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560、異界の武器

ヒュンヒュンと、風切る音が無数に聞こえ、木立の間から続々と人影が現れた。

頭上には一斉に矢が降り注ぎ、リリスは二人を庇うように前に立った。


「ティルクが! 」


『 やれ、無法者が無礼な 』


ボッ! ボボッ! ボボッ、ボボボボウッ!


矢はことごとくが目前で燃えて灰となる。


「見つけたぞ! 王子だ!」

「ここだ!いたぞ!」


ティルクはほとんどが川を渡ってきたらしく、ずぶ濡れでただただ命令に従って兵達がこの王子を追っている。

バラバラと散っていた数百の兵が次第に集まると、3人を囲っていった。


「王子を渡していただこうか! 」


「矢を構えろ! 」



『 構えられるなら構えるが良い 』



リリスが瞳を赤く燃やすと、兵達の弓に火が付いて燃え上がる。


「わあっ! 何だ?魔術か? 」


「何だ? なんで燃えた?! 」


「切れ!切れ! 」


ティルクの兵達は真っ黒なアリのように、1人1人を認識しがたいほどの人数で、たった3人に剣を振り上げ向かってくる。


『 愚か者め、たった二人にこの数で向かうか! 』


リリスの赤い髪が燃えて舞い上がり、両手を遮るようにかざす。



『 鉄よ! 砂に戻れ! 』



「 バケモノめ! 」

「 おおおおお! 」



バサッ! バサッ! ババッ!


「 えっ?! 」 「 な、なんだ?! 」



斬りかかってくる剣がリリスに振り下ろした瞬間、ことごとく刃が砂となって散った。

兵達が、残された木製のつかだけを見て、愕然とリリスを見る。


「ま、まさか! 」


「おのれ! 魔物がっ! 」


その光景が信じられず、次々とリリスに斬りかかる。

だが、その剣は次々とリリスの張った結界を越えること無く、砂となって散ってゆく。


「一体…… 何だってんだ? 」


「魔物じゃ無いのか? 」



『 諦めて自国に帰るが良い! 』



横から回り込んでフレデリクを狙おうとしても、強固な結界は弾かれて越えることが出来ない。

そうしていると、ティルク軍の後方から誰かが笛を吹いた。



ピイイイイイイイイ!



一斉に、兵達が慌てふためき引いて行く。


 なんだ? 何をする気だ?


リリスがいぶかしんでいると、上から二つ、小さな何かが飛んで来る。

それは、向こうの世界の動画で見たことがあるものだ。

ヴァシュラムは、向こうの世界の武器というものに激しく興味を覚えていた。



あれは……


あれは、まさか、向こうの世界の…… !



それは、リリスの目の前に飛んでくると、空中で炸裂した。




バーーーーンッ!!


バーーーーーーーンッ!




思わず目を塞ぎ、結界の無事に後ろの二人を見る。


『 無 事? ですか? 』


前方には白煙が上がり、上げていた手の平を下ろしてその手を見た。

ケガはない。

結界は完璧に全てを遮った。

後ろで、サムエルが王子を庇いながら囁くように聞いた。


「一体…… 何が? 」


また、一つ飛んでくる。


『 伏せて! 』



バーーーンッ!



『 くっ、こんな物、こんな物の存在、許されない! 』


苦々しい顔のリリスが牙を剥く。

どうしてくれよう、どう対処すればいいのか。

腹立たしい、腹立たしい、怒りに震える!


こんな物をこの世界に持ち込むな!


「あれは一体?! 」


『 わかりません、ティルクはこの世界に無い何かを手に入れたようです 』


白煙が消えて、逃げ遅れたティルクの兵が血だらけで数十人倒れている。


『 あああ…… なんと言うこと…… 』


顔を上げると、こちらの世界ではあり得ない、迷彩の戦闘服を着た男が1人、シニヨンに乗って現れた。

驚くリリスの前で兵達の隊長らしい者と話すと、こちらを指さしている。



『 マ、マリナ、 あれはまさか! 』


『 赤、落ち着いて、これはアリアドネの少し待ては聞けぬようになった 』



あれは向こうの世界の人間だ。


恐らくは、狭間に空いた、ほころびが広がっているのだ!


あの、絨毯の下だけではなかった。

シュリクマが言ったではないか。

すでに塞ぐことが出来ないほど、広がっていると。


穴がどこかに空いたのだ。

不味いことに、武器を扱う者と接触出来る場所が、それもティルクに!


まずいまずいまずいまずい!

向こうの世界の武器は、大量死をもたらす。

剣と弓しか持たないこちらの物では歯が立たない。


『 向こうの武器を持っているのではない? 』


『 わかった、 アトラーナ世界の鉄以外を封じる! 』


『 出来るの? 』


『 身体が近い、主様のお力を借りる! 』



パンッ!



手を合わせ、フッと息を吹きかける。


『 異界の者よ、汝、殺すなかれ。 異界の鉄よ、その存在、火の精霊王が否定する!


   封じよ!!  』


言霊をギュッと握って大きく頭上に掲げ、左手で彼を指さすと右手で弓を引く仕草で大きく後ろに引く。

それは光の矢を作り、そして彼に向けて発射した。


小さな輝きは真っ直ぐに異界の男に飛んで行き、パンと弾けて彼の身体にまといつく。

彼は何も気がついてない様子で、また人にまぎれていった。



ドドドドドドド



地響きがして、背後からトランの一軍が駆けつけてくる。

それはこの国境を守る者達も共に駆けつけると、トランの巨大な旗を掲げた。



「トランだ! 」

「トランの国境守備隊だ! 引け! 引けーー! 」


今のトランとティルクの関係は、最悪と言っていい。

ティルクが侵略した小国に、トランの王族の姫が嫁いだばかりだったことが関係している。

小国の王族は、ほとんどが自害した。

言わば一触即発、大国同士の戦争状態に入るかもしれないという事だ。

ティルクとしては、それは避けたいのだろう。


だが、トランの騎兵は一気に向かうと、越境してきたティルクの兵に剣を向けた。

ティルクの兵達は戦いながらも後続は急いで川を目指す者と北上する者でバラバラになりながら引いて行く。


「引けー! 引けーー!! 」


声が飛び交い、あとに残った兵達が剣を交え、勇猛なトランの兵に打ち倒された。

その行動は躊躇無く、無慈悲にも見えるが、隙を見せれば付けいられるティルクのやり方に慣れているからかもしれない。


『 王子はこちらに! 保護をお願いします! 』


「承知した! 」


リリスが叫ぶと、馬に乗ってきた自分の身体にストンと下りる。

オキビに抱きかかえられてハッと自分を取り戻し、両脇を併走するガーラントとブルースに声を上げた。


「捕らえなければならない者が1人! 」


「誰だ?! 」


「緑のまだらの服を着た異界の男です! 恐らくシニヨンにまだ慣れていないはず! 」


「承知! お任せあれ! 」


2人が一気にミュー馬を駆り、トランの騎馬隊と共に逃げるティルクを追っていった。


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