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554/561

553、後発隊、壊滅する

音と共に、無数に壁や屋根から矢が突き刺さる。

1本が壁を突き抜け、サントスの従者の1人の肩に刺さった。


外は見るまでも無く、矢が降り注いでいるのだろう。


「トーケル、トーケル! 」


王子が腕の中で震えて叫ぶ。

全滅したかもしれない。

トーケルが王子を庇って伏せたまま、残るもう一人の騎士、サムエルに視線を送る。退路を考え、馬車を出ることを考える。

だが、味方はいないと覚悟すれば、もう自分たちだけなのだ。


逃げ切れるか? いや、逃げなければ! 王子だけでも!

トランと我が国は、それほど悪い関係では無い。

川を渡れば何とかなる!


外では悲鳴が上がり、逃げ惑う者達の足音がざわめき、ドンッと誰かがぶつかった音がする。

じわりと壁から血が染み出し、フレデリクが凍り付いて口を塞いだ。


「 キャッ! 」


「王子、外へ。」


小さくトーケルが耳元に囁く。


「ト、トーケル…… 」



王子が恐怖に凍り付く。やがて矢が止むと、しばらくして整然とした大勢の足音が周囲を取り囲もうと近づいてくる。

サントスが従者の下で、非力な様子で従者を押し返そうともがいた。


「クソッ、ブレム、貴様の血で私の服を汚すな! 」


「申しわけありません。」


「さあ、フレデリク王子! 我々とご一緒…… 」


サントスが同行者をはね除け、起き上がろうとした時だった。

トーケルが王子の身体を片腕で抱きかかえ、出口に立っていたサントスの同行者を剣を抜くヒマも与えずドッと切り捨て、一息に馬車を飛び出した。


「サムエル、トランだ! 」


「承知! 」


トーケルの後ろをサムエルが守り、脇目も振らず対岸のトランの森へと川を渡り始めた。


バシャバシャバシャ

バシャバシャッ


「追え! 追えーーーっ!! なんでもいい! 足を止めろ! 」


サントスが叫ぶが、兵が一瞬躊躇する。

それは、川向こうは国境を越えてトランだからだ。

ここは川で別れて国境がハッキリしているだけに、トランの兵が頻繁に見回りに来る。一般人ならまだしも、隣国の王子を追ってティルクの兵が侵入したとなると、攻撃されても何も言えない。

ティルクとトランの関係は、今ひどく悪いのだ。


「ハアッハアッハアッ! 急げ! 王子だけでも! 」


「ティルクの兵です! 後ろはお任せを! 早く…… 」


突然、サムエルが立ち止まった。


「サムエル! 急げ! 」


「サムエル! 急いで! 止まったら死んでしまう! 」


王子が叫んでも、彼は首を振って険しい顔で唇を噛み、王子の姿をじっと見ている。


「トーケル! サムエルが! 」


「舌を噛みます! 今はご辛抱ください! 」


振り返ると、一部の兵達が川に入って来た。

だが、流れが速く、流される者や足を取られて思うように進めずにいる。

トーケルは彼を胸に抱き、一番川の深いところを急ぐ。

崖崩れで川幅が狭まり、それが余計に流れを変則的に速くして、余計に足を取られる。


「くそっ! くそっ! 」


バシャンッ!


「ガボッ! ゲボッ! ごふっ、ごほっ! 」


「王子、王子ご辛抱を! 」


倒れかけて、王子が水を被り、慌てて体勢を立て直す。

どこが浅いのか、さっぱりわからない。

必死で先に進むことを優先する。

川を腰まで浸かり、トーケルが王子を肩に載せて、時々足をすくわれそうになりながら目の前の森を目指した。


ヒュンッヒュンッ! 「げほっげほっ、や、矢が! 」


矢が数本飛んでくると、トーケルが剣を振る。


ガッ!カシッ!パンッ!


次々撃ち落とすと、サントスが馬車の前で声を上げた。


「馬鹿者! 王子に当たる! やめんか! さっさと追え! 」


「ラジェンドラ様! 馬車にお入りください! 生き残りが! 」


サントスを同行者がラジェンドラと呼んでいる。

それは王子の名前では無い。

フレデリクは隣国の王子の名前くらいは知っている。


ケイルフリントの数少ない生き残りの兵達が、王子を逃がすトーケルに気がつき、ケガを押して意気を上げ立ち上がった。


「 王子をお守りしろ! 」 「 王子を逃がすんだ!! 」


「「「 おおおおおおおお!!!  」」」



血だらけの生き残りたちが、王子を守る為に捨て身でティルクに襲いかかる。


「弓! 弓はどうした! 兵共、何をしている! 私を守れ!

ラメス! 馬だ! 馬を回せ! 」


サントスと偽名を名乗っていたラジェンドラが叫び、逃げに後ずさる。


「お早くこちらへ! 」


同行者のラメスが手を引き、馬車の影へと手を引く。

ラメスに抱き留められたまま、剣の打ち合う音に耳を塞いだ。



ガンガンッ キンッ! シャッ! ガンッキンッ!



「怖い。 怖い、 怖い、 怖い! ラメス! 怖い!

くそっ! くそーーーっ!

なんでだ! なんであんなに生き残ってる! 」


ラジェンドラが、恐怖にポロポロ涙を流して耳を塞ぐ。

ラメスは、落ち着いて彼に囁いた。


「お待ちを、どちらにしろ長くは持ちません。

ご覧を、敵は皆重傷を負っています。」


川を見ると、トーケルはその隙に川を渡りきろうとしている。


ラジェンドラが、ラメスの腕を振り切り、馬車の影から飛び出し叫んだ。



「 貴様! アレクシスが戻らなくともいいのか!!

そいつを渡さぬと奴のクビを切るぞ! 」



その言葉に、サムエルが目を見開き顔を上げた。

苦虫をギリギリと噛みつぶすような顔で剣を取り、川を上がろうとするトーケルに向けて走り出す。


「フレデリク様! お許しを! 」


ギリギリと、歯が割れるほどに噛みしめて、彼はトーケルの背に向け剣を振り上げた。


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