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488、戦いを回避する為に

自室のドアを開け、ライアがいつものようにレスラカーンの手を取る。

旅支度と言っても、防寒と身の回りの荷物を背負い袋に背負って水と少しの食料を入れたカバンを身につけるだけだ。

グルクの旅は、何日もかからない。もしかしたら、思った以上に軍は近くまで進んでいるのかもしれない。


廊下を進み始めると、ライアが笑ってつぶやいた。


「私は思うのですよ。リリス殿は素直に玉座に座る方ではありません。

奪い合うよりも、どうぞどうぞと譲り合うことになるかも知れませんね。」


「くくくっ、本当にそうだな。」


先ほどの騒ぎも相まって、館はザワついている。

手を引かれて階段を降り居住スペースの通用口に歩んでいくと、兵はレスラカーンに道を譲り頭を下げた。


「えっ!レスラちゃんが行くのかい?!」


旅支度したレスラカーンに、村人が仰天する。

王家の1人、しかも若いレスラカーンが行くことに戸惑いの声が上がった。


「どうして?王子様なんだろ?」


「殺されちゃったらどうするんだい?!」


厨房の王子は、村人に、特に厨房にいた為、ご婦人方に人気が高い。

心配する声がひときわ上がった。

でもそれを、一番驚いたのはレスラカーン本人だった。


「レスラカーン様、村人が心配して騒いでおります。」


「……それは、なんと幸せな事よ。フフ……

ライア、兵の準備は?」


「一同そろって、レスラカーン様を待っております。」


「わかった。」


「右にラグンベルク公がいらっしゃいます。」


見送りに出た公の前に出ると、レスラカーンが頭を下げた。


「行って参ります。」


「無事を祈る。無事で無くてはならん。」


「はい、後の事は頼みます。恐らくは大国が立った事で、他国も立ちあがる事は容易に考えられます。

リトスの説得はお任せを。

近隣諸国の動きには、先日宰相家のミスリルを探りに向かわせました。

何かあればキリルというミスリルが参ります。

話を聞いて下さい。

後の指揮は、叔父上にお任せいたします。」


「わかった。だが、お前が帰ってくるまでだ。

わしはすでに城を離れたベスレムの領主。

王弟の息子である、お前が指揮を執らずしてどうする。」


思わぬ言葉に明るい顔を上げて大きくうなずいた。


「はい!」


レスラカーンが振り向き、皆の前で前に杖をザンと突く。

スウッと大きく息を吸った。



「 ものども聞け! 」



腹から声を出す彼の声が、大きく館中に響いた。

思わず男たちが顔を上げ、背筋を伸ばす。


「 現在、火の巫子殿が城で戦っておられる! だが!!

 魔物を前にして、我らに抗う力は無い!

 しかし、しかしだ!指をくわえて見ているヒマは無い!

 我らに出来ることを考えるのだ!


 今!大国リトスの一軍がこちらへ向かっている!

 私は軍を率いる大皇に会い、話し合いの場を願い出る!

 大皇は精霊の存在を信じ、神殿への信仰も厚い事で知られている。

 そこに、この戦いを回避する道筋があるはずだ!


 王が身動き取れぬ今!臣下である我らが自ら動かずしてなんとする!

 我が国を取らんとして向かうのは、リトスばかりとは考えられぬ!


 皆、身を引き締め、命令を待て!

 私は発つが、あとはベスレム公である、王弟ラグンベルク公が指揮を執られる!


 家族を、知人を、隣人を、民を、そしてアトラーナを守る為に!

 皆!心して動け!


 我らの心は一つ!


 アトラーナの為に!!」


レスラカーンが杖を高く掲げた。

皆も拳を掲げ、声を上げる。



「「「 アトラーナの為に! 」」」



「「「 アトラーナの為に! 」」」



「みんな!後は頼んだぞ!!」


レスラカーンが鼓舞すると、皆が力強く言葉を返す。


「おまかせください!」


「お帰りになった時はきっと、平静を取り戻しましょう!」


「元の城に!」


「我らにお任せを!」


男たちが声を上げる中、女達がその間を縫って前に出た。

レスラカーンの手を取り、ギュッと握って皆が次々とその手を包む。



「大丈夫、こっちは心配いらないよ。

だからレスラちゃん、ちゃんと無事に帰るんだよ。」


「あなた様に精霊の守りがありますように。」


女達が無事を祈って、自分の首にあるネックレスを彼にかけてゆく。

それは木を掘った物だったり、海のないアトラーナでは珍しい、貝殻だったり、簡素な紐でぶら下がるそれがいくつもいくつも重なって、レスラカーンは胸が熱くなった。


「ありがとう、ありがとうみんな。

私は必ず帰ってくる。それまでこのお守りは預かるよ。」


「レスラカーン様、どうかご無事で。

みんな!王子を頼むよ!何かあったら、あたし達が許さないよ!」


一行のメンバーがオオと拳を上げて、任せよと声を上げた。


「では、行くぞ。」


ギーリクがグルクに乗り込むと、皆も続く。

レスラカーンを乗せてベルトを止め、ライアが前に乗ると手綱を握った。


「参ります!」


「頼む!」


ライアの腰をギュッと抱いて、声援に手を上げる。

その声が足下に遠くなり、吹く風に目を閉じた。


「フェリア、行ってくるよ。」


そこがフェリアが休息を取っている山だとわかるように、レスラカーンが山に向けてつぶやくように一言ささやいた。


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