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505、駆け引きと言う、戦いが始まる

隊長の言う、ここで言えないとは士気に関わることか、もしくは混乱を生むものか、リリスが周囲に視線を走らせ目が合った者に微笑みながら声を潜めた。


「ラグンベルク様は?」


「来客棟の王の元へといらっしゃっているはずです。」


横には、いつの間にかガーラントとミランも立っている。


「ブルースは王と同行した。行くか?」


「はい。ただ、どう行けばたどり着くかをよく存じません。」


ミランが前に出て、胸に手を当て頭を下げた。


「私がご案内いたします、巫子殿。」


「では、お願いします。

エルク隊長!人員確認と城内の再点検を願います。

魔物はいませんが、ケガをしている人を1つの部屋に集めて治療を。

それと、亡くなっている方のご遺体を何とかしなければなりません。

人を集めてください。

あっ! それと食事の用意も! 」


近くの兵達が、そろって手を上げ横に振る。


「心配ご無用、こちらはお任せ下さい! 」

「そうだ、巫子殿はお忙しかろう! 」


頼もしい返事が来て、なんだか嬉しい。


「えー、私にまだ何かやらせるおつもりですか? 」


笑って返すと、ドッと笑いが起きた。

みんな、何かを自分に期待している。

その願いにも似た気持ちが、ひしひしと伝わる。


「皆わかっております。

巫子殿は、ご自分のなさりたいことをなさってください。」


隊長がそう言って頭を下げたとき、後ろで声が上がった。


「被害の少ない本館を先に原状回復するぞ! 」

「皆! 心せよ! 」


「「「 おう! 」」」


ほうっと、リリスが微笑んで空を見る。

そして、キュッと顔を引き締めた。


まだ、まだやることがある!


「 では、参りましょう! 」


「はっ! 」

「お任せを! 」


リリスの頭の上に、ウサギ耳の光の玉が頭から飛び出してポンポン跳ねる。

動き始めた人間達を、物珍しそうにリリスの頭の上で見ていた。


「主様、王にお会いになられますか? 」


『 我、関せず 』


クフフフと笑って、ハイと返す。

まあ、今まで人間への接触も避けていたようだから、恐らくは会ったことも無いだろう。

ああ、そうだ。そうだった。


「主様のおかげで闇落ち精霊を倒せました。

ありがとうございました。」


パッと、フラッシュのように明るくなって、光の玉が大きくなった。


『 諾である。ただし、 汝は我が巫子! 我にもっと優しくしろ 』


「もちろんでございます、私はあなた様のしもべ。」


『 うぬう、ちっとも解では無い! 』


ボヨンボヨンボヨン


ウサギ耳の光の玉が不満げに、笑うリリスの頭で跳ねた。



居住棟の廊下を進み、突き当たりを曲がって正面に現れた来客棟へのドアを叩く。


「話によれば、結界があるとの話ですが。やはりまだ開きません。」


ホムラが何度も叩きながら、レバーを下ろしてみるが確かに開かない。


「それは困りましたね。魔導師様は…… 」


リリスがレバーに手を伸ばした瞬間、バシンとスパークが走り、ドンと地響きがした。


「あれ? 」


サッと手を引っ込めてももう遅い。


「吹き飛びましたね。」


「え? 」


「赤様、結界が吹き飛んでしまいました。」


えーー!! 心の中で叫んだけど、焦りながらニッコリ微笑んだ。

マズい、自分の力が何に干渉するのかさっぱりわからない。

戦いの最中に、触れなくて良かったと思った。


「ま、まあ、悪いものは消えましたし、いいでしょう。入ります。」


「 は 」


ドアを開けると、2人騎士を引き連れた老紳士が丁度ドアの前に立ち止まった所だった。

仕立ての良いベストにスカーフタイをして、刺繍の入った黒いコートを羽織り、白い手袋の手を胸に当て、ゆっくりとお辞儀する。

ルクレシアの横にいる執事ではない、もう一つ上の立場の人間だと、一目でわかる。

白い髪に落ち着いたたたずまいは、恐らく王の信頼を得ているのだろう。

一瞬なぜ、こんな人がここにいるのかわからず、一緒に来たメンバーを見回した。


「侍従長のロルドーと申します。殿下。お見知りおきを。」


殿下?


リリスが眉をひそめ、顔を背けた。


「殿下などと、呼ばれる筋合いはない。

そう呼ばれるのであれば、私は外で皆の手伝いをする為、作業に戻ります。」


「おお!これは失礼を!巫子殿。

お連れしなくては、私がこの老体に千の鞭を受けましょう。

どうぞお怒りをお納め、王の部屋においで下さい。」


リリスが大きく息を吐く。

これは駆け引きだと感じた。本当に、王城は嫌な所だ。

一分も気が抜けない。

彼は恐らく、自分の器を測っているのだと思う。

巫子とさえ、呼ぶに値する者かどうか。

傀儡下において操りやすい人間かどうかの。


考えすぎか。彼は王の忠臣の1人に過ぎない。

いや、忠臣とは重いものだ。

私の周りにもいるではないか。彼らは大きな力だ。私の、後ろに立ってしっかりと支えてくれる。


「わかりました。どうぞご案内よろしくお願いします。」


そう言いながら、王家の手の平返しが怖い。

つい先日まで、命を狙われたのだ。

傀儡になど、なる気も無い。


「赤様、我らが控えております。ご安心を。」


ホムラが、リリスの気持ちをくみ取り、横からささやく。

そうだった、一人ではなかった。

「ありがとう、皆様。」 振り向き、顔を引き締め大きくうなずく。


頼りにしていると。



2階に上がり、中央のひときわ大きな扉の前には、騎士が2人、剣を携え立っている。侍従長は先を行き、正面に並び頭を下げてリリスを迎えた。


「こちらでございます。」


横には顔見知りのベスレムの兵もいて、リリスに軽く手を上げ、ニッと笑ってみせる。

なんだかホッとしてニッコリ笑った。

侍従が1人、ドアの前にいて一礼するとドアを開く。

開かれたドアから、サッと光が差す。

だが、リリスは突然、足が進まなくなっていた。


あれ、なんだろう。

なんだか胸に、重い物が沸いて出てきた。

あれ? 何で僕ここに来ちゃったんだろう。まるで、当然のように来ちゃったんだろう。


ああ、なんか帰りたい。


だいたい、ここで言えない事ってのが気になって、つい足が向いたんだ。

ダメダメ、私のこう言うとこなんだよ、なんでも首を突っ込む。


ああ………、 ほんとイヤだ。もう悪霊消したんだから十分じゃないか。

僕にこれ以上、何を期待するって言うんだ。


足が動かない。後悔ばかりが胸に広がる。

ルークが心配して、横に立ち背に手を添えてくれる。

見上げると無言でうながすけれど、足に根が生えたように動かない。


ヌウッと、部屋からザレルが現れた。


「何をしている。臆したか、お前らしくもない。入るがいい。」


「ザレル様、でも。」 足が動かないんですよ。


「父だ。早く慣れよ。」


そう言って、背を向ける彼の大きな背中に、突然パッと心が軽くなった。

すごい、なんて頼りになる背中だろう。

父と呼んでいいのだと言ってくれる、そのうれしさに頬を赤らめる。


ふと、穴を塞ぐ火の精霊の事が思い出された。


まだだ!まだ、わたしはやることがある!


「はい! 父上! 」


足が、ようやく動き出した。


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