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480、悪霊だった者

笑うランドレールはガラリアの前に立つとフッと微笑みにかわる。

その姿の周囲からは黒い澱は姿を消していた。


『 ……ラリア、 よく、 来て、 くれた……

 

さあ、 早…… 封印を、 これ以上 精霊……チカラを、


与えない  ように…… 』


「良く、来ただと? お前は、また封印される事を良しとするのか?」


ガラリアが、皮肉そうな顔を浮かべて意地悪く笑った。

だが挑発にも乗らず、右半分の男が胸に手を当てる。

願うように目を閉じてうつむき、そして顔を上げると笑った。


『 この、国  守る為  らば、 仕方、ないさ 』


「お前が?お前が国を守る為に自ら封印されるだと?」


『 忘れ か? 私は、 王子だ 』


「王子である事が重荷だと、あれほど言っていたくせに。

私は何度も聞いたぞ?」


腕を組むガラリアが、怪訝な顔で告げる。

だが男は、懐かしさも込めてフフッと薄く笑う。

その顔は、穏やかで満足げに見えた。


『 そうだったな  そうであった。懐かしい事よ。 

 ああ…… ガラ アよ、 私にも、 大切な (たみ)が、 出来たのだ。

 悲しむ 顔を、 見とうない  大切な 者が 』


ガラリアが息を吐き、万感の思いで胸に手を当て男を見る。

悪霊にまでなった男を、救う者が現れるなどと……

しかも、魔導師でもなく、巫子でもない、ただの人間が救うなど、誰が思ったであろうか。


「 ランドレールよ、

 ああ……ランドレール、あの、お前が……


 ……誠実な、本当の……愛情を、ようやく知るときが来たのだな。

 

 では、一つ、伝えよう。


 お前の大切な者は、家に帰り、家族に温かく迎えられたぞ。

 お前との思い出を、大切に日々を穏やかに暮らしている。 」


右半分の男が少し驚いて、記憶を噛みしめるように愛おしい顔で、安堵の息を吐く。


『  ああ、そうか、私のルクレシアよ……そうか。 よかった……

  あれがまた 辛い思いを するのでは ないかと…… 案じていた。

  ああ、まこと……それだけで、 十分だ。 十分だ。 ああ……そうか。


  ガラ リア……よ…… 礼を、言う…… そして、すまなかった  』



明るく笑った顔が揺れて、満足したように消えて行く。


『 あれの、 笑みを  見られ かったのが…… 』


かすかにかすれた声がして、ガラリアが穏やかに微笑んだ。


「お前の最後の望み、確かに受け取った。」


手を上げると封印の百合の紋章が強く輝き、壊れかけていた封印が強固になる。

どこからか、深淵からの恐ろしい悲鳴のような怨嗟の声が響く。

いまだ救われない闇落ち精霊が、指輪を狙いながら阻止された。


ガラリアが、その姿を巫子服のセレスに変える。

キラリと瞳を緑に燃やし、顔を上げた。


「もう、手は尽きたであろう?ルルリア。

復讐に狂った、わが眷属であったものよ。」






地下牢へ様子見と指輪を手に入れる為送った闇落ち精霊の血が、城の土台の石積みの隙間を縫って地下牢を目指し、そしてすんでの所で阻まれた。


「な……にっ?! くっ 」


白い魔導師を使ってリリスを牽制しながら、血を操って地下牢への隙間を探す。だが、その封印はまったく新しいもので硬く、一分の隙も無い。


ピュピュンッ!


バンッ、パーーンッ!!


リリスが白い魔導師の針を、風を操り次々遮る。

弾け飛ぶそれをホムラの前で遮断して、ホムラはライオンのような姿で鋭い爪で壁を蹴り、4枚の翼で飛ぶことに集中する。

ボッと、リリスが手の中に火を作り出す。

ホムラが舞い降りた瞬間、白い魔導師に向かってその手を振り下ろした。


ボッ!ボ、ボンッ!!ゴオオオオッ!!


白い魔導師たちはそろって手を差し出し、前方に空気のひずみの壁を作り出して炎を遮った。



ドガガガガガッ!



闇落ち精霊が複数の血の槍を飛ばし、ホムラの背に乗ったリリスを狙ったものの回避されて玉座を破壊する。

血の槍はその場で血に戻り、闇落ち精霊の元に床を這って戻っていく。

精霊は床に視線を落とし、思わずつぶやいた。


「……馬鹿な、地下のアレはなんだ? ぐ、くっ、このままでは血が削られるだけだ。」


ホムラはポンと飛び上がり、壁を蹴って天井近くをぐるりと巡る。

リリスの頭の中に、マリナが語りかけた。


『 赤、甘い言葉で黄泉に誘うんだ。

 あれはもう魂が疲れてすさんでいる、消えるか黄泉に行くかのどちらかだ。  

 赤の光に、ここまで抗っただけでも大したものさ。

 ごらんよ、ここにあった魑魅魍魎はきれいさっぱり無くなって、城のどこより汚れた場所が清浄な場所に変わっている。

 きっと悪霊であったものは、今では闇落ち精霊の暴走を止める為にこの世に留まっている。

 あの精霊を何とかしなければ!」


「わかりました、やってみます。

ホムラ、彼らから距離を取りつつ攻撃を避けて。」


「仰せのままに」


「主様、力をお貸し下さい!」


「 名前!名前ー!! 」


リリスの頭に、ポンと耳の生えた光の球が跳ねる。


「シャシュリシュラカ様!こんな時までこだわるんですか!もう!」


クルリと翻り、距離を置いて高度を下げると、床を蹴ってまた飛び上がる。

宙でカッと、リリスの身体がまた輝きを増した。


「ギャアッ! く、くそっ!引き込まれる!」


白い魔導師たちはガクリと動きを止め、闇落ち精霊が顔を覆って、身体から抜けそうな魂に両手で身体を抱きしめ、両腕にグッと爪を立てる。

その爪が数枚ポロリと剥げて落ち、指先からにじむ血が紐になって伸び、彼の首から顔へとグルグル登りながら巻き付いて目を覆い、更に光を遮った。

それでも黄泉へ続くような穏やかな輝きが、安らかな浄化ヘと誘う。

精霊は床に這って頭を腕で覆うと、やみくもに背から天井へと血の槍を飛ばした。

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