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485、王家ならばこそ、前に立ち戦わねばならない

怒りの声を上げるライアに、レスラカーンが腕を引いた。


「よい、使者殿は私を軽んじているわけでは無い、王の嫡子の話しをしている。」


「いかにも、私が申したのは、王の御子と言ったまで。

だが王位継承に争いあれば、それはまた決起の理由となるだろう。」


「継承に争いなど無い。

たとえ大国といえど、隣国のその方らに干渉される言われもない。」


その時、突然ドアの外がざわめいた。

複数の足音が忙しく鳴り、玄関へとなだれ込む。

遅れて少年の高い声が響いた。



 「 私が参ります!対応には重々無礼の無きように願います!

 相手は手を貸そうと思っていません!

 だが、この戦いには必ず彼の手が必要なのです!」


 「その貴族がなぜ必要なのですか?」


 「 縁です、霊的な物には全て縁が解決の糸口となる!

 だからこそ、お出でになった貴族の方は我らを敵視していると言える。


 よろしいか!!たとえ相手が言葉で剣を向けようとも、 



 腹を据えよ!動揺してはならぬ!!


 

 良いか!重ねて言う!汝らは口出し無用!

 これは我慢比べです!

 手を出したとき、彼の思うつぼだと心得よ!」



 「 はっ! 承知!! 」


 「 承知しました!! 」




ルクレシアを出迎えるリリスの声が廊下から響き、部屋まで響き渡る。


ギーリクが獣の耳を立て、クルリと背後に耳を回した。

まだ声は少年のようなのに、兵達が声を揃えて返答する。

兵の声が生き生きしている。士気が高い。


「ほう、若いが雄々しい声ですな。」


ふともらした彼に、ラグンベルクがニッと笑う。


そうだ。

兄よ、兄たちよ。

これは運命で無くて何であろうか。



ラグンベルクが立ち上がり、ドアを指さした。


「我が兄の隠し刀よ。

ギーリクよ、あの凜々しい声を心に留めよ。

15の子がこれほど大勢の、血気はやる男たちを完璧にまとめ上げている。


あれこそ真の世継ぎ、我らアトラーナ王家の次代の王。

そして火の巫子の1人。」


「世継ぎが火の巫子と?仰せられるか。」


「そうだ。次代の王であり、火の巫子である。


他国が憂いを抱く必要は無い。我がアトラーナは精霊の国。

その事実は過去も現代も何ら変わるものでは無い。

城の状況は、だからこそ我らが負う物であり、課せられた負の力の顕現でもある。

だが、我らは一丸となって、精霊も共に戦うだろう。

汝らが気を煩わせるというなら共に戦うがいい。

すでに状況は隠しようがない所まで来ている。


戻って王子と大皇に伝えよ!我らが今望むのは共闘であると!」


ギーリクがラグンベルクに目を据える。

そして、うなずいた。


「承知した。事実を伝えるが主のお考えがどう変わるかは予想がつかぬ事。

次にまみえるのが敵ではないことを……」


「私が共に参ります!」


レスラカーンが、突然声を上げた。

驚いてライアが腕を握る。


「何を……!! なりません、あなたは王子なのですよ!」


「だからこそ、行かねばならぬ。

今、今こそ話し合いが必要だ!直接お会いせねば、こちらの真意は伝わらぬ!

ライア、お前は残って叔父上の補佐に付け、目の見えぬ私は戦場では役に立たぬ。」



「馬鹿なことを!自ら人質に行くのと同じ!

わかっているのですか?!人質として価値がなくなれば、命を奪われるのですよ?!やめてください!」


ライアは、血が下がる思いで腕を引いてレスラにささやく。

目が見えない彼は、とっさに1人で逃げる道を探すことも出来ない。

共に行って、自分1人で守れるかもわからない。


ドッと冷や汗の流れるライアに、レスラカーンは大きく深呼吸をすると首を振った。


「私は人質で行くのではない。ライア、私はアトラーナ王家の代表として

この国を守る為に行くのだ。

叔父上、いえ、ラグンベルク公、どうか私のわがままをお許しください。

このレスラカーン、これまで国の為に何も働くことが出来ませんでした。

見えない目を負い目に感じ、ひっそり生きて参りました。

だが、国の危機に私という存在の意味が見えるなら、私は喜んで赴きます。

私は父の跡を継ぎ、宰相になると宣言いたしました。

ならば、どうか、どうか、この最大の危機の場で、私の力を生かしとうございます!」


ラグンベルクが考える。

こう言うとき、兄ならどうするか。

2人の兄であれば、捕らえてでも止めるだろう。

使者というのは命がけだ。

死体で戻るときもある。

だが、目の見えぬ使者を殺すか?

命がけで来た、盲目の使者を、問答無用で殺すなど。


恥でしか無い


これは賭けだ。

こちらも盲目の者を使者に送るなど、捨て駒にしていると見られるだろう。

だが兄者よ。

私はリリスが拒むならば、レスラこそ次の王に相応しいと思っているのだ。

これには大きな成長が見える。

人を引き付ける力がある。


「私はお前を捨て駒にすることなど考えておらぬ。」


「私も捨て駒になる気は更々ございません。

国が奪われれば国の民は拠り所を無くし、また我ら王家は流浪の民となりましょう。

存亡の危機に立ち上がらずして、王家の男子と生まれた意味は無いでしょう。

我ら王家の子は、民の前に立ち、民を率いて戦う姿を見せねば人心を失います。

火の巫子は戦う姿を見せている。

なれば王家も共に戦わねばならないのです!」


力強く答えるレスラカーンに、ルシリア姫が息を呑む。

目を見開き、その凜々しい姿に大きくうなずいた。


「公!決断する者に託すべきですわ。

彼の言葉に無謀なブレはございませんもの。

彼の言う通りよ!我らも巫子と共に戦いましょう!」


「ルシリア、ありがとう。」


「私は、あなたが王家にいて良かったと思うわ。

あなたこそ宰相に相応しい。必ず帰って来て!」


レスラカーンが彼女の張りのある声に大きくうなずく。



「私も共に参ります。」



戻ってドアの外で聞いていたイネスが、そこに歩み出てきた。


「私が共に行って、説得して参りましょう。

我ら地の神殿はリトスとは古代より親交厚く、特に大皇陛下は我が精霊王への信仰も厚く多大な援助も受けております。

私が行って、話をして参ります。

精霊も共にある。それをお伝えするのが巫子の仕事。」


「よし、では託そう。

しかし、巫子に何かあっては今後にかかわる。

レナント、ベスレム、どちらからでもいい。腕の立つ者、4人選抜して供につけ。

連絡が出来るように出来ぬか?」


「水月の戦士である、私が共に参ります。水鏡との連絡が取れましょう。」


パドルーが、ベルクの前に出て頭を下げた。


「それは重畳、水と地の神殿が手を貸していることの証となる。

準備でき次第出立せよ!」


「承知いたしました!」


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