表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

530/580

529、褒めて褒めて持ち上げる

椅子に座ったイルファに、パドルーが水を飲ませて汗を拭く。

疲れ切って身体が傾ぐイルファに、リリスが血止めの術を引き受け声をかけた。


「少し休んで、イルファ。」


「うん、 うん、 私は、大丈夫よ。

まだ戦えるわ。 リリ。 」


神殿の医術師見習いの少年が、イルファの手を水に浸し優しく洗う。

もう一人の青年が、彼女の顔を湯に浸したタオルを絞り、そっと拭いた。


「ありがと…… ああ、気持ちいいわ。ありがとう。

どう? リリ。」


リリスは、傷に手をかざして目を閉じている。

気を抜くと、血がすぐに胸いっぱいになるだろう。

ふと、ライアの顔を見る。

意識はなく、暗いランプに死人のような顔に見える。


息してる? うん、まだ浅くしてる。

血に溺れてない。中の血は全部吐き出せたのか。

傷を負った部分を完璧に血を止めてるんだな。

さすが、 水を操れるイルファがいてくれて良かった。


心の臓は動いてる、けど弱い。

血が少ない。

このままじゃ、他の臓にも影響が出る。


「やってみます。

私が縫い合わせるので、イルファは急いで血を増やして。出来る? 」


「うん、身体を巡る水分は増やせるわ。

リリが来るまで、少しずつ増やしてたの。

でも、術が干渉しない? 」


「大丈夫、我らの力は重なっても何ら影響は無いと思います。

魔導師の術とは違うから。


あと、主様が直接干渉するので、身体中の働きはもの凄く活発になると思います。

だから多少血が薄くなっても大丈夫。

神気がどのくらい回復を助けるか、良い方向を信じます。

とりあえず出てしまった量をまかないましょう。」


パンと手を合わせると、リリスの髪が、ボッと炎のように燃え上がった。

両目が赤く輝き、傷に添える手が赤い炎に包まれる。


断ち切られた場所が、チカチカとリリスの目に火花のように光って見える。

森で初めてこの力を使ったとき、ミラン様はあまりの痛みに七転八倒された。

まるで、火箸でも押さえつけられたようだったと。

あの時は、加減の調節がわからなかったけど、今ならわかる。


「主様、手伝って下さい。」


『 名前 』


「シャシュリシュラカ様、手伝って頂けますか?

この方は、今はまだ死ぬべきではないのです。」


『 イー ヤー である 』


「またそのような。」


『 対価を寄こせ。人間など触れたくもなし


 中に? なーかーにー  入れ だとおおおお 』


頭の中で、憤慨してビヨンビヨン跳ねている。

そう言われても、私の中には勝手に入っちゃうじゃないですか。


「対価と言われましても、急ぐのですよ。」


『 死にかけのー、 中は やだ 』


リリスが途方に暮れる。

対価なんて、求められたのは初めてだ。よほど嫌なんだろう。


「わかりました。うーーーーん、対価、対価か〜


では、術中ずーっと褒めます。凄ーいって褒めます。」


『 褒める〜? ずっと? 』


「ええ、術中ずっと。」


『 ふーむ、 まあ、 うーん 」


「では、帰ったら フィーネ(琴)などひいてお疲れを癒やすことに。」


まあ、神様が疲れるのか知らないけど。

とにかく急ぐのだ。


『 フィーネだと?! 汝、 汝、 本当に? ほんっとうに? 』


「はい、母上直伝の妙技でございます。」


『 うむ、うむ、良かろう。 まずは、褒めて 称えよ 』


「はい、承知しました。」


そのやりとりを、イルファがポカンと見つめる。

こんな駄々っ子みたいな神様もいるんだ。

緊迫した状況なのにウソみたい。

するとリリスの顔から、まぶしい輝きが覗き出た。


「慈悲深き我が神の御手、日の紡ぎ糸。断たれし場所を繋ぎたまえ。」


リリスの手を伝って指先へと、まぶしい光が降りてくる。

そしてその10本の指先から、白く輝く糸がするすると伸び、ライアの傷口から身体に入り込む。

イルファが、目を見開いてそれをのぞき込んだ。


「す…… ごい…… 光の糸が、縫ってる…… 」


糸はシュルシュル伸びて、どんどんつなぎ合わせているのだろう。

イルファの負担が軽くなる。


「良かった! じゃああたし血を増やすわ。


 いと、慈悲深き水の精霊よ、汝の子に力をあたえたまえ。

 この身の中で巡りをやめたその血を糧に、巡る血を作りたまいしその御手で、

 巡り巡り巡り巡りて血潮が巡る…… 」


イルファが呪を込めて、手印を切り血を作り始める。

リリスはその前で、光の糸でどんどん縫い合わせていった。


「ああ美しきその糸に、命の輝きあり。

汝、慈愛満ち満ちて、御身ますます栄えあれ、後々代々火の巫子が、尊き(とうとき)汝をあがめ奉る(まつる)。ああ美しき日の神よ、いと高き神、我が御神…… 」


ブツブツと、リリスはずっと日の神を称えている。

褒めますって、このことかと、信じられない顔で見ていても、リリスの顔は真剣で、額に汗がにじんで時々険しい顔になる。


「ああ美しき日の神、輝ける至上の美しさ、我らを照らす万能の神よ……


なんて素晴らしい、凄い凄い、なんと素晴らしい我が主。

私はなんと幸せ者か、ああ、わが愛しき我が神よ。

その動きに見とれます、なんという素晴らしい動き、このように目前でこの光景を目にする幸運!

まさに神、ああ、これが我が神、素晴らしい、素晴らしい、なんと素晴らしい…… 」


じわじわと、傷つけられた場所が修復されていく。

イルファの顔が明るく、心が軽くなった。


「 リリ、凄いわ! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ