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499、ラグンベルクは兄王の元へ

「御館様!こちらはお任せを!」


ベスレムから来た側近の1人が、頭を下げる。

ラグンベルクはうなずき、予定通り別行動を取ることにした。

彼には彼の目的があって登城してきた。

他の兵達は、城を守る者達の加勢だ。

いまだ多く兵や女達が残っている。


「我らは王の元へ参ろうぞ。」


ラグンベルクが告げると、グレンが前に出て軽く頭を下げた。


「青の巫子、マリナ様より案内を仰せつかっております。外廊下を行きます。

先導いたしますので、御容赦を。」


グレンがそう言って前を歩き出す。

彼は兵達とは別れ、ラグンベルクを密かに本館の西の通用口へと案内する。

数限りない抜け道のある城で、それはラグンベルクも知らない道だ。

とにかく、西の外廊下を行き、通用口を目指せとはマリナの指示だ。

それを通ると、安全に来客棟へと行き着くらしい。


「お早く」


正面のアプローチを通らず、使用人が使う外廊下をぐるりと回る。

皆持ってるだけの甲冑や鎖かたびらなどの金物を着けてきたので、歩くとカチャカチャと金属音がする。

精霊の嫌う金物を付けることは、闇落ち精霊に効くかはわからないが、やれることは全部やるとレスラカーンの提案だ。皆急いで、持っていない者もあつらえた。

甲冑姿のラグンベルクが、腰に手をやり声をかけた。


「汝は心配であろう、良いのだぞ、主の元へ行けば良い。」


「これも主のお言葉でございます。」


「ほう、命令とは言わぬのか?」


「命令などとは俗世の言葉。我が巫子に相応しくは無い。」


そんな言葉遊びをしているヒマは無い。

マリナの指示には、背後に色々な関わりが隠れている。

青の巫子は実体は動かずとも、強い精神体で天の目を持っているのだ。



暗い壁の向こうから、死人の兵が2人、泥だらけで剣を携え現れた。

土の中から出てきたのか、すでに顔は腐れ落ち、髪の生えたガイコツだ。


「御館様!」


ラグンベルクの側近達が緊張する。

黒い泥が足下からあふれ、ひどく汚れ(けがれ)ている。

死んでからまで、触媒にされているのだ。


「哀れな……」


グレンは左手を伸ばして皆を止め、右手で顔の前に指2本立てると、長い爪をカカッとこすり合わせて死人に向けた。


「シッ!」 ボッ、ボウンッ!


火に包まれた死人(しびと)たちは、よろよろと廊下を外れて外に歩き出し、折り重なって倒れる。

黒い泥は火を畏れるように引いて、死体から消えていた。


「何故、死人が立ち上がるのだ。」


「悪気が餌を探して操っているのです。

だが、こうなる前に地の王が押さえれば抑えられたはずだ。」


「死人の領域はお前達、火では無いのか?」


「火の巫子は黄泉を司る者、死人の身体は地が土に返すのだ。

王族が、属性で司る領域も知らぬなど腹立たしいものよ。」


ラグンベルクが、ニヤリと笑って首を振った。


「まったくだ。先祖を殴りたくなる。ん?なんだ?」


ポッと、木に覆われて暗くなっている場所に光が生まれた。



「 耳が痛いことよ、確かに死人の身体はこちらの領分だがね。 」



涼やかな声がして、アデルの姿がそこに突然現れた。

ほの明るく輝いて、まるで精霊のようだと思う。

アデルがラグンベルクに一礼すると、顔を上げてニッコリ笑う。


「よくぞ、この暗たんたる城においでになられた。

王がお待ちです。」


ラグンベルクが腕を組み、無言で見下ろす。

気に入らない様子で、指を指した。


「真の姿を現せ。この状況下で、見たものしか信用出来ぬ。

わしは兵の命をレスラカーンより託されている。

もし汝が地の者ならば、死人を止めて見せよ。」


「それは……この悪気が強い今は難しいのです、王弟陛下。」


アデルの姿が輝き、精霊のようなドレスをまとうガラリアへと変わる。


「おお美しい、やはりセレスか。いや、今はなんと言う名だ?」


「ガラリアでございます、陛下。私の本当の名。どちらでも良いのですが。」


目を伏せて一礼すると、スッと細い手を上げその場を閉じる。

先ほどまで聞こえていた兵達の戦う声も、突然聞こえなくなった。

彼の足下には、若草がサワサワと伸び、草花が飾っている。


もう、すでに彼は、人間ではないような気がした。


「こちらへ。戦いは激しく、王には場所を移していただけないかと申し上げたのですが、見届けると。」


「で、あろうな。

戦いを見て尻尾を巻くようでは、矢面で戦う息子に顔向けも出来ぬ。」


ガラリアが、薄く笑って手を振ると、空間に入り口が現れた。


「どうぞ、来客棟に繋げました。」


「うむ。」


足を踏み入れると、そこは毛足のない繊細な模様の敷物が敷き詰められた広間に出て、顔を上げると窓からの明かりのみのやや薄暗い室内にザレルと王の側近が出迎え一礼する。



ドザザザザザザザ、ドドーーーーン!



地響きがして、装飾のある窓をビリビリと揺らす。

薄いカーテンが、振動で動き、閉じて行く。

滅多に入らない来客用の客棟だ。

アトラーナの権威を誇示するように、壁には精霊の飛び交う美しい絵のタペストリーが掛かり、繊細なシャンデリアがカチャカチャと音を上げる。


「ベルクよ、よく来てくれた。」


上座の装飾が施された椅子に腰掛けた王が、静かに立ち上がった。

外の激しい戦いの喧騒とは対照的に、ひどく静けさに満ちた室内が、紙一重で安全を意味している。

ラグンベルクは久しぶりで顔を合わせた兄に、無言で首を振った。

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