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56、イネス

イネスは、地の神殿の巫子だ。


リリスはセフィーリアのお供で10歳の時知り合い、それからと言う物、勉強を教えて貰ったり遊びを知らないリリスに遊びを教えてくれたり、ずいぶん親しくして貰った。

リリスの魔導の力が大きく飛躍したのも、巫子である彼の力添えがあってこそと言ってもいいだろう。

杖を持たない彼に、印を切って術を集中させる提案をしたのもイネスだった。


彼とは4つ年が離れているだけに、彼はリリスより2周りも身体が大きい。

華奢な身体と言っても幅の狭いベッドでは、押しつぶされそうで苦しいのであんな夢を見たのだろう。



外は暗いので、すでに夜なのか部屋にはろうそくが一本、穏やかに輝いていた。

ヨーコが気がついて、窓辺から飛んでくる。

ベッドにとまり、上からのぞき込んできた。


「気分はどう?チュチュッ!死んじゃうかと思ったわ。」


「ええ、ご心配をおかけしましたが、とても楽になりました。

今は夜中ですか?」


「んーん、夜中ってほどじゃないわ。

ところでこのイネスって子なあに?友達?」


「とんでもございません、この方は大変ご身分の高い方で……恐れ多いことでございます。

身分に捕らわれることなく大変お優しく、親しくしていただいた巫子様です。」


「ふうん、リリスがお気に入りなんだ。

ね、おなか空いたでしょ?今日は朝食べただけだもんね。

呼び鈴鳴らしてくれたら、夜中でも食事を持ってきますってよ。」


「ああ、ほんとにおなかが空きました。

では食堂に行ってみましょうか。」


「あら、呼び鈴は?」


「とんでもございません。持ってきていただくなんて、消化不良起こします。」


そうっとイネスを起こさないように身体を起こすと、イネスがいきなり飛び起き来た。


「起きた?起きたのか?うう、眠い。」


「わ!びっくりしました。イネス様、どうしてこのような所にお休みなんですか?」


イネスは大きなあくびをして、思い切り伸びをする。ごしごし目をこすり、リリスにニッと笑った。


「だって、お前がさみしいって泣いたらどうする。

俺も眠くなったし、どうせ寝るなら一緒の方がいいじゃないか。

あ、セフィーリア様は娘がどうとか言ってルランに帰ったぞ。」


「ルランに?フェリア様に何かあったのでしょうか?」


「さあな、でもあの娘はセフィーリア様の分身みたいな物だ。あの方がいらっしゃれば問題なかろう。

で、お前どうもないか?」


「はい、イネス様のおかげです。もうろうとしておりましたが、かすかに覚えております。

本当に死ぬかと思いました、あんな苦しい思いは初めてです。」


ホッと息をつく。

今までにもケガをしたり修羅場はあったが、あれはひどく苦しかった。

力がすべて吸い取られ、まるで冷たい沼に足を取られて沈むような。

生殺しの苦しみ……今思い返せばゾッとする。


「良かった、元のリリだ。

俺も力になれて良かったぞ。

先日向こうの世界のヴァシュラム様の所に忍んで行ったら、お前こっちに帰ったって言うじゃないか。

またゲームして遊ぼうと思ったのに。」


ヴァシュラムの家と、地の神殿は一部空間が密かにつなげてある。

地と空間を司るヴァシュラムには、距離は関係無い。


「申し訳ありません。

急な御用で呼び出されましたものですから。

でも、隣国との関係がここまで悪化しているとは思いもよりませんでした。」


「そうだな、俺も神殿に声がかかってビックリした。

お前がこっちに来てるって聞いて、兄様に一緒に行くって頼んだんだ。会えて良かった。」


「はい、私も嬉しゅうございます。」


にっこり、リリスが笑うとイネスも嬉しくて赤くなる。

昔から、二人とも兄弟のように仲がいい。

仲が良すぎて修行の妨げになると怒られる、そんなこともあった。


ヨーコがベッドに留まったまま二人を見比べる。

ろうそくに照らされるリリスの横顔は、今まで見たことがないほどに嬉しそうだ。

それに、ヨーコはアルビノの人間を初めて見て驚いた。


また違ったタイプの美少年だわ。

それに変わってるう、色素が抜けた人間ってホントにいるのねえ。

何というか、ヴァシュラムのじいさんって面食いだわ。

この分だと、巫子ってみんな美女と美男かしら。


「あーあ、髪ぼさぼさだな、いっぱいからまってる。

ほんとにセフィーリア様の慌てぶりったら……」


イネスが、笑いながらリリスの髪を指ですくった。

軽い巻き毛は、柔らかくて良く指で遊ぶ。

クルクル巻いて、ふと思い出した。


「そう言えば、お前あの髪を縛ってた紐はどうしたんだ。

あんな物つけてるから具合が悪くなるんだぞ、馬鹿。

それに、あれは変だ。一体誰にもらった?」


「あれは……」


狭いベッドの上で、二人並んで思わず目があった。

リリスがにっこり、嬉しそうにしてうつむく。


「あれは…お友達からいただいたのです。

でも、紐にある嫌な感じとは関係無いと思います。」


「関係無いだと?でもそいつがくれたんだろう?関係無いことあるもんか。」


友達なんて、リリスの口から初めて聞く。

イネスがあからさまに眉をひそめ、口を尖らせた。


キャッキャうふふなイネスですが、リリスは一歩下がっています。

それに気がつかないイネスは、ちょっと可哀想です。

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