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赤い髪のリリス 戦いの風〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、 魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します〜  作者: LLX
49、翻弄される小国たち

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563、疲れが押し寄せる

砦の主ヘンリー公に挨拶して、現状報告が次々となされる。

川が半分塞がれ、上流は水かさが増して多少あふれているが、今のところは下流に被害は無いだろうと。

川を広げて掘り下げるかは、今後職人に来てもらうことになった。


「あの岩崖が大規模に崩れるなど、わしの記憶では何の記述も見たことが無い。」


代々この地を治め、この辺の地質も詳しい砦の主ヘンリー公も驚きを隠せない。


「崩れる前に、雷鳴のような音を皆聞いております。」


「雷鳴の正体はなんなのだ? この者の魔術か? 」


爆発物を知らないこの世界の人間には、一番強烈に大きな破裂音は雷鳴くらいしか思い浮かばないのだろう。

皆一様に爆発音を雷鳴という。そう、言うしか無いのだ。


問われてリリスが、前髪を掻き上げ前に出た。


「それをこの男から聞きます。」


「巫子殿自ら問いただされると? この者は? 」


「はい、おそらく異界から来たもので、異界の武器を持ち込んでいると思われます。

問いただしたく思います、よろしいでしょうか? 」


「あ、ああ、もちろんだ。

異界人のことは我らには理解出来ぬ事、巫子殿にお任せする。」


「ありがとうございます。」


公は初めて聞く火の巫子にも敬意を払ってくれる。

男は後ろ手にしばられ、目隠しと猿ぐつわをされ小さく震えている。

口を解かれると、ハアハア息を付いて声を上げた。


「俺は! ただのインストラクターだ! 関係ない! 」


「関係あるからここに存在するのだ、愚か者。」


リリスが冷たく言い放つ。

浅黒い肌に茶色の髪、日本人では無いのだろうが、なぜか言葉はわかる。


「我らは汝が何者かなど関係ないのだ。

汝がこの国に持ち込んだ、異界の武器に問題を感じている。

ティルクにどれだけの武器を持ち込んだ? 」


「それは…… 

まだだ、まだ、この遠征で使って、売り込むつもりだったんだ。

王子さんには随分と気に入られて、上手く行ってたのに。」


「売り込む? それは何を交換に? こちらの何が欲しいのだ? 」


「そりゃあ(きん)さ、俺達の世界では金は高価な物だ。

王様が銃一丁に金貨をドッサリくれた。それで(かしら)が、こっちに金がはたらふくあるって踏んで、取引しようとしたんだ。

俺を離してくれれば、こっちの国に売ってもいいぜ。俺が話付けてやらあ。

見ただろ? 頑丈な岩壁だって一発だ。

こっちには爆薬ってのが無いって聞いたぜ?

ありゃあ便利なもんだ、一発ドカンであっという間に戦況が変わる。

そうだ、銃を使ってみるかい? 

簡単さ、頭狙って引き金を引くだけでいいんだ。

どんなムキムキの強い奴だって、あっという間さ! 」


「 黙れ 」


「王様ってのは誰だ? 俺は王様に話があるんだ、王様に会わせてくれ! 」



「 黙れ! 」



男がびくりと忙しく顔を左右に振る。

見えないことをもどかしくしながら、わめき散らした。


「くそっ! くそっ! 目隠しを解け! 俺と取引しろ!

仲間が攻めてくるぞ! そうだ! 俺の仲間が最新の装備を持ってやってくる! お前らなんか…… 」



「 黙れ下郎! 」


「ぐがっ! 」



リリスの髪が燃え上がり、両目を燃やして男を指さした。

嫌悪感と怒りが爆発して、怒鳴る口から火がこぼれる。

だが疲れで鉛のような身体に、胸元を握りしめ、足が一歩よろめいた。


「赤様! 御静まりを! 」


グレンが悟られぬよう思わず声を上げてリリスに手を伸ばす。

だが、リリスはその手を払って続けた。

怒りが静まらず、グレンが焦る。

見てわかるほど、リリスは疲れている。

だが、この怒りがあるかぎり、彼を止めることが出来ない。


男はうめき声を上げて硬直したように直立すると、見えない手で釣り上げられたように、どんどんつま先立ちになる。

そしてそのまま、バタンとひっくり返った。


「うう、うう、助けてくれ。助けて。誰か…… 誰か…… 」


今度は弱々しく泣き出して気を失ってしまった。


「 はっ! 」


私は、無力な者を暴力で抑えようとしている。


リリスが、自分のしたことにショックを受けて思わずひるんだ。

髪から火が消え、苦い顔をようやく上げる。


人間だ、これはこの世界の人間と同じ、感情のある人間。


武器を持ち込んだからと、自分にそれを裁く権利など、本当にあるのか?

いいや、それを判断するのは、本当に僕の仕事なのか?


疲れた、疲れて頭が回らない。

急にどうしたんだろう。

しっかり、しっかりしなきゃ、こんな事、僕のやり方じゃ無い!

話を聞くべきだ、話を聞いて、それから、それから、誰かに判断してほしい。

いいや、僕が判断しなきゃ。ここに異界の穴のことを知る者がいない。


「一体…… 」


その場にいた一同が説明を求めるようにリリスを見る。

聞いていたヘンリー公が、顎をさすり、怪訝な顔で問うた。


「その、兵器とは何ですかな? 巫子殿はご存じと見える。」


問われて顔を上げたリリスが真っ赤に燃える目で、公を見る。

その言葉を、一番聞きたくなかった。

武器に、必ず興味を持って身を乗り出す。その姿を見たくなかった。

前線の者にとって耳に心地良い武器の話など聞かせれば、必ず興味を持つに違いない。

予想通りの公の反応に、落胆して、怒りが再燃する。

リリスの身体を、その怒りだけが今は支えていた。


「それが! いけないのだと上に立つ者は知るべきなのです! 」


「なんと。」


思わずひるむ公に、大きく首を振った。


「恐れながらヘンリー公。新しい武器に興味を持つ。

それは、この男とティルクと、同じ考えを持つことだと思います。

すなわち、いかに効率よく、そこにいる生きた者達を殺せるかと言うこと。


戦いの場で、一対一の戦いは恐ろしい物です。

ならば一気に殺してしまった方が良いと思うでしょう。

しかし、それは敵も同じ事を考えるのが自然です。


たとえ、『自国の民を守る為』、『平和な使い方』を、そう美しい言葉を並び立てても、向こうの世界の武器は、恐ろしい破壊力で、無慈悲に大量の人を殺し、腕をもぎ取り、足を引きちぎります。


武器は応酬を重ねるたびに大きく、強力になり、国土の形さえ変えて行き、この世界では理解しがたい物質で、水も飲めず作物も育たない大地に変え、人はなぜそうなってしまったのかを知るすべも無く彷徨い、生きることが難しくなるのです。」


「何と恐ろしい。

この者は、なぜそのような物をこの世界に持ち込むのだ。

理解しがたい。」


「公よ、理解しがたい獣のような者は、どの世界にもいるのです。

先ほどこの男は言ったではありませんか。

金だと。

強欲はどの世界でも当たり前にあります。

ですが、この異界の男の一味はタチが悪い者達です。

関わってはなりません。」


「だが、ティルクがそのような武器を仕入れたと聞いては、安心出来ぬ。」


「もちろんです。

狭間の穴を制するのは地の精霊王。

塞いでいただきましょう。出来ぬなど聞けぬ話。

そうでございましょう? アリアドネ殿。」


有無を言わさぬ強い口調で、リリスが背後に視線を送る。

そこには穏やかな輝きが生まれ、そしてその輝きの中から薄い緑のドレスを身につけ、頭につる草の冠を付けたガラリアが現れると顔を上げた。


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