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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
51、

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578、巫子はいまだ目覚めず

あれから3日経ち、トランの砦城にはケイルフリントから迎えが来た。

元々山奥の国境だけに、橋があるわけでも無い。

ケイルフリントの一同は、馬車が通れる道を探して、かなりの遠回りをしてしまうハメになった。


迎えの一行は城主へ、ディファルト王子からの親書と共にフレデリク王子の保護に感謝して何度も頭を下げている。

砦城の主、ヘンリー公に紹介され、アトラーナの巫子が王子を救うために先陣切って駆けつけたと聞いて、ガーラントたちにも立場上、苦い顔で頭を下げた。

責任者だというセドリックという騎士は、アトラーナの面々の前に一歩出るともう一通の手紙を手にしていた。


「巫子殿にお会いしたいのだが、お許し願えるだろうか? 」


「巫子殿は、あなた方の王子を救うためにご無理をされて、今お休みになっている。」


「なんと、 …… 面目ない。

我が国の王は、故あって国境を攻めようとした事は事実だ。

だが、我らが王子、ご長子のディファルト王子はそれをよしとされていない。

今、お父上を説得されている頃かと思う。

信じられぬかと思うが、王子は侵攻を止めるために先発隊に赴いた所であった。

どうか、王子のお気持ちをわかっていただきたい。」


頭を下げる姿に、アトラーナの者たちは目でうなずく。

ブルースが前に出て、パンと一つ手をたたいた。


「よし! 貴方らが兵を挙げた話はここまでとしよう。

我らは何の被害も受けていないし、ティルクに襲われた貴方らを助けたいと、いつものごとく突進していったのは我らが巫子殿。

事実はそれだけだ。

貴方らも王子が心配な事だろう、先に会って来ると良かろう、話はそれからとしよう。

こっちも今のところ、わけあって汝らに直接礼を言って欲しいのだ。

何しろ巫子殿お仕えの神がお怒りなのだ。」


「神が? そ、そうであったか。

では、お言葉に甘えて我が王子に先にお会いするとしよう。

お怪我の具合は悪いのだろうか? 」


ヘンリー公が、急に話を振られて背筋を伸ばした。


「いや、そうだな、足の具合が悪いと聞いたが…… 

医術師から話を聞いてくれ。部屋に呼ぶよう申し付けよう。」


「まことにいろいろとお世話になって、言葉も無い。

このお礼は必ずと、王子からも伝言を承っております。」


「承知した、こちらもお力になれて嬉しく思う。

王へはこの王子の書簡を添えてお伝えしよう。


部屋へ案内せよ! 」






部屋に案内された彼らは、ひどく複雑そうで部屋からは王子のすすり泣く声しか聞こえない。

ガーラントたちは南向きの明るい小さな部屋に戻ると、ベッドの横に立つ地の巫子服のガラリアに頭を下げた。


「さて、どうするのだ?

この分では気がつきそうにないぞ。」


ガラリアがベッドに眠るリリスに手をかざして問いかける。

彼が癒やしを送っても、受け入れないのだと言う。

そういえば、風の館でイネスがどんなに力を送っても、駄目だったのを思い出す。


「汝が余計な事をするからだ。赤様がこのまま目覚めぬときは汝が責を負え。」


グレンがひどく不機嫌な様子で吐き捨てる。

彼が目覚めない状態を、一番心配しているのは彼らだ。


「巫子殿が言っていた、穴は塞げたのか? 」


「塞いだが、あれでは巫子殿はいなくて正解だ。」


言葉を濁すように、立ち会ったブルースたちは、何があったのかを話さない。

公も、いったい何が目の前で起きたのかわからないようだった。


「あの、消えた異界の男は何処に行ったんだ? 」


「あいつで塞いだんだとよ。あいつの命で。」


苦い顔で言うブルースの言葉に、ガーラントが目を見開いてガラリアの顔を見た。


「他に手は…… 」


「無い。」


「死んだのか? 」


「生きているから塞げるのだ。

それほどに、ほころびで開いた異界の穴を塞ぐのは難しい。

なのに、異界の混沌はますます深く、こちらは霊気が落ちていてほころびが出来やすい。」


「どうにか解決法は無いのか? 」


「この、解決法は一つしかない。完全な分離、世界を閉じて、強固な壁を作るのだ。」


「世界を? それは…… 何か影響があるのか? 」


「ない。ただ、今こちらに入り込んでいる異界人、そして向こうに迷い込んでいる精霊や人間は戻ることが出来ず、その意志を切り捨てることになる。」


ガーラントたちの脳裏には、キアナルーサの側にいるアイとヨーコの鳥とネコが浮かぶ。

帰れなくなったら、リリスは激怒するだろう。

また何が起きるかわからない。


「それは…… 少し、まずいのでは? 」


静かにガラリアがうなずく。


「強制退去と、強制帰還のすべを知るのはヴァシュラムだ。

…… いや、その力を継承出来れば…… 少し、考えねば。」


ポッと、宙に火が現れ、大きくなるとマリナが現れた。

神官たちが、ひっそりと安堵の吐息を漏らし、一礼する。

周囲の者たちも頭を下げた。


「どうだ? 」


心配そうに、マリナが手をかざす。


「まだ、身動き一つなさいません。」


「うーむ、困った事よ。これはまずいな。時期が悪い。

赤も関わらねば済まないことが山ほどあるのにのう。背を押したのは失敗であった。

いや、これがここにいなければ、あの王子は死んでいただろう。

やれやれ、身体がいくつあっても足りぬとはよう言うたものよ。

ガラリアよ、赤の帰国に付き添ってはもらえないだろうか。」


「それは…… 恐らく、日の神があなた方に課した試練に背く行為になるでしょう。

彼は日の神が納得せねば目覚めない可能性もあります。」


「あー、そうか。そうだったな。

一同、そういう事だ。あきらめて出発せよ。

赤は城に帰らねば、このまま目覚めないと思われる。」


皆が顔を見合わせ不安を見せる。

空を一気にと思ったが、彼を乗せるとグルクは時が止まったように動かなかった。

つまりは、地面を行けという事なのだろう。

ブルースが、大きくため息をついてどうしたものかとあごに手を置いた。


「普通に、誰かが背負って馬で帰ればいいですかねえ。」


「そうさな、馬車を調達せよ。丸見えはまずい。

さらわれたら終いだ、食われずとも人買いに売られるだろう。

良いか、巫子は価値がある事を忘れるな。人間にも気をつけるのだ。」


「心配し過ぎでは? 火の巫子の価値など誰も知りません。」


一人が半笑いで首を振る。

横にいた者も、怪訝な表情で声を上げた。


「それに、我らが巫子を連れているとわかるわけがないでしょう。

それほど気を回す必要は…… 」


マリナが、バっと振り向き指を差した。


「汝らのその言葉、その気の緩みが! 

 …… いや、いい。やめておこう。余計な言霊は、余計な障害となろう。

汝らの我らを軽く見る心の内、我は悲しく思う。

だが、意識のない赤を、汝らに託すしか無い。どうか、無事に城へ届けて欲しい、頼む。」


「そ、そのような、勿体ない。無礼を申しまして申し訳ございません。」


「良い、不服は今言ってくれた方が助かる。

私は手を出せぬが、時々見に来る。

頼むぞ。グレン、オキビ、お前たちも補佐せよ。」


「 は、承知いたしました 」


マリナが消えると、言った2人が苦い顔で頭を下げた。


「申し訳ない。余計なことを言ってしまった。マリナ様はお怒りだろうか? 」


「いや、そんな事でいちいちお怒りになる方では無い。

それに、そう思うのも仕方なかろう。

とにかく、今は国に帰ることだけを考えよう。」


「馬車を調達しよう、公に相談を。」


「私がやろう、レナント組にまかせられよ。」


「では、何処を目指す? 国境の砦か? それとも城か? 」


「砦には一夜だが、城には馬車だと4日かかるか。」


砦のラグンベルクにはすでにグルクで連絡に行った。

ケイルフリントの一件を知らせ、すでに兵は引いた事を知らせると、ラグンベルクはわかったと言って立ち上がり、グルクで城に向かった。

砦にいたケイルフリントのアウロラ隊は、リリスの出発と共に、すでに独自で本国へ戻っている。

砦に向かう目的は無い。


「城に戻るが正解だろう。」


話し合う仲間に、オキビも声をかけた。


「城であれば、マリナ様もいらっしゃる。

回復できる術があるので、我らもそちらの方がいいかと思う。

グレン殿。」


「同じく」


「4日か…… これは骨だが行くしかあるまい。」


皆が大きくうなずいて心を決める。


「我が国はこの方に多大な恩がある。

今こそ我らで返そうぞ。」


「お目覚めの時に、何と、ここは城ではないかと驚かそうではないか。」


「はは! まこと、無事にお連れしよう。」


皆が一斉に、帰国に向けて動き出した。


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