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548、砦城の中

少女の魔導師のあとを、ケイルフリントのフェルグ隊は砦城の中へと入っていった。

橋を渡った関の中は高い塀に囲まれ、城との境界にも塀がそびえて関を綺麗に分けている。

その塀の上部には恐らく弓兵がそこから狙うのだろう穴が複数空いていて、出口を塞がれると隠れる場所も無い閉塞空間で、上から狙い撃ちされるのだ。

しかも城ヘの内塀に入る入り口には木と金属を組み合わせた扉を開けると、方向を変えて二重に大きな扉があり、その守りの堅さに見回す女隊長は思わず首を振った。


「この城、作りがいいな。攻めにくい」


質素な彫刻が施してある外の石廊下を進みながら、女隊長が後ろから話しかけると、少女がククッと笑う。


「アトラーナの歴史は汝らの国より古い。

この城は古代の巫子であり王であった御方が建てたもの。

豪傑堅固、勇猛果敢で知られた賢王だ。隙などあるはずも無い。」



「それは存じませんでした。

良い事が聞けました、ありがとうございます。」



突然、正面に白い巫子服を着た赤い髪の少年がニッコリとお辞儀した。


「これは…… わざわざお出迎えとは恐悦至極にございます。」


少女が立ち止まり、うやうやしく黒いドレスをつまみ上品に一礼する。

女隊長はジロリと睨み付け、フンと息巻いた。


「貴様か! 不気味な技を使いおって、何者か! 」


「無礼な、控えよ。」少女が杖を振る。


「な……? うっ! 」


「なんだ?! 潰される! 」


隊の一同はドスンと背に見えない力で上から押し付けられ、立っていられずとうとう膝を付いた。

リリスが慌てて少女に手を振る。


「え? 駄目です、そのようなこといりませんよ? 術を解いてください。」


「しかし、無礼を許しては示しが付きません。」


「私が良いと申しましたので。

さあさあ、公のお許しは得ましたのでこちらでお話ししましょう。」


「は、ご無礼いたしました。お前達、言葉遣いには気を付けよ。」


少女が杖をトンと地に着くと、いきなり重しが外された。


「くそっ、奇妙な魔法ばかり使う。一体何なんだ。」


息を付いて肩をさすり、立ち上がるとまた先へ進む。

やがて外廊下から、両脇を兵が守る扉を通り、中の廊下へと入った。

中は思った以上に質素で、飾りと言えばケイルフリントにもある透かし彫りのレリーフが窓や廊下の壁にあるくらいだ。木は色が変わっていて、妙に時代を感じさせた。

所々に小さなタペストリーが花を添えて飾ってあり、高価な品はあまり見られない。


「以外と中も質素だな。」


「ハハッ、何を思っていた? ここは砦だぞ?

戦いになれば、まずは最初に戦いになる場所であり、そして砦を取られればここにある品など全て略奪される。

そんな場所だよ、隊長殿。」


少女が皮肉を込めたように話す。

彼らはここを落とすための斥候なのだ。


「なるほど。」


廊下の先で側近らしい、あつらえの良い騎士が兵を連れて出迎える。

城主に会う前に、剣を預かるようだ。

いぶかしい目でリリスとケイルフリント一行を見ると、槍を持つ兵が横に並んだ。


「剣をここに置いて行くように。

手は後ろに縛れ、後ろの者は牢へ! 」


「 はっ! 」


リリスがスッと、前に出て遮る。


「不要です。剣は魔導師により封じてございます。」


「問答無用、この砦の決まりに従ってもらう。」


「決まりはありましょうが、ケイルフリントは友好国であるはずです。」


「こいつらは我が国に攻め入ろうという輩だぞ? 」


リリスが、手の平を騎士に向けて広げた。


「まだ! まだ攻め入ってなどありません。滅多なことを申されますな。」


巫子服を着る相手に、兵はどうしたものかと騎士の顔を伺う。

怪訝な顔で、騎士が腕を組みリリスを見下ろした。


「まあ、あなたがどうお考えか存じませんがね。

これは我らの仕事、邪魔をなさるのかね? 」


「とんでもない、こちらは私がお頼みしてきて頂いた客人です。

どうぞ、礼を尽くされますように。」


その言葉に、騎士がプッと大げさに吹きだした。


「はっ! わははは! なんと滑稽なことを申される。 

客人だと? こやつらの仲間はすでに捕らえている。

ケイルフリントの偵察隊であろうぞ、それを客人と申されるなら、巫子殿も我が国を裏切るとでも仰せか? 

そもそも、どちらの巫子殿かも存ぜぬが、無礼はそちらであろう! 」


「火の巫子です、どうぞここをお通しください。」


「断る! 捕らえさせて頂く! 火の神殿など聞いたことも無い! 」


リリスが、うつむいて首を振った。

どれほどの情報がこの国境まで来ているのか、こんなことしているヒマは無い。

フッと息を吐いて顔を上げた。


「通して下さいませ。」


「あなただけ行けば良い。おい、捕らえよ! 」


騎士は構わず兵に命令する。

リリスが大きくため息を付いた。

横に立つ、神官2人がドキリとする。

だが、そんな事お構いなしに、顔を上げると睨めつけ大きく息を吸った。



「汝の許しなど必要ない! 客人に無礼を働いてはならぬ!


通せ!! 」



怒りにまかせて、ボッと髪に火が付いた。

火は大きくうねり、髪が逆立ち燃え上がる。

初めて見た者達は、燃える頭で平然と立つその姿に恐怖を覚えた。


「うわっ!わああ! 」

「燃えてる!燃えてるぞ! 」

「み、水を! 大丈夫、なのか?? 」


恐れて壁際に下がる兵達の中央で、騎士が驚いて大きく口を開けたままリリスを見つめる。

リリスは無言でその横を通り過ぎると、ケイルフリントの一行も恐る恐る先に進んだ。


ボボッっと音を立てて、リリスの髪から炎が毛先へと消えて行く。

呆然と見送り、兵達が立ち尽くして見送った。

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