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49、円卓の間


ギイイ…………


暗いホールのような部屋に、壊れた壁から一条の光が漏れる。

中は塔の最上階だけに天井が高く、半分燃えたように黒く変色した絨毯の上には破壊された大きな円卓。

背後の壁にある王家の紋章のタペストリーは、引き裂かれていた。


「物見もこの向こうの部屋でやってるのだが、ここは危険なので今は下の階に移している。

まさかこの塔が狙われるとはな。魔導師相手ではどんな高い塔も襲われる。打つ手無しだ。」


ガーラントの説明にリリスは声を失い、両手で口元を覆っている。

ルネイが王家のタペストリーを見上げながら、何も抗えなかった口惜しさに首を振った。


「先日会議をしていた部屋は資料室なのだよ。

あの日、会議中に魔物が現れここは破壊された。至る所、ここより被害は少ないがしかり。

ここのところ頻繁に魔物に襲われ、皆ピリピリしておる。

魔導師レナファンは……」


先日援軍が……リリスが襲われた時。

同時にここも襲われたのか。だから母はリリスの元へ来ることができなかったのだ。


その時背後から、言いようのない重い気配を感じた。


なに?


リリスが振り返り、その気配を捜す。

ルネイが暗い顔でうつむき、そして奥の暗い壁に向かう。

そこにあるのは巨大なレリーフ。


「レナファン……生きておるか?」


グロスがつぶやきながらも、一定の距離を置いてリリスたちを遮る。


「ま、まさか!」


思わずリリスが声を上げるそれは、女性が1人壁から伸びた巨大な鳥の爪に掴まれ、その半身が壁に埋まっている。

それは結界に閉じられ、時が止まったように固まってぴくりとも動くことはなかった。


「一体これは!?」


リリスがあまりのその様子に恐怖して、思わず下がりガーラントの手に支えられる。

高い天井だけにその壁は広く、見上げると壁に現れた爬虫類のような顔がほくそ笑んでいるように見えた。


「あっあれは……」


リリスの肩に、ルネイが手を置きレリーフに問いかける。


「レナファン、生きているか?」


その問いに、返答はない。


「生きて……いらっしゃるのですか?」


「うむ、彼女は魔導師レナファン。遠見に抜きん出ておったが、自分のことは見えなんだ。

……仕方なかったのだ、共に結界に封じるしか……」


「そんな……」


ルネイが呪文をつづりながら聖水をまいて結界を強化する。


「あの朝、国境の兵からトランの動きを聞き、緊急に会議を開いていたのだ。

突然不気味な声がして、御館様を庇い呪をつづる間もなく彼女が捕らわれてしまった。

レナファンを生かしながら、掴むあの魔物だけを払う方法が見つからぬ。

だからこうしてこの部屋を封じている。

お館様は再建を目指しておられるが、彼女をどうするか見当も付かん。」


「でも、外からあの魔物の姿は見えませんでした。

この魔物はこの空間の狭間から顔を出しているのかと・・ならば、地の巫子様なら・・」


「百合の巫子か・・最後の手は、やはり。」


ルネイと話すリリスに、壁の目が向いた。

ガーラントがその気配に顔を上げる。


「いかがした、ガーラント。」


「いえ、あの顔が動いたような。」


「まさか、これだけ厳しく結界を……はっ!」


ヌッと、魔物の顔が壁からズルズルと張り出してくる。


「結界が!」


「ククク、結界ナド笑止!」


皆が息をのみ、その場に凍り付く。


壁から張り出す巨大なその顔は、ウロコに覆われた獣のようで爬虫類のようにも見える。

そしてその蛇のような牙の生えた口を開けると、口から腐った臭気の黒い障気を吐いた。


「うわっ!何だ?」


「息を吸ってはならぬ!」


ルネイが手の聖水のビンをその場にたたき割り、杖を振り上げる。


「聖なる水よ!シールーン様のご加護を我らに!」


水は一瞬でその容積を増やし、皆を護る壁になる。


「皆早う外へ!」


水の結界は長くは続かない。

グロスが次の攻撃に備え、呪を唱えて精霊の力を集めた。

ギルバは二人に加勢して剣を抜いて構える。


「早く行け、加勢を呼ぶんだ!ミラン!」


「は……はい」


ミランは腰が抜けたかその場に立ちすくむ。


「しっかりせぬか!」


ガーラントがその手を引き、出口へと放り投げた。

振り返ると、リリスは指を組み呪文を唱え始めている。


「まだ無理だリリス殿!」


腕を掴み、呪をさえぎってグイと引いた。


「早く!」


ガーラントが出口へとリリスの手を引く。


「で、でも、お三方が!」


「お前は疲れて戦えない、足手まといだ!」


確かに。何も言い返せない。

グッと唇をかみ、リリスが出口へ向かう。


「逃サヌ」


ザアッ!


獣の口から無数の長い舌が伸び、それは絡まって一匹の巨大な青黒いヘビとなる。

そしてそれは、真っ直ぐリリスに向かっていった。


「ピピーーッ!」


リリスの肩に留まっていたヨーコ鳥が羽ばたく。


「逃げよ!」


ルネイが懸命に張る水の壁を、ヘビは難なく突き抜ける。

とっさにグロスが、ドンと杖を床についた。


「地の精霊よ!剣となり守護せよ!ヴァルト!」


杖の先から床を這うように真っ直ぐに光が走り、リリスの手前で光が立ち上がってヘビを切り裂く。

しかしそのヘビは変異し、黒い鳥へと変わる。


「はっ!」


ガーラントが剣を抜いてそれを切り裂くと、鳥は霧散して大きな黒い闇の塊となった。


「これは!」


それは先日襲われたすべてを飲み込む闇。

とっさにガーラントを背に回しリリスが前に出た。


「風の翼よ盾となれ!ビルド!」


ごうと風が吹き、闇を退ける。

しかしビルドはその一瞬を退けるのみ。


「リリス!無理をするな、逃げるのだ!」

「いいえ!逃げるなら皆一緒に!」


リリスは意を決し、手を引くガーラントの手を振りほどくと、魔を退けるべく印を結び高位の術を唱え始めた。


「風を統べるセフィーリアの名の下に、その黒き門の存在を否定する。

黒き門よ無に帰せ!

イエサルド・キーン・セ・ガラム!」


リリスの手から、風が吹き荒れ光が走る。

闇の塊が、その力に吹き飛んで風に巻かれて消えた。

リリスはまた、息を整え呪を唱え始める。

圧倒的に押され、障気を吐く魔物に防御のみで翻弄する魔導師2人を見て、一瞬で理解したのだ。

ここに戦える魔導師はいないのだと。


「リリス!無理だ!」


お逃げ下さい、ガーラント様!そして誰か助け手を!


巨大な獣の顔は、口から障気をまき散らしそして大量の黒い鳥を吐き出す。

その黒い鳥は一斉にルネイ達に鋭い爪とくちばしで襲いかかり、部屋は悲鳴と真っ黒い闇に覆われた。


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