無の暗闇には不釣り合いな、窓から暖かい光が漏れる小さな家がそこにあった。


暖かな光に、思わず手を伸ばす。

ドアを叩こうとして、自分が地面に近い所にいるのに気がついた。

自分が今、どんな姿をしているのか、想像も出来ない。

石ころに、手が生えているのかもしれない。


私は、僕は、 きっと、この世界に食い尽くされてる。

いったいどのくらいの時間が過ぎたのかわからない。

中に生き物はいるのだろうか。

僕らの世界の、生き物が。


でも、 いたとしても、

バケモノだと、踏みつぶされたらどうしよう。

不安感と、そこから来る恐怖に闇虫がたかる。

冷たいものに熱が吸われたように、心が冷めて行った。


アヒルになったキアナルーサを思い出す。

彼に同情を感じた事は無かった。

リリスがいるはずの場所を、今まで奪っていた罰だと思った。


ああ、今度は、自分が罰を受けている。

この扉を、叩いてもいいんだろうか。

もう、僕は、


でも…… !


心で泣きながら、ドアを叩いた。


生きたい。


生きたい。


コン コン


精いっぱい叩いても、小さな手では、かすかな音しかしない。

この世界では、なぜか音は全く響かなかった。


駄目だ、

ああ、また身体が離れて行く、ドアから離れて行く。


助けて、 助けて、


ドアのすき間から、細い糸がするすると伸びてきて、手に巻き付いた。


助けて、 助けてえ!


出ない声を振り絞る。

ドアがゆっくり開き、一筋の明かりが漏れでてくる。

優しく糸に引っ張られて、ドアの中へと、とさりと落ちた。


誰かのドレスのすそに、柔らかな髪の毛がふわふわと伸びてきて身体を優しく包み込む。

久しく感じた事がなかった、柔らかな感触だった。

失った言葉に、一個の目をぱちぱちと開く。


「何でしょうか? 」


「精神体の迷い人のようだねえ。

もうほとんどを闇虫に食べられてるけれど。

死にかけなのに、つい髪の毛で保護しちゃったよ。

生きたい生きたいって言うからさ。

そっと触らないと、消えちゃうよ? 」


「まだ、生きてらっしゃるのでしょうか?

ならば、私なら真名が見えるかもしれません。」


誰かが、立ち上がって床を歩いてくる。

ふわふわの毛の中から、そっと手ですくい上げてくれた。


一つ目で、キョロリと動かして見る。

夢かと思った。


ああ、

ああ、


僕は、

僕は、


のぞき込む顔に、涙が一粒あふれてこぼれた。


「イネス様…… 」


リリ…… 僕は、 生きたい…… 


君と、 抱きあって、 暖かさを、 感じたい……


「生きて、生きてて、 良かった。」


赤い髪の少年の顔が、くるおしく手を震わせる。

リリスの潤む目から一粒涙が、石ころのような小さなイネスの身体に落ちると、それは見慣れた長い銀髪の、小さな、手のひらに乗るほどの小人へと替わった。





イネスの小人は、赤ん坊のように小さくなって、安心したように眠っていた。

リリスが、テーブルの上に、ふかふかのベッドを作って寝かせる。

ここは、強い精神力であれば何でも生み出せる無の世界だ。

ドラゴンが手をかざし、イネスの状況を診てくれた。


「うーん、あなたと出会ったことでちょっと自分を戻せたけど、これじゃ現世に戻れないねえ。」


「ダメでしょうか? 消えちゃう? 」


「裸で出ると存在が消し飛ぶね。

なにか入れ物があったほうがいいよ。実体は現世にあるんだろう? 」


「ヴァシュラムに奪われたと聞きます。

精神と離れる時間が長いと、身体が死んでしまうのです。

実際一人、身体が死んで仮の人形に入ったままです。

そうならないか、それが心配なのです。」


「ふーむ、地の巫子が地の王に奪われたのなら、縁ある者だから大丈夫と思うよ。

恐らく、元気を取り戻したら彼の精神は、自分の身体に戻ろうとすると思う。

だが、相手が精霊王では、はじかれるか。

彼の身体から、精霊王を追い出すのが先だね。」


マリナなら、僕なら追い出すことができるかな?

ガラリアと名乗ったセレスは信用ができない。


「それに…… 闇虫に食われて、欠損が多い。

これじゃ身体に戻っても、しゃべることも、考えることも、自分の意思で身体を動かすことも出来ないかもしれない。」


リリスが息を飲む。

こんな結末、誰も望まない。


「僕の中に、入れてもダメでしょうか? 」


「魂が受け入れるなら。

でも、君たちは火と地の巫子だ。

魂の色が似ていても、性質が異なれば濁ってしまう。

それに君は火でも、赤の火だ。

その意志がなくとも、入ったものは焼いてしまうだろう。」


「そんな…… 」


そうだ、入れ物は青の方だ。


「ふむ、そうだな。

私が入れ物を作ってあげよう。

空っぽに入ったほうが回復が早いだろう。

感情が複雑な人間より、ケモノの方が負担が少ない。

それに青の巫子なら、治療が可能かもしれないよ。」


「じゃあ、お願いできますか? 」


「命の火は、君にお願いしよう。

君の力が、生きる力を生み出す。」


「はい。」


ドラゴンがうなずいて、額の角を一本ニュッと伸ばし、ポキッと折った。

それを手でこねて、灰色の塊をつくる。

虹色のうろこを一枚、パキパキ割って練り込み、髪を一束、爪で切って練り込む。

長い爪のグレンそっくりな手で、アヒルをつくったマリナのように、ツノの粘土で何かを作り始めた。


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