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487、リングと指輪

「ヴァシュラム様に何があったんだろうな。

兄様がいらっしゃったら、何か聞けるのに。

兄様は、聖域に時々いらっしゃるんだ。

でも、私は何度願い出ても聖域に連れて行って貰えない。」


「聖域は、人が入る事を嫌いますが、それよりも人の身体には神気が強すぎて悪影響があると聞きましたから。

ヴァシュラム様のお考えあっての事でしょう。」


イネスに上着を着せ、グルクに乗る準備をしていると、ふと、サファイアが思い出して腰のバッグを探った。

取り出したのはシンプルな細いリング。

セレスが付けていたものとそっくりだ。


「これを、先ほど火の、青の巫子様からお預かりしていました。

必要だろうからと。渡すのを忘れていたそうで。」


「ふうん、何だろう?兄様のものかな?」


受け取ると、背筋がざわりとざわめく。


「何だ?これは。本当に私が付けてもいい物なのか?」


「必要だとあの方が仰ったのであれば、必要なのでしょう。」


「あんなひねくれた奴が、下心も無しにこんな物くれるわけないだろう。

きっとなんか、まやかし物、呪い物に違いない。」


ひどい言われように、サファイアが苦笑する。


「そう思われるのは仕方ありませんが、あれでも火の巫子ですから。」


「だいたい火の巫子ってなんだ?俺達巫子と何が違うんだ?」


サファイアが少し考えて、言葉を選ぶ。

イネスを下にするような言葉は相応しくない。だが、


「そうですね。ミスリルでは、こう言い伝えがあります。

火の巫子様は、“神のうつし身”。

本質的に、あなた方普通の巫子とは違う御方(おんかた)だと。」


イネスがうつむき、指を噛む。

リリスもマリナも、まるで違う。


「そうか……我ら地の巫子は、人と神の橋渡しだと言われてきた。

でも、そうか、我らは人の側に立つ者、彼らは神に最も近い者なのだな。」


「そう、とも言いますね。彼らはとても、尊い方々だと言われてきました。

だから、きっとそのリングは大丈夫ですよ?」


「んーーーー、でもあいつはすっごくひねくれてるんだ。

ああいうとこ、ヴァシュラム様にも似てる。あーやだ。」


神に近いとか、まあわかるんだけど、これ付けるの勇気が必要な気がする。

ワケがわからないもの、どこから持ってきたのかくらい教えてほしい。



ギャアアアアア!!



ドアの向こうで、若い男の、それこそ尋常で無い悲鳴が響き渡った。

サファイアが先になってドアをそっと開く。


「貴族の息子だ!」


先ほど来た客人の声が響き、廊下がまぶしいほどの光に満ちている。


カーーーン!


しばらくして澄んだ音が響くと、マリナの叫びと客人の泣き叫ぶ声が入り乱れた。


「一体、何があった?!」


マリナが階下で祭壇の部屋を見上げて駆け寄り、ドンッと足を踏みならす。


「私が行かねば無理だって言ってるのに!赤の馬鹿っ!!」


あの2人は、先頭に立ち戦っている。

マリナにリリスを独り占めされても、自分には太刀打ち出来ない。

ただの役立たずだ。

イネスが唇を噛み、思い切って手に持つリングを手首に通した。



ザアアアアッ!



全身に鳥肌が立った。



「う……あっ!!」



ドスンと、力の固まりが空っぽだった自分の中に落ちてくる。

思わずよろめくと、サファイアが彼の身体を支えた。


「イネス様、大丈夫ですか?」


それを見て、気がついたマリナが笑って片手を上げ指さした。


「地の巫子!復活を見たり!!

皆!喜べ戦力が増えたぞ!


イネス!どうだい?着け心地は。

しばらく僕が預かっていた、それはガラリアからの贈り物だ!

引きこもりは終わりだ!汝も働け!巫子は忙しいぞ!」


「こ……これは一体……なんだ!!」


「あははは!それは腕輪に聞くんだね!それは、なれの果てさ!

だが、汝にとっては力の源。


挫折を知らぬ地の巫子よ、苦しんだか?

力を持たぬ者の苦しみを、身をもって知ったか?

それが汝の血肉になるかどうかは、これから次第だ。


地の巫子殿、復帰の祝いを申し上げる!

人間達の問題は、汝、地の巫子殿にお任せいたす!


さて、私は忙しいぞ!

グレン!祭壇の前へ!リリの加勢に行かねばならぬ!」


「 は! 」


グレンが彼の身体を抱き上げて、祭壇の部屋へと飛び上がって消えた。

イネスの身体中が、感じたことの無い力に満たされる。

それは、確かに懐かしいほどに、覚えのあるものだ。

彼は腕輪を見て大きく目を見開くと、部屋に飛び込み胸を掴んだ。


「なれの……果てだって?!!」


「どうなさったのです?!」


「信じられない、こんな、馬鹿なことがあるか!!」


「一体、何が?」


「この腕輪……から、 ヴァシュラム様を感じるんだ。」


サファイアが驚いた顔でイネスと見つめ合う。

それは、確かにこのところの不安感の答えとなって、なれの果ての姿で2人の前に姿を現したヴァシュラムだった。







館の玄関前広場に一行が集まると、周りを見送りに他の兵や村人が集まった。

グルクも元々援助の貴族が数頭融通していたので事足りる。

地の巫子とパドルーは自分のグルクを持っているので、総勢9名が5頭のグルクに分乗して向かうことになった。



レスラカーンが椅子に腰掛け、テーブル上に広げた父の装飾品に触れる。

指輪に触れて王家の指輪を見つけると、薬指では一回り大きい指輪に微笑んで、中指に通した。


父上…… レスラは、自分の思う道を参ります。


その指輪を何度もなでる。

それはルクレシアから返された父の指輪、もう死んだであろう父の。


「レスラカーン様、お時間です。」


「わかった。行こう。」


「本当に、よろしいのですか?」


「良い、有事あれば私を置いて逃げよ。私は人質になった時は自害する。

甘んじてこの国の足かせにはならぬ。

お前1人ならば逃げおおせるだろう、戻ってリリス殿のお力になってくれ。」


「馬鹿なことを。私は泥水を飲んでも、あなた様を無事にお連れしますとも。

あなたと私は一心同体、私はあなた様の目なのです。

目が逃げたなど聞いたこともありません。死ぬときあれば、供に土に帰りましょう。」


ああ、ライア、ありがとう。


レスラカーンは見えない目を見開くと、大きく息を吸って深呼吸する。

そして、心を決めて立ち上がった。

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