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508、精霊の国では無いと言うこと

ルシリア姫が、リトスから使者が来たことを告げる。

リリスは、大きく一呼吸して訪ねた。


「それで?使者が来たという事は、何ら条件を持ってきたと思いますが? 」


「ご明察よ。

精霊の国として、今のアトラーナのありように我慢ならないって事。

つまり隣国から見て、今のアトラーナは精霊の国では無いと言いたいのよ。」


ルシリアが、従者から手紙を受け取り読み上げる。


「失礼致しますわ。リトスの申し出は、


その1、アトラーナ王は退位し、精霊を尊重する次代の王が戴冠すること。


その2、地水火風の精霊のありようにのっとり、火の神殿を再興すること。


その3、正統な歴史に戻り、精霊を尊重し共存の道を歩むこと。


つまり、精霊を捨てて侵略されるか、精霊の地位を戻して王家を安泰にするかという事ですわ。」


「馬鹿な! 内政干渉ではないか。」


「それでも、この小さな国の生き延びてきた理由は一つ。精霊を尊重し、共存の道を歩んできた。

それにつきますわ。

大国にとってこのアトラーナという国の価値は、精霊があってこその宝石。

精霊がなければ、ただの石ころという事。踏みにじっても痛くも痒くもない。

そう言う事ですわね。」


「姫様! ……言い過ぎでございます。」


「そうね。でも、真実なのよ。

これは目をそらしてはいけないことなの。

臣民の命を預かる王家として、泥水を吞んでも立ち向かう覚悟がなければ、王家の存在する意味など無いのよ!」


「姫様!」


レナント勢が、冷や汗を浴びながら王の顔を伺う。

ここに貴族でもいたら、恐ろしいことになっていただろう。

おかげで変わり者のレナント兄妹と、ガルシアは嫁の来てもないし、姫は行き遅れだ。

だが、姫は涼しい顔でニッコリと締めくくった。


「以上です。

非常時でしたので、こちらで話し合い、リトスの大皇の元へは宰相殿のご子息が使者に同行されました。」


ルシリアが、その手紙を王に差し出す。

王は苦渋の顔で受け取り、開いて目を走らせ侍従に渡し、怒りの表情でラグンベルクに声を上げた。


「なぜ、レスラカーンを一人でやったのだ! あの子は目も見えぬ、逃げることも敵わないのだぞ!

王家の男子を人質に出したのか?! 」


怒りに満ちた顔の王に、ラグンベルクがため息を付き、首を振る。


「レスラカーンを “あの子” などと呼んでいるから、わからぬのだ。

あれは立派な王家の男子として、自分で判断したのだ。

この国を守る為に、決死の覚悟で旅立った。誰がそれを止められようか。

兄よ、時間が止まっているのだ。サラ兄と共に、あなた方は。

子供たちは自ら成長を止めない。立派な男となっている。」


険しい顔の王は知らないのだ。レスラカーンの変化を。

彼が甘やかす父親に小さな箱に入れられ、自分を押し殺していた姿しか、王は知らない。


「王よ、レスラカーンの変わり様をお見せしたかったですわ。

彼は厨房の王子と呼ばれて、それは人気者でしたのよ?

村の女達が願いを込めて送り出しました、きっと大丈夫ですわ!」


背筋をピンと伸ばしたルシリアが、希望を持って明るく力づける。

無責任な言葉にも取れるそれは、彼女が言うと何故かひどく力強い。

リリスがそっと、横から訪ねた。


「わざわざ条件を付けて使者を送るとは、なるほど、あちらの偉い方は精霊の国である事を尊重なさっている。

それで話し合いの余地ありとレスラカーン様は判断なさったのですね? 」


「あら、そうよ。ウフフ、あなたたち本当に似たもの同士ね。

さすが従兄弟ですわ。」


「イネス様も一緒ですか? 」


「そうよ、イネス様に水月の戦士も同行されているわ。」


イネスが、やっと動いた。

自信を失っていた様子で心配だったけど、動いてくれたんだ!

よかった!心配だけど、良かった!


明るい顔のリリスが、彼が一緒ならと少しホッとする。



ぐうううううううう



「はっ 」


リリスが腹を押さえた。



ぐうううううううう



横で、マリナの腹も鳴った。


「腹減った。」


「そう言えば、昼抜きですね。」



「 ぷっ 」



「「「「 わはははははははは!! 」」」」



部屋が笑いに満たされ、険しかった王が眉を上げて笑ったように見えた。

そして視線で侍従長に合図する。

侍従長が目配せすると侍従が下がっていった、何か準備させるのかもしれない。


「あの、食事でしたら後で皆さんと…… 」


王が逆に気遣いは無用だとゆっくり首を振った。

横の王妃が、笑いながら身を乗り出してくる。


「非常時です。残念ながら、大した物はお出し出来ませんのよ。」


「いえ、 あ、はい。」


あ、そうか。

いや、そんな事じゃないんだけど。

迷っていると、すぐに侍従がやって来た。


「どちらでお召し上がりになられますか? 」


マリナが見回し、床をさす。


「そこに置いてよ、好きに食べるから。

赤、見てわかるだろ? 腹が減ってるのは僕らだけだよ。食べよう。」


侍従がチラリと侍従長を見る。


「王の御前ですが。」


だが、マリナは構わず言い放つ。


「構わないと言っている、我らがいないと話も進まぬ。

何故2人分しか持って来ない! 汝の目は節穴か?

共に戦っていた、我が後ろにいる者の分も持ってくるのが道理であろう。

汝が行いは、王に恥を掻かせるものぞ。」


マリナの言い分に仰天して、侍従がまた王の方を見る。


「非常時です、気にする必要はありません。準備なさい。

被害を受けたのはこの城のみです。食料の調達が必要でしょう、急がせなさい。」


王妃に侍従が頭を下げると、急いで他の召使い達が椅子とテーブルを用意して食事を並べた。


食事はスープにパンと塩漬け肉を焼いたソテーに茹でた野菜、パテ、果物と、軽くと言ってもさすが王家の食事番だ。

皿の下にメモが見えてリリスが取って見ると、パンの間にパテやオリーブ油を塗って、お好きな物をはさんで食べてくださいとある。


“ 巫子様、お疲れ様でございました。 ”


最後に一言添えてあって、マリナに見せた。


「 ほら、これ 」「 うふふふ 」


2人でそれを見て、その一言が舞い上がるほど嬉しかった。


パンを割ってパテを塗り、塩漬け肉をはさんで頬張ると、塩気が効いて凄く美味い。

スープも黄金色の香りの良い物で、一口飲むともう、抗えなかった。

隣でマリナが、一口食べると驚いてささやく。


「美味いな、久しぶりだ。現世に戻って初めて食うぞ、こんな美味い肉。」


「これが軽食とは。

こんなごちそう、こっちの世界じゃ滅多にないですね。さすが王様。

マリナは、もぐむぐむぐ、ごくん。もうちょっと話し方をですね。」


「非常時だ。我らが王家にへつらう義理もない。あんぐ、ムシッ」


むぐむぐ並んで座って食べて、ようやく落ち着いてくる。

神官達も腹が減っていたようで、顔の前垂れ下ろしたまま、下座で固まってモソモソ食べていた。


横では、また報告と議論が始まった。

王が気を取り直し、険しい顔で報告を聞く。

リリスたちも食べながらそれを聞いていた。

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