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544,ついに火の巫子の存在を王が認める

困っている事があるだと? この巫子が?


「それは一体…… 」


マリナはため息を付いて言葉を続けた。


「我らが困っている事とは狭間の世界のこと。

一見この世界とは関係が無いようで関係がある。とだけ、今は言っておこう。

ガラリアは、それをお前達の前で言われたくないから姿を現さない。

空間を司るは地の精霊。だが、二つに分かれる地の精霊王の片割れ、ガラリアが同化したあれは力が弱い。

だから、精霊王でありながら解決法が提示出来ぬのだ。」


「地の王が、2人いるだと? 初めて聞く事だ、いや、かすかに聞いた事もあるような。」


「なぜ2人に別れたかなど、ただの便宜上なのか何なのかは知らぬ事。

だが、その力のほとんどをヴァシュラムは持っている。

我らは、死んでもヴァシュラムをここに引きずり出さねばならぬ。

解決せねば、お前達にも関わることだ。」


この巫子に、ここまで言わせる問題など、空恐ろしい。

だが、王は臣下達の願うような視線に腹を決め、口伝を破って彼と向き合った。


「承知した。

だが神殿建設は、そこから歴史が始まる。場所と規模と予算で覚悟のいる仕事だ。

だが、騎士長の覚悟を聞くと、まずは簡易的でも御容赦願うやり方もあろう。

まずはこの国を平静に戻さねばならぬ。

お力、お貸し願いたい。

我ら王家は、火の神殿の建設を約束する。」



おお!

おおお!



一斉に歓声が上がった。

だが、当のマリナはうれしさ半分だ。


「簡易的で済まそうとするなよ。火と日の神は最高神である。

権威ある神をないがしろにするから、夜を暗い中で過ごすしか無いのだ。」


「善処する。善処しなければ、皆が黙ってはいないだろう。

それで、手を貸してくれるのか? 」


「もう一つだ! 我らを巫子と定めよ。

私は構わず名乗るが、頭の固い赤はお前の意思を尊重して動じない。

お前が我らを巫子としなければ、赤はいつまでも巫子と名乗れないのだ。

この動乱の時、動きにくくて敵わぬ。

あれの身分を定めよ、王よ。」


「わかった。お前達を巫子と認める。

火の巫子よ、我が国の民に力を貸してほしい。」


マリナが気持ち悪いほど満面に笑みをたたえた。

そして、王に向けて手の平を下に手を差し出す。


「我らが仕える火は最高神である。」


王が、その手が何を意味するか目を閉じてため息を付く。

敬意を表し、手を額に当てよというのだ。

その瞬間、彼らが王の上に立つ。


それは……、 まだ早い。



王が、目を開き、そして彼に歩み寄る。

その小さな手を取り、ニッと笑うと握手した。


「今は全ての民が対等である。」


マリナが、その言葉に目を見開き、素っ頓狂な顔で首を振る。


「なんと姑息な王よ。」


「私は良い王ではないかもしれぬ。

だが、それも良かろう。

これからはずる賢くこの国を守らせてもらう。

良い王は、次代の王に任せることにしよう。」


部屋にいた全員が、王の言葉に思わず胸に手を当てた。

王の古くからの側近たちは、若い頃の賢く何にも捕らわれず物事に取り組んでいた頃のはつらつとしていた姿を思い出す。

それほど、王弟の宰相からの圧力は、王を殺していたのだと気がついた。


「我らも、供にございます!」


数人が拳を上げると、皆が拳を上げる。

マリナがニイッと笑って、ヨシとした。


「では、見てきたことを伝えよう。」


背の低いマリナがイスに登って立ち、テーブル上の大きな地図を見た。

一斉に、部屋にいる皆が集まってくる。

サッと王に手を差し出すと、王が気がつき指し棒を渡す。


「ケイルフリントから来た者達は、今この辺をこの方向へ進んでいる。」


マリナがだいたいの位置を指し示す。


「やはり狙うは砦城か。

西の一の砦にケイルフリントが向かっている。

戦の準備をと連絡せよ! 鳥を飛ばせ! 」


「援軍を送りましょうか? 」


「待て、話を続けよう。西の砦は一番大きい城塞だ。

今あの城を守るのはトレスト公、彼は魔導師を多く抱えている。

大丈夫、多少のことには持ちこたえる。

そうしてトラン、ティルクから守ってきたのだ。急くな。」


マリナがうなずいて続けた。


「懸念の通り、侵入する民は、この砦を目指しているように見えた。

それほど数は多く見えなかったが、砦に魔導師がいるなら大丈夫だろう。

まずはここの戦闘に時間がかかろうから、ラグンベルクが最初に接触するとしたら、それはシニヨンに乗ったトランの連中だ。

お前達は知らせたいと言うたが、この辺にはミスリルの気配を数名感じた。

恐らくはラグンベルクに手を貸すだろう。案ずるな。

彼は、お前と違ってミスリルとは良い関係を保っている。」


「それは、承知している。

この砦に増援を送るか…… 敵が本当に落とすことを考えるなら、増援が来ることは予定に含んだ方が良かろうな。 」


「いや、砦は元より自ら守り抜いてこそでございます。

一応、ここが破られたあとを考えた方が良いでしょう。」


側近と意見を交わし、王が顔を上げるとザレルが顎に手を置きマリナを見た。


「ティルクに動きはあるのかわかるか? 」


「わからん。私は国内しか見ていない。

地面に国境線があるわけでは無いから、この国を出るとどこからどこがどの国かはわからん。

私はこの世界に疎いのだ。何しろ長年黄泉で修行したのでな。

だが、毎日霊体で国中を飛び回っている。

まとまった人間の動きなら、ボンヤリと伝えることは出来るが、どれがどこの国かはわからん。」


「ボンヤリで構わん、人の動きを教えてくれ。」


「うん、そうだな、位置を教えてやろう。私に出来るのはそこまでだ。

記憶の景色を地図と重ねるから待て。

この模様が山だな? 川はどれだ。線のあとがいっぱいでわからん。」


「ああ、この地図は代々伝わるものだからな。

戦乱の時代にはこの辺の国境が頻繁に変わったのだ。

川はこの線だ。山間は略してある。」


「うん、置く物はあるか? 向きがわかる物の方が良い。」


執事がうなずき、兵の形をしたゲームのコマを一揃い持ってきた。

マリナが端に置けと指さすと、大きく息を吐いて目を閉じた。

部屋がしんと静まり、しばらくしてじっと地図を見る。

マリナの身体が柔らかに輝き、彼の身体から霊体が抜けて宙に浮く。

一瞬部屋の中がざわめき、静かになった。


コマが数個、ゆっくりと浮き上がり、地図の上へとフワリと飛び1個、1個と向きを変えて地図上に降りて行く。


部屋の人々から、小さく驚きの声が上がった。


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