表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

547/580

546、捕虜にはならぬ、その覚悟

木の上の少女が、キャッと笑った。

その手には長い杖を持っているので魔導師と思われる。

長い黒髪が風になびき、見た目は15,6に見えるが自信に満ちた姿からはもっと年上なのだろう。


「まあ、ご覧なさい、凄いわ。隣国は女性の隊長がいらっしゃるのよ?

あなた賢いわ、剣など精霊相手に無駄な事。無駄に振り回すのは精霊を怒らせるだけよ。」


「それはどうも。」


別の枝に立つ、獣の顔をした青年が、彼女に報告する。


「主よ、これで合計22名、全て捕らえました。」


少女は、何でも無い事のようにうなずくと、フワリと浮いて地に下りてきた。


「じゃあ、城に戻りましょう。お茶の時間だわ。

あなた方も来て頂くわ。ある御方がお話があるそうなの。」


なんでも無い事のように、軽く声をかけて来る。

だが、実際の状況は重い事なのだ。そのギャップが異様に不自然で、彼女たちの気持ちを逆なでした。


「捕虜になるくらいなら自害する。

我らはその覚悟で、皆より一歩先を歩いているのだ。

これは戦争だ! 甘い事を言うな! 」


女隊長が言い放つと、周囲の部下たちも鋭い視線を送る。


「まあ、困ったわ。強制連行かしら? 」


少女が少し首を傾げ、困ったように城を見る。

いつもなら、まあ、勝手に死ねと言いたいところだ。

杖をトンと地に着き、巻き付くツルを締め上げる。

杖をクイと引き寄せるように動かすと、兵達がつんのめった。


「クソッ! この思い通りになど…… なんだ? 」


目前に小さな光がキラキラと生まれ、そこにポッと火が燃えた。

それが大きく膨らむと、揺らぐように言葉を発した。


『 あなた方は本当にこの戦いを望むのか?

私はそれを問いたい。

おいでなさい、あなた方が力になってくださる事で、あなた方の大切な方も話しをしやすくなる 』


「我らの大切な? 奇怪な奴め、貴様は何者か? 魔物なのか? 

汝が何者かは知らぬが、戦いを甘く見るな!

わかるか、王が敵国だという国に捕虜になる事の屈辱を!

我らを捕虜にするというのなら、差し違えても死を選ぶ! 」


火の向こうに人が揺らぐように見えて、彼らを指さす。

すると、巻き付いていたつるがハラリと解け落ちた。


『 厄介な事だ。あなた方は情報収集が任務のはず。

この国を知りなさい、恐れを知らぬ者よ。

この国が精霊の国と言われるゆえんを知って、そして報告するが良い 』


すると突然、女兵士の1人が、突然バッと駆け出す。


「イヤーーーッ! 」


剣を取って火に向けて振り下ろした。


「 ガッ! 」


身体にバシンと閃光が散って、硬直する。

その女は、白目を剥くと剣を落としてドスンと倒れた。


「ミランダ! 」


『 戦争など、その言葉一つで命が軽くなる。

だが、あなたはここでの戦いを回避しようとした。

ケイルフリントは、あなたのように無駄な戦いを回避して、少しでも命を守ろうとする民を斥候に使っている。

ならば、話し合いの余地がある。

その方も連れておいでなさい。来たら解いてあげよう 』


女隊長が、ミランダを抱き上げると肩に担いで立ち上がった。


「私だけでは駄目か? 部下はこのまま国へ戻してほしい。」


「隊長! 」「隊長駄目です! 」


駆け寄る兵達の姿を見れば、この女隊長がどれほど信頼を受けているかがわかる。

鎧を着けた女を担いでも揺るがない体躯に、露出する肌に見える傷跡が、大国3つに囲まれ、常に侵略を受けている国としての歴戦の勇者だと物語っている。


『 話をするだけです。あなた方はあの城の中も見たいのでしょう?

ならば丁度いいではありませんか。

愚かな巫子が、城の中に入れたのだとでも言いなさい。

私は恥も屈辱も、この戦いを回避する為ならいとわない 』


女隊長が、ハッとしてツバを飲み、うなずいた。


「わかった。ならば行こう。」


『 お待ちしております 』


火の人は、一礼してポッと消えた。

魔導師の少女が、ホッと息を吐く。


「なんて事かしら、私の術をいとも簡単に解いちゃったわ。

でもね、剣は封印させてもらう。」


トンッと杖を地に着くと、剣はツタが巻き付き抜いてもビクともしない。

手にした斧には、刃にグルグルとつるが巻き付いてしまった。

少女がどうぞと城へ招く。


「どうぞ、ケイルフリントの方々、精霊たちに従って、大人しく付いてきてね。

彼らが本当に怒ったら、私では押さえられないわよ? 

そうそう、アトラーナではね、我々を魔導師と呼ぶの。

魔導を使う魔導師。

そして、巫子は神の使いよ。巫子と名を聞いたらこうべを下げよ。

それがこの国のしきたり。」


うつむき、上目遣いでニイッと笑う黒髪の少女の青い瞳に、隊長がゾッとして首を振る。


「たちが悪い相手に掴まったか。」


「いいえ、とても幸運だと思って頂戴?

戦いであれば、あなた方は今ごろ土の下よ? 」


クスッと笑う少女を、獣の顔の青年が腕に抱きかかえる。

先になって城に歩き出すと、一行はうなずいてあとを追った。





その頃、西の国境に向かうラグンベルクの隊列に、1人の男が現れた。

ラグンベルクと側近はミュー馬に乗り、ベスレムとレナントの兵総勢300ほどを引き連れている。

前後を守られ、馬車にはお抱えの水の魔導師グレタガーラも共に来ていた。

一行は急行したい旨をくんで、ガラリアの力で途中までを一息に、城から狭間を通って移動してきている。

よってあまり疲れも見えず、砦城へと目指していた。

ただ、この途中というのには訳がある。

砦城にかかるあらゆる魔導に干渉しない為だ。

同じ地に属する魔導師がいる為に、安全圏よりも離れた場所に一行を出現させた。



その男は、急ぐ一行の行く手を遮らないように草原に1人頭を下げて、ラグンベルクの列に自ら声をかける事はしなかった。

だが、その服装は暗い灰色の上下が繋がった無地のシンプルな服で、靴は革を縫って布で膝下まで巻き上げている、見るからに足音のしない作りだ。

顔には口元を隠す覆いをして、普通の出で立ちでは無い。

普通の王族であれば、気味の悪い出で立ちに追い払うだろう。

だがラグンベルクは、チラリと横目でそれを見ると兵に顔を振った。

兵の1人が引き返し、男に何用かたずねると、男は自分はミスリルで、大切な報告が有ると言う。

ラグンベルクは隊列の歩みを止め、その話を聞く事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ