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552、ティルクからの使者

後発隊は、その頃トランとの国境近くの山間の道を進んでいた。

王旗を掲げ、山腹の森を進むとアトラーナとの国境も近くなり、報告を聞いて先発隊へティルクと合流する旨の連絡を走らせる。

しばらくすると、合流予定のティルクから使者が来た。


森を進む後発隊が、一旦指示されたトランとの国境付近で集まりティルクを待つ。

実はケイルフリントはトランとも接する箇所はあるが、地図上では表記出来ないほど短い距離だ。

しかもその国境は川でありケイルフリント側はほとんどが崖で、川向こうがトランという、長年変わりようのない国境線を画している。

川は両国の間の山から流れてくるもので流れが速く、周辺は古代から頻繁に川の形が変わり複雑な地形となっていた。


隊が進む道の近くの川は、そこでなだらかに曲がり、崖の下に河原を作っていて、長い坂を下って疲れた旅人が、旅の途中で水場を求めるにはうってつけの場所だ。

川向こうの森のトラン側には流石に兵の姿は無く、水を汲む良い機会になって歩き疲れた兵達もしばしの休憩に息を付いた。



ティルクからの使者は、サントスという、なぜか16.7の少年で従者を4人連れていた。

貴族だというサントスは、小麦色の肌に豪華な金髪、美しい碧眼の見目の良い少年だ。

小麦色の肌は珍しく、恐らく母方が南方の方なのだろうと思えた。

物腰も柔らかく、貴族らしい姿はいくさなどと言う荒事には縁が無いように見える。

馬車の中で話しをしながらも、馬に酔ったのか気分が悪そうな様子を時折見せる。

水を出そうかとしたが、たおやかに断りを入れられ、指先まで手入れされた美しい手にドキリとした。


「ドアを開けて風を入れて下さいます? 」


「ええ、よろしいですとも。」


小さく息を付いて、刺繍の入ったハンカチで口元を押さえる。

詰め襟の長い丈の紺色のジャケットに入ったスリットをヒラヒラとさせて、あおぐような仕草を見せた。


「ご気分がお悪いので? 」


「ええ、普段は王宮にいるものですから。初めて乗ったシニヨンに酔ってしまいました。」


ズボンを履いた足を綺麗に揃え、まるで女性のような仕草に不思議な印象を覚える。

それでも腰には派手な金糸が入った刺繍の帯を締め、スラリとした剣を携えていた。


「旅に慣れないと、移動はお辛いでしょう。」


器を図るようなトーケルの言葉に、サントスがクッと微笑む。


「ククッ、何を仰います。戦に行くのに、辛いもありませんわ。

戦に出るということは、我が国を負って出るという事、我が王のためならば命もいといません。」


「まったくでございますな。失礼した。」


どこか旅姿には遠く、汚れ一つ見えない姿から見ると、今まで馬車に乗っていたのだろう。

4人は森を移動するには適している、シニヨンに乗って現れた。

朗らかで美しい少年の巧みな話術に、王子フレデリクも気に入ったようで話が弾む。

捕らわれたままの従兄弟の王子も息災だという話も聞くことができた。


「我が王は、長年のケイルフリントとの確執を捨てて、共に手を携えアトラーナを落としたあとは共に統治に関わりたいとのお気持ちです。

アレクシス王子も近々開放されます。

今回の侵攻に関しては、我らも最善の手を尽くしますのでどうぞお気遣いなく。」


「そう言って頂ければ心がラクになります。

先鋒隊からは、なかなか手堅い砦城だと連絡が来ています。

先鋒隊で落とせなかった場合は、手をお貸し願いたい。」


「もちろんでございますとも。」


サントスがにっこり微笑んだ時、彼の背後で大きな音が地響きと共に馬車を揺らした。



ドーーーンッ! ドーーーンッ!


ガラガラガラッ 「わああああーーー・・・ 」


ドザザザザッ! 「ギャアアア!! 」



「 な、なに?! 」


「 王子! 」


聞いたことも無い爆発音に、地響きが馬車を揺らし、思わず立ち上がったフレデリクをトーケルが庇って床に伏せる。

ドスンと近くで大きな音がして、ミュー馬が暴れて大きく馬車が揺れた。

フレデリクが彼の腕の中でまわりを見回すと、サントスも同行者が2人覆い被さっている。


「私まで殺す気か?! 」


サントスが、悲鳴じみた声を上げる。


「トーケル殿外へ! 」


こちらの騎士の1人が外へと飛び出し、惨状に唖然とする。

休憩していた兵達は、その半数が上から落ちてきた土砂や石に潰され、死傷者がどれくらいいるのかも計り知れない。


「馬鹿な! 一体何の音だ?! マテウス! 外はどうなっているか! 」


聞いたことも無い爆発音だ。

この世界で、火薬の存在は知っている程度だが、身近な存在では無い。

トーケルたちも、初めて聞く音にパニックを起こした。


「崖が崩れて! 兵が半数がやられてい…… ウッ! 」


言いかけた時、マテウスの胸を矢が貫いた。


「 マテウス! 」


声も上げずにその矢に目をやり、そのまま後ろに倒れて行く。

サントスは、まだ同行者が覆い被さり守っている。

つまり、

終わりでは無い!


「 奇襲か! まだだ! まだ動くな! 」


「マテウス! 」


もう一人の騎士が、思わず外に飛び出そうとする。それをトーケルが止めた。


「サムエル外に出るな! サントス殿! これはどういう事か! 」



ヒュンヒュンヒュンッ! ピュピュンッ!

カカッ! ダンッ! ダダンッ! カカカッ!



間髪入れず、次は風切る音と共に、無数に壁や屋根から矢が突き刺さった。

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