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547、信じることが盾になる

ミスリルの男は、頭を下げたままラグンベルクに声が届く場所へと移動して声を上げた。


「歩みを止めて申しわけありません。

私は宰相家に仕えるミスリルの流れを汲む者。

このあたりの情報を探っておりました。」


「証しはあるのか? お前が我らに組する者だという証しは? 」


側近が怪しさに問うが、ラグンベルクが遮った。


「お前を信用しよう。

我らは今、そうする事が唯一の盾になる。」


「ですが、罠かもしれません! 」


「罠であったら血が流れるだけよ、それがどちらの血かは覚悟次第。

我らは血反吐吐いてもこの国を守らねばならぬ。」


ラグンベルクの視線の強さに、ミスリルは恐れを成して身体を硬くする。

だが、何の証しも無い、後ろ盾もない自分を信用すると言ってくれたのだ。


「ラグンベルク様のご期待に応えとうございます。

では、ご報告させて頂いてよろしゅうございましょうか? 」


「 許す! 」


「トラン領内を南からシニヨンに乗って向かってくる一軍がございます。

数は200ですが、速度、戦闘力において追従を許さぬ王子肝いりで有名な第2突撃騎兵団でございます。

国内拠点でシニヨンを乗り換える為、かなりスピードがあり、関の無い場所を抜けてくると思われますので、このままですと日暮れ前には合流可能かと思います。」


地面に石を置き、その位置関係を示す。


「合流か……

合流であればいいが、襲撃だと背後から襲ってくるか…… 

200に対してこちらは300、だが、あの騎兵隊に対峙して勝てる見込みは薄い。

本意を知る方法はあるか?」


「は、実は休憩を狙って、ケイルフリントが共闘を持ちかけているとうわさを吹聴してみました。」


「ほう、で? 」


「噂は早く広まり、隊を率いるライオネス卿が班の長をお集めになり、布令を出され見事にまとめられました。」


「ほう、いかに? 」


「はい。この戦いは、新しい時代を担う新王メディアス様の最初のご命令であり、隣国アトラーナとの協調をになう新しい時代に向けての重要な任務であると。

心に一筋の揺らぎも無い事を胸に、ティルクに対して共闘するようにと。」


「ティルク? だと? 」


「はい、ケイルフリントからは先発と後発の二軍に分かれてこちらへ向かっておりますが、先発はすでに国境付近。

後発はその近くでケイルフリント領内を通ってくるティルクと合流するようです。」


「領内を通しただと?? あのティルクをか?

今のティルク王は話の通じぬ相手だと有名だ。

ケイルフリントは一歩も通さぬと国境を守っていると商人に聞いたが、誤りであったか。」


「いえ、ケイルフリント王のお心変わりかと。

大変な緊張の中、ティルクの一軍が進んでいると報告があります。」


「バカな事を、前例を作るとそれを理由に押し切られる。

やもすれば領土を奪われるかも知れぬと言うのに。」


ラグンベルクが不味い事になったと視線を泳がせる。

側近が、腕を組んで息を付いた。


「不味い事になりましたな。

これまではケイルフリントが盾の役割を担ってくれましたが。」


アトラーナは直接ティルクの攻撃を受けた事は無い。

だが、ティルクの王は野蛮で有名だ。

気に入らない人間は平気で殺し、妻も5人目だという。

他部族の土地を侵略し、王族を皆殺しにして住民を奴隷にしたとも聞く。

そもそも今の王は、先代の父親を殺して玉座を乗っ取ったものだ。

大国でありながら、血族で婚姻を繰り返すと、たまにこう言う性格異常者が現れる。

アトラーナでさえも、玉座に着く事は逃れたがランドレール王子はそうであったのだ。


「道を作れば、ティルクが我が国に入り込む。

それはケイルフリントにとってもリスクでしか無い。

だいたいティルクと手を組むなど、考えられない事態だ。

今ケイルフリントが倒れたら、我が国はティルクに対して丸裸になる。」


「とにかく合流して砦城へ。

この急な動きの理由など、情報があるかも知れません。」


ラグンベルクがうなずき、ミスリルの男に視線を送った。


「引き続きケイルフリントとティルクの動きを探ってくれ。

頼めるか? 」


男が、静かに頭を垂れる。


「頼めるかなど、ご無用にございます。

どうぞご命令ください。その為に探っておりました。

このアトラーナの危機、我らミスリルも一族総出でお力になります。」


ラグンベルクがうなずき、そして手を広げて差し出した。

男が驚き、何をすればいいのかと戸惑う。


「手を出せ、人間は力を合わせる時こうするのだ。」


男が恐る恐る手を出すと、グッとその手を握って握手する。

大きなその手の力強さと暖かさに、半獣の男は全身の毛を逆立てて驚いた。


「頼むぞ、汝らは我が国の大いなる力だ。」


「は、は、はい。この命かけて、お守りいたします。」


その言葉に、ふと、リリスの 「命をかける必要などありません!」 と、声が聞こえたような気がした。

ラグンベルクが、豪快に笑い出す。


「わはははははは! 良い! 命は自分の為に使え!

それでは皆、心して行こうぞ! 」



「「「「 はっ! 」」」」



周囲の兵達も、その様子に驚きを持って見守る。

火の巫子の下で過ごした彼らは、それまで抱えていたミスリルへの偏見が、驚くほど無くなっている事に自身でその時気がついた。

どこか、新しい時代が開くのだと、心の奥底で明るい物が見えるような、そんな気持ちで顔を上げると、澄み渡る青い空を見上げた。

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