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568、財力の増強

その部屋は、一階の個室3つ分を使った客人と簡易的な謁見を行う部屋。

部屋の上座には一つ豪華な椅子があり、中央に大きな楕円のテーブルを置いて周りを騎士や戦士のあつらえの良い、身分が高そうな男たちが並んでいる。

部屋に入るなり汚れさえ見えない彼らが、薄汚れたルクレシアをチラリと見た。

彼は各部屋をチェックし、死臭の取れない部屋から家具を運び出し、装飾を損なわないよう洗っては拭き上げ、皆と一緒に作業して疲れ果てている。

こんな所で口先だけで働いた気分でいる奴らの存在は、本当に不快な光景だ。


ここで議論か。

皆、汗水流して働いているというのに、口ばかりでくだらない奴らだ。


一瞬ひどく不機嫌な顔でそれをいちべつすると、王の前に出て胸に手を当てお辞儀した。

王が貴族らしからぬ様子に、ほうと息を吐いて、目を細めて彼を見る。

豪華な金の髪を後ろにひとくくりにして、ゆったりとした白いブラウスにスリムな黒いパンツ姿に両袖をまくり上げ、何かの作業の途中だったのだろう、水仕事に手やそでが濡れている。

ただ、影のように後ろに控える老年の執事は、一分の隙も無いほどにピシリと執事服を着こなして、汚れ一つ無かった。


「ルクレシア・ダンレンドでございます。

私など、御前にお呼びになられてよろしいのですか? 」


王が、まずは悪態じみたことを言うこの青年に苦笑した。


「御前でございますぞ、ルクレシア殿。」


ルクレシアが家臣の声にチラリと見て、その場に立ったまま王を見る。

不遜な態度に、後ろの執事は静かに頭を下げていた。


「良い、お前は忙しいようだが、一つ用があって呼んだ。

たった一つのことだ。

そう嫌な顔をするな。」


「ろくでもない事ならば、たった一つでもお断りします。」


その物言いに、周囲がギョッとした。


「ダンレンド殿! お控えなされ! 」


王が、ふむと顎をさする。


「お前にとって、王とは何か? 」


「統治者である、それ以上でもそれ以下でもない。

だが、私の心は自由だ。」


「ほう、お前は誰に膝を付くのだ。」


「僕が膝を付いて良いと思えたのは、今のところ3人だ。」


随分少ない物だ。王が、身を乗り出し興味を示した。


「それは誰だ? 」


ルクレシアが眉をひそめて顔をそらす。

王の視線は、ただ純粋に自分に興味を持ってくる。

怒るわけでもなく、どこか、懐の深さを感じさせた。


「お教えするほどのことではありません。が、

1人目は僕の大切な人、2人目は父上。

そして、3人目は…… 不服で腹立たしいが、赤い髪の巫子だ。」


「ほう! 」


驚くべきことに、ここでリリスが出てきた。


「なぜ腹立たしいのだ? 」


「あいつに僕は初めて言い負けたからです。

屁理屈に屁理屈を重ね、ねじ曲がった僕が言葉に詰まるなんて驚きだ。

あいつは頭の回転がいい。僕の先を、もう一つ先を見ている。

視野が広い。小さな事しか見ていない普通の人間とはひと味違う。

だから、仕方ないが、あいつには膝を付こう。そう思うのです。」


「そうか、くくっくくく、そうか! 」


王が、それは嬉しそうな顔で笑う。

ルクレシアが怪訝な顔で首を傾げ、王の反応に驚く。

すると、王が声を潜めた。


「あれはな、まだ公言できぬがわしの息子だ。」


その言葉に、その場にいた全員が仰天した。

何も知らないルクレシアが、ざわめく周囲を怪訝に思いながらため息付く。

そして、大げさに手を大きく上げると、ぐるりと回して胸に添える。

一歩足を引き、丁寧に一礼して、鋭い視線を見せた。


「親愛なる赤い髪の巫子の父君、この国の王よ。

私に出来ることとは何でございましょうか? 」


王が、身を引いて姿勢を正し、大きくうなずいた。


「うむ、侯爵家子息、ルクレシアよ。汝に申しつける。

国を守るため、我が国は財力の増強を必要としている。

貴族院を招集し、申し出る以上の金子(きんす)を集めよ。

非協力的な貴族からは、称号剥奪も許す! 

貴族による此度の率先した首都ルラン離脱、国を軽視した (せき)もはなはだしい。

ルクレシアよ、断罪は汝の判断に任せる。」


再び、その場にいた全員が仰天した。


「な! な! 何を仰られるのです! 

王! このような者にそんな重要なことを!

ご乱心召されたか?! 国が混乱しますぞ! 」


驚く大臣たちに、王はすました顔をそらす。

ルクレシアがキョトンとした顔で後ろに立つ爺を見る。

爺が、ヒョイと肩を上げると、ルクレシアがブフッと吹き出した。


「くっくっく、あははははは!

なんて冗談だろう。とんでもないことを仰る! 

僕が勝手に自分の利益のみに走ったらどうされる!

貴族院は蜂の巣を突いたように大騒ぎだ! 」


王が、ククッと薄く笑う。


「それで良い、貴族の我が身しか考えぬやり方にはウンザリしている。

少しは頭が冷えるだろう。

ルクレシアよ。ここにいる、それだけでお前は価値があるのだ。」


身を乗り出し、ニヤリと笑う王に、面白くて滑稽で、貴族なんてほんとくだらない肩書きだと思う。


取り立てだと??

この私に、最下層の者達が担う仕事をやらせると??


「断ったら? 僕は一時出奔した者です。

貴族たちに顔も知られていない。

私自身、それぞれの貴族の顔も知らぬ事が多いでしょう。

まして、みんな金には執着している。

それを剥ぎ取る事の煩わしさを、僕1人に押し付ける気か? 


お断りいたします! 」


声高らかに、お断りする。

が、王の返答は軽かった。


「よし! そうか。

では、ダンレンド家から侯爵の称号を…… ! 」


ルクレシアがギョッとした。

そんなこと、父が聞いたら卒倒する!


「待て! 待て待て待て! 何を言うんだ! 何を仰られるのです!

なんで、どうしていきなりそうなるんだ! 」


「では、引き受けてくれるか? 」


な、何なんだ! このやりとりは!

一体何様だ! この王って奴は!


「こ、断る! 」


「では、爵位の称号は、」


「だから! なんでそう来るんだ! 」


「仕方ないのう、貴様も貴族の1人だ、例外は無いのでな?

ほれ、ではどうするのだ。それ、さっさと決めぬか。」


済ました王の顔に、ギリギリと歯がみする。


やはり、やはり! あの赤頭と同じだ! 腹が立つ!

なんなんだこの親子!  不快! 不快! 不快極まる!


「わかったっ! わかった、引き受ける。

取り立て役などと、この私が! ふざけるな! 」


「うむ、そうだな。気持ちはわかるぞ。

大臣、護衛に小隊一つと、残る有能な者達から5人選抜して補佐に付けよ。」


騎士の中から1人が手を上げた。


「シャール・ゴートでございます。

サラカーン様をお守りできなかった務めを、ここで果たしとうございます。」


「おお、シャール、お前なら貴族共に顔が利く。

舐められることもあるまい。頼むぞ。」


「lはっ、お任せを。」


「誰1人、ボウッとしているヒマなどないぞ! 国のために働け!

ルクレシア・ダンレンド、では励めよ! 大義である! 」


ブルブル震わせる手を胸に当て、頭の血管が千切れんばかりに怒りをこめ

てルクレシアが一礼した。


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