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495、ランドレールの残る糸

闇落ち精霊が黒い泥にまみれ、もだえ苦しみながら顔を押さえてドロドロと澱を止めどなく流しながら身を起こす。



ウウウウウウ  オオオオオオ  アアアアア



命を食って、これまで生き延びて来た。

だが、人を丸ごと食ったのは初めてだった。

しかも、ランドレールは火の指輪の気配が強く、食った瞬間その力が地の精霊である自分の身体中で、激しく暴れて真っ黒の澱が吹きだしてくる。



そうだ、そうだった。


今までランドレールを食わなかったのは。



食えなかった、のだ。



木の精である自分と火は、天と地ほどに相性が悪い

恐ろしいほど馴染みが悪く、身体中が拒絶して、暴れ回る。



熱い、 熱い、 燃える、 溶ける、 溶けてしまう、 苦しい、



ああああああああああ 



チカラ、チカラガ、 ナガレダス、


ウグウウウウウ……  糸ダ、 らんどれーるガ、 残シタ、 コノ糸


チカラヲ、イノチヲ、 スベテ、 スベテ、 モット、 モットダ!!!


アアアアアア、ジャマダ!!! コノケッカイガァーーー



ジャマダァァァーーー




ザザザザザザ!!




黒い澱が渦を巻いて謁見の間の、結界の中でうねり、さざなみ、時に激しく壁を打ち付ける。

だが、ホカゲが張った結界は強固で、一分の隙も無い。

しかし、その突破する隙は、頭上に広がっていた。




ダアンッ! ダタッダタッダタッダタッタタタタタッ




天井を、音を立ててリリスとホムラが走り回る。



『 ォォォ…… ウルサイ…… ウルサイ  ウルサイッ!! 』



精霊はその不快な音に頭を押さえて、気が狂いそうに上を向き、黒い澱で槍を作り出し攻撃した。






闇落ち精霊が部屋を満たす黒い澱を操り、巨大な無数の槍を繰り出し、屋根を破壊していく。

ホムラを追って槍は突抜け、屋根の2辺を破壊した頃、とうとう荘厳な屋根はゆらゆらと踏めば落ちそうに強度を失っていった。


「ホムラ!飛んで!」


リリスが叫び、ホムラが羽を広げる。

突抜け、羽根を撃ち破ろうとする槍に向け、リリスが指さした。


「 光あれ! 」


カッ!


まぶしい輝きに、槍が一瞬で砂のように崩れ落ちる。


バササッ!!



バンッ! 「 あっつっ! 」


「赤様!」



真横を突然、黒い槍が突抜け、リリスの足をかすめると、宙でばらけて追ってくる。

網状に触手を広げ、リリスを捕らえようとした。


「火を放て!火打ち石!」


ホカゲが、前に伸ばした右手に杖を擦り付けながら、それに向けた。

杖から火が噴き出し、網の触手を燃やしてボロボロに散らす。


「いったん離れましょう!」


「わかった、ホムラ離れて!頑張れ!」


「承知!」


バサッバサッ!


風の精霊が、ホムラの羽根に風を送って手を貸してくれる。

獣に羽が生えた姿は、長く飛ぶことに向いてないのだと、リリスは案じていた。


「ホムラ、グルクになって、この獣の姿では辛くないかい?」


「いえ、こちらの方が赤様をお守りしやすいので心配ご無用にございます。」


獣の姿は、飛ぶのに効率が悪い。だが、ホムラにとって、戦いやすいこの姿の方が守るのには自由が利くのだ。

だが、流石に皆の顔には疲れが見えてきた。


「赤、どうする?」


本館の屋根に降りると、リリスはホムラの背から降りて屋根のヘリに立ち、謁見の間がある屋根を見下ろした。


「変だと思わないかい?」


「そうだね、2人を飲み込んだにしても、力が大きすぎる。」


「結界と、色んな力の渦の中にいて、あの謁見の間の中では力の流れが見えないんだ。

見えにくいと言った方がわかりやすい。

元々、王の守護の術とか魔物への対抗術式とか、火の精霊が封印されている場所を隠す術が施された敷物とか、魔術の大鍋状態にある場所だ。

もっともわかりにくく、もっとも術の入り組んでいる場所だと言える。

その中で、ランドレールに関する、何か、細い糸が持続しているのだと思う。

人への直接の糸は青がほとんど切ったし、すでに命を落とした。」


「地下の地の指輪と思ったけど?」


「違うよ、誰かが結界を補強したから、指輪の波動はほとんど断たれてる。

城の人間はほとんど逃げてる事を考えると、城内ではないかもしれない。

今まで、ランドレールが使わなかった……糸?があるのかな?」


「使わなかった??切り札として?」


「そうだね、僕らも何かを忘れているのかも知れない。

これだけ強固な術だ、触媒があるんだろうね。

それを見極めて断たないと、この戦いはいつまでも続く。

何かなんだ。それを見つけなくては。」


「屋根を落とすのかと思ったけど?」


「落とすつもりだったけど、予定が変わった。あいつは大きくなりすぎた。

今のままでは精霊と、まともに話も出来ない。

王子の身体とレスラ様の父親、2人の身体にこだわる必要の無くなった今だからこそ、手はある。

魔導を使おう、風に手を借りて屋根を剥がす!」


「 剥がす??!! 逃がすつもり?! 」


答えず、リリスが両手を前に伸ばし、心を集中して呪文を綴る。

風が巻き上げ、リリスの体を浮かせて髪が舞い上がった。


「風よ、風よ!わが声を聞け!

眼下にありしは魔物なれど、汝ら勇猛果敢な風の戦士。

その大いなる力を持って、魔物を白日の下に…… 」


「赤!」 「赤様!」


ビュンッと、黒い触手が突然伸びてきた。

ホカゲがリリスの身体を引き倒して屋根に倒れ込む。

黒い触手がリリスのいた場所をなぎ払っていった。


「ここまで、 ここまで結界を突き抜けてくるか!」


ホカゲが羊のシビルの顔で、ギリギリ歯を鳴らす。


「屋根を剥がしたら、きっと逃げられる!」


マリナの叫びも構わずリリスが大きく息を付いて声を上げる。


「風よ巻け!屋根を吹き飛ばし、悪霊の住みかを破壊せよ!」



ゴオオオオオオオオ!!!



大きく上空で、風が巻いてそれが膨らんで行く。

ホカゲの下に守られながら、リリスが上空に両手を掲げ、バッと手を薙いだ。



「 風よ!汝の力、わが前に示せ!ビルドッ!!! 」



ドーーーーン!!



地響きを上げて風が吹き下ろし、城の窓ガラスが音を立てて割れ、そして謁見の間の屋根が一瞬で引き剥がされ、吹き飛んで渡り廊下を壊して森へと落ちて行く。


「赤ーーっ! やり過ぎだよーーっ!」


闇落ち精霊が、思いがけなく払われた結界に笑いをこぼした。

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