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545、先発隊の偵察部隊

ケイルフリントの先発隊から別れて来た、30人ほどの偵察隊が山に潜んでアトラーナの国境にある砦城の様子をうかがう。

彼らは別ルートで険しい山を、道なき道を越え山越えして先にアトラーナに入り、情報を収集するのが目的だ。

城に、どれほどまで近づけるのかわからない。


「魔導師がいるという話だが、魔術師の事だろう? なにか情報を持つ者はいないか? 」


女隊長が部下に問う。

山を越えてきただけあって、彼らの出で立ちは毛皮の帽子に分厚い手袋、最小限の金属の鎧の下に毛皮を着て完全な防寒仕様だ。


山の民らしく、得物に斧を持つ者も多い。

弓を持つ女隊長は、20人ほどの男女混合の部隊を持ち、同じ出で立ちで周囲を警戒する。

彼らはこの地方の山で暮らし、時に出没する山賊討伐隊でもある山専門の戦士たちだ。

ケイルフリントの言葉で、山の妖精を意味する「フェルグ隊」と呼ばれ、女性も男に負けない筋力と戦闘力を持つ戦士だった。


1人が手を上げ、発言する。


「知り合いが神殿の大きな祭りに行った時、巫子のお力を見る事があったそうですが、美しい剣舞の時に大きな石を触れる事無く切ったそうです。

それはそれは見事な物だったと。」


「奇怪な物よ、巫子は人にあらずか? 」


「精霊の王様にお仕えする方ですので、神に近いのかと。

この国は、そう言う方が集中してお住まいになっております。」


部下は見た事もないのに、自然と敬う口調になっている。


そうさせる物があるのだろう、1度会ってみたい物だ。

ふと、女隊長が背後を振り向く。


「なにか? 」


「この国の猟師だな、見られたようだ。」


「殺します。」


部下が斧に手をかけ、隊長の視線の先へ駆け出そうとする。

それを止めた。


「待て。良い、捨て置け。

我らがアトラーナに踏み込んだ瞬間から、足下がざわめいている。

この国は不可思議な者に守られていると王子も仰られていた。

すでに我らの侵入はあの砦城には知られていると想定したが賢明だ。

その証拠に、昨日までいた城の外の見回りの兵士を見なくなった。」


「見回りを増やすのが普通では? 」


「そうだ、だが、兵がいない。

何か、我らとは戦い方が違うのかもしれない。

ここで戦いに出てくるのは、恐らく兵ではなく魔術師だと思われる。

皆に伝えよ、蜂の巣はつついてはならんと。

とにかく、中の関を通って来るメリッサたちを待つ。」


「ですが、予定を大きくずれ込んでいます。山を越えるのが夜中になります、時間がありません。

じきに王子が率いる後発隊もティルクと共に合流します。」


「急くな、この空なら星が見える。案ずるな、出発ギリギリまで待つ。」


隊長が腕を組み、これまで集めた情報を書き留めた周囲の地図を広げる。

城は高い塀に囲まれ、一本道から川を渡る橋を渡り砦の門に入ると尋問を受けて、国の身分証、通行証を提示して通行する事になる。

つまり、通常の通行は普通に成されているのだ。

元々アトラーナは神殿への参拝が多い。

だが、目立つ人数で通ろうとすると、時に通れず追い返されると聞く。

砦の門は、正規ルートだけに厳しい。

橋を落とされたとしても、川は深さも膝までであまり問題では無かった。

ただ、足をいれた者が、何か異様な感覚で水に引きずり込まれるような恐怖を覚えたという。

それが何かはわからない。

砦は高い塀に囲まれ、攻めるなら関門を落とすしか無い。あの壁の向こうを知るのは重要だ。


王子とティルクと合流すると、総勢では圧倒出来るかもしれない。

だが、ここを落とすだけに多大な犠牲を出すなら、自分たちが来たように山越えして道なき道を避けて通るという手もある。

元々この各国が堅い守りで守る場所を、侵入ポイントに選んだのはティルクだ。

どう考えても、国境を越えるだけで犠牲が出るのは想像に容易い。

アトラーナとは国境線は最も長いケイルフリントだ。

わざわざここを選ぶなど、愚の骨頂だ。


「メリッサが戻ったら引き返し、本隊と合流して報告するぞ。

国境の侵入ポイントの変更を進言する。


あの城には、思ったよりも強い力の魔術師がいる確率が高い。

非常時に見張りの兵を引き上げさせても構わないと言う事は、その魔術師への信頼が絶大なのだ。

ここを通るのは命を削る行為だ。」


「だが、この砦を避けると厳しい山越えか山を避ける大回りのルートになります。

寄せ集めの隊には厳しいかと存じますが。合流すると圧倒出来ます! 」


「いや、それでも魔術師は厄介だ。何か嫌な予感がする。未知の力に剣では歯が立たん。

あたしはね、爺さんに魔術師にだけは関わるなって言われてんだ。」


女隊長から、爺さんの言葉が出たらそれは禁忌だ。

一同がうなずき、周囲を見張る男たちに引き上げの準備を告げる。

駆け出そうとした部下が、何かに足を引かれつんのめった。


「何だ? 」


ハッと、皆が周囲を見回す。

次々と、地面から白く光る精霊たちがニョキニョキと生えると足にまとわりついてくる。


「な、何だ、これは! 」


「隊長! 逃げましょう! うわぁっ! 」


部下たちが剣を抜き、光る小人たちを切り飛ばす。

小人は、だが切られた瞬間爆発的に膨らんで弾けると、地面を這うつるになり、それが幾重にも足に巻き付いてゆく。

小刀を取り出しザクザクとつるに突き刺しても切れない。

しかも傷つけられるとますますつるは巻き付いて、立っていられなくなりそのまま倒れた。


「くそっ! 」「動けないぞ! 」


「こっ! これが魔法か?! 魔術師の?! 」


それに対処するすべなど浮かばない。

女隊長が抗うすべも無く、つるに巻かれるままになる。


「駄目だっ! 抵抗するな、剣を引け! 事態を悪化させるぞ! 」


隊長の声に、戸惑いながら剣を抜いた者達が鞘へと戻し、ある者は剣を地に落とす。


「 隊長!! 」

「 隊長、上に! 」


部下の声にハッと顔を上げると、木の上に黒いコットンのシンプルなドレスを着た1人の少女が座って見下ろしていた。

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