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527、緊急事態

遠くまでようやく逃げおおせたレスラカーン達3人は、息を切らせて草むらに潜み辺りを見回した。

すでに真っ暗で、右も左もわからない。

逃走中、何故か行く先だけは、精霊の光だろうか、誘導するように点々と光るものが先ヘ先へと照らしてくれた。

その光も消えて、周りは虫の音とそして、すすり泣くレスラカーンの声だけが聞こえる。


「ライア…… 」


たった1人で戦って、生き残れるわけが無い。

ライアは、私の意思を尊重して付いてきてくれた。


「レスラカーン様、しばしここで待ちましょう。

パドルー殿ならば、我らの居場所はわかるやも知れません。」


「わかった。」


落ち着いた2人の声に、レスラカーンが涙を拭いた。

今はまだ、泣けるときではないのだ。



しばらくすると、夜空に3つ、真っ黒なグルクの影がひっそりと羽音を立てて飛んでくる。

パパッと小さな光が散って、ブルカが立ち上がり空へ向かって暗闇で火打ち石を鳴らした。


「パドルー殿です、レスラカーン様。」


「そうか。」


グルクはしかし、高度を下げてスピードを落とす気配が無い。

先頭のグルクが、大きく羽を広げて滑空してきた。


「なんだ? パドルー殿ではないのか? 」


「なにか、様子が! 」「 王子! 」




「 ご辛抱下さい! 」




「 あっ! 」「「 うわぁっ! 」」


突然パドルーの声が響き、いきなり3人は水の触手で身体を巻かれてそのまま飛び上がった。

5人を抱えて飛ぶパドルーのグルクは、重さに耐えながら次第に高度を下げて行く。


「どこへ行くのだ! 」


「地の神殿へ! 」


しばらく飛ぶと、巨大な神殿が見える。

そう言えば、ベスレムの端には地の神殿があったことを思い出す。

だが、今し方敵対したのは地の精霊王ではなかったか?


幾ばくかの不安を抱えながら真っ直ぐに神殿へ降りて行くと、下では先に連絡が行ったのか、すでに沢山のかがり火を焚き、数人が誘導している。


「乱暴ですが、離します! 」


「え?! 」「うわああああ!!! 」


目前で放たれた3人を、屈強な男たちが受け止める。

レスラカーンを宙で受け止め、着地した男が奇妙に高い声で丁寧に声をかけた。


「これはこれは美しい御方。

地の神殿へ、ようこそ。」


黒髪に、一房の青い髪のオパールが、レスラカーンをお姫様抱っこして微笑みお辞儀する。


「あ、ありがとう、助かった。

すまないが彼女の所へ連れて行ってはくれまいか? 」


「承知いたしました。」


そのままオパールは軽快に中庭を駆け抜け、降りたグルクの元へ行く。


「ケガ人だ! なんとか救ってくれ、頼む! 」


黒いメイド服に包んだ人を抱きかかえ、パドルーが身体にフィットした黒いボディスーツ姿で地の神殿の人々に叫ぶ。

レスラカーンがその言葉を聞き、ハッと顔を上げた。


「ライアが?! ライアがそこにいるのか?! 」


オパールの手の中で、顔を巡らせ耳を立てる。

そっと地に下ろされ、探る手の先で風が吹き抜け、ムッとするような血の臭いが立ちこめた。


「療術師を! 療術師長をお呼びせよ! 我らの手に負えない、早く! 」


バタバタと、喧騒の中で立ち尽くす。

彼はライアの手が無いと一歩も身動き出来ないのに、肝心のライアは命の火が消えそうになっている。

そしてそんな窮地に立たせたのは自分なのだ。


「ライアは…… ライアは…… 生きているのか? 」


後ろから、カリアとブルカが駆けて来る。

オパールは、スッと下がっていった。


「レスラカーン様、今は任せるしかございません。少しお休みを。

ブルカは傷の手当てに行け。」


「わかった。レスラカーン様、しばし離れます。カリア、頼むぞ。」


「わかった。王子、神殿の者に休めるところを聞いてきます、ここでお待ちを。」


カリアもいなくなり、身動きが出来ない。

自分がどこに立っているのかもわからない。


ライア、ライア、ライア、  「 ライア! 」


身体が死人のように硬直して、ブルリと震える。

まるで氷の穴の底に落ちたようで、ただただライアの無事を願いながら涙を流した。


ライアは出血で意識が遠く、血に溺れて呼吸もままならない。

真っ暗な地の底に迷い込みながら、遠くレスラカーンの名をつぶやく。

そこは中庭の回廊に面した救護部屋で、黒いメイド服に包まれたライアが血を滴らせて台の上に死んだように横たわっていた。






「 まずい 」


城の一室で休んでいたマリナが、むっくり起き上がった。

リリスは横で、布団にくるまって熟睡している。


わかってる。

疲れているのだ。


「それでもこれは、緊急事態だ。」


真夜中と言うほどではない。

1度食事に起きたが、リリスはウトウトしっぱなしでエリン…… オキビに食べさせて貰いながら、結局また寝てしまった。


「赤、赤起きて。ベスレムに行かなきゃ。

彼には恩があるだろ? あーかーー!!

見てただろ? え? 見て無かった? 赤、赤、赤! リリス! 」


ごろんごろん揺さぶっても、背をバンバン叩いてもビクともしない。

ムフーッと鼻息荒く考え、これはもうそのまま行くしかないと最後通告した。


「リリ! レスラカーンの側近が黄泉の入り口に立っている!

僕は連れ戻してくるから、君は手当を頼む!

地の神殿に頼むよ! リリ! 」


リリスが突然、ずるずると起き上がった。

しかし目が開かない。

声を聞いたオキビが来ると、水差しの水で置いてあったタオルを濡らしリリスの顔を拭く。


「んー……  地…… 、しん  で…… 」


「そう! そうだよ! とにかく行って! ねっ! 」


「皆疲れておりますので、私がグルクでお連れしましょう。」


「そうだね、じゃあたの…… え? 」


リリスの頭から、ピカーッと光るものが出てきた。

まん丸に光るものから、ぴょこんと長い耳が出てくる。


「え? 日の神? 主様? 」


「 うーむ、 行きたいと言うから行く 」


ウンザリしたような声が光から飛び出した。


「え? どこに? どうやって? 」


「 ヒトの、神殿、地の 」


ぽよーんぽよーんとリリスの頭で跳ねて、マリナの手の中に飛び込み、今度はその手の上で跳ねる。


「 うむ、汝も確かに火の片割れ。よろしく頼むぞ。お前は主様で許す 」


「ありがとうございます、それではグルクを用意させましょう。」


「 うん、あとで来るがいいぞ 」


ぼよーんと飛んで、リリスの頭に飛び移るとブワッと光が大きくなった。


「えっ?! ちょっ! 誰か神官を! 

ギャアア、誰か一緒に連れてって下さい! 1人は駄目ですってば、主様! 」


フッと光が消えて、リリスが消えた。


「ギャーー! やられたッ! こっ、これは手強い。一瞬で連れ去られてしまった。」


悲鳴を聞いて他の神官たちも駆けつける。

マリナはグルクで急ぎ地の神殿へに行くように、グレンとオキビに告げた。

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