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479、地下道で待つ者達

城下の地下、奥深くの通路に、ポッと、光が生まれた。

暗闇は、冷たくじっとりと湿気が強く、生者の気配など微塵も無い。

少なくともリリスが通った時よりも、死の気配が強く、その奥にはゴウカが施した灰の封印がびっしりと繭のように張り巡らし、行き止まりを作っている。


光の玉は封印の様子をポンと触れて確認すると、地面に落ちて大きく膨らみ、小さく身体を丸めた人の形へと変貌して行く。

そしてその光る人物は身を起こすと、ふわりとドレスを広げてゆっくり立ち上がった。

ジメジメとした周囲には、虫が這いポタリと地下水が落ちる。


光る人がスッと手を掲げ、周囲に小人の地の精霊たちが(たわむ)れ始める。

精霊は虫たちを退かせ、壁に光苔を植えて飾り付けた。


死の気配しか無い地下道で、精霊たちはまるでその人物を慰めるように、周囲でダンスを始める。

光る人は手を合わせ、両手で顔を覆い、思い切るように、飾り付けられた壁に向かって通り抜けて行く。


通り抜けたそこは、一部が砂に変わったアデルの身体の残骸の中。

アデルは残った生気を残骸に残し、悪霊の本体を封じた封印を死後も見守っていた。


サラサラと、砂になった骨と肉が崩れ落ちながら、地龍の身体は懸命にその身体を維持している。

悪霊が封印を破壊し、これ以上力を大きく膨らませないように。


光る人が頭の方へと歩みを進める。

すると、その前方に消えかけたアデルの残像のような姿が現れた。

アデルは光る人に腰を落として頭を下げ、顔を上げてニッコリ微笑む。

光る人は手を差し伸べ、彼を壊さないように少し力を与えた。


『 御方様 お会い出来て この上ない 幸せ 』


光る人ガラリアが、悲しい顔でうつむき、そして顔を上げて微笑んだ。


「 アデル、よく……頑張ったね。

お前がいてくれて、本当に良かった。

次が来るまで、ここを保ってくれたのは重畳(ちょうじょう)でした 」


『 このような 無様な 姿を さらし 恥ずかしく 』


「 いいえ、あなたの勇姿はずっと見ていましたよ。

  すでに300年、この壊れかけた封印を、よく守ってくれました。

  苦しい時もあったでしょう、よく耐えましたね 」


アデルが嬉しそうに笑い、キュッと肩をすぼめた。


『 アリア ドネ 様 ありがとう ございます 


  僕の 最後の お願いを どうか 』



アデルが手を合わせて願いを乞う。

ガラリアが微笑んでうなずき、わかりましたと告げた。


「 城の守りは、この子に引き継ぎとなります。

  さあ、マリルクご挨拶を 」


ガラリアの手から、小さな白い蛇がするりと現れた。

アデルが両手の平をそろえて差し出すと、蛇はその手に移っていく。


『 マリルク 久しぶり ああ 君なら 安心だ

  大丈夫 不安になる ことは ないよ

  これから 四精霊の 巫子が そろう

  良い 時代が 訪れる 』


白い蛇は、コクコクうなずき、そして彼の手を滑り落ちて人型を取る。

それは、アデルと瓜二つで、ニッコリ笑った。


「人間には、いろんな色があるよね、僕も色んな彼らと出会うのが楽しみだ。

アデル、お疲れ様。僕は君の名前と仕事と記憶を受け継ぐ。

さあ、僕と交代だ。

アデル、長い、長い、長い時をありがとう。

そして、僕を待っててくれてありがとう」


『 オパール を お願い ね 』


「うん、寂しがり屋の彼の下に、早く戻らなきゃね。安心して。」


アデルが笑って、マリルクの身体に飛び込んで行く。

その姿が彼の身体に溶け込み、その瞬間マリルクの身体が輝いた。



「御方様!マリルクはアトラーナ王との契約に基づき、城の守護聖龍アデルの名をお継ぎします!」



ガラリアがうなずき、手を上げる。



「 ここに新しき、地龍アデルの誕生を祝福する。

  この地よりアトラーナを見守り、巫子と共に精霊国を守護せよ。 」

  


ガラリアの手が輝き、その光が地下道の隅々まで照らしていく。

アデルとなったマリルクが地龍に姿を変えて、崩れかけた地龍の身体の内側から、城の地下道との空間の狭間にその身体が広がって行く。


ガラリアはランドレールの封印の場に行くと、その封印を指さした。


「 ランドレール!私は来たぞ!

  死して仇成し、再度死に向かうその姿を笑いに来た!」


声が響き、うっすらと黒いモヤが石積みの壁から漏れ出すと、あたりを漂いそれが集まって行く。

身体右半分がかすかに人の姿で現れ、その口元が笑った。


それは、地下道の壁向こうの地下牢にある、ランドレールの身体から出てきた姿だった。

彼は災厄のあと、世継ぎの王子でありながら巫子殺しの罪で捕らえられて、この地下牢へと入れられたのだ。

一体何があって死んだのか、誰も知らない。

記録もなにも残されず、弔いさえもされた事が無い。


すでに300年の時を封印されたまま、誰からも忘れられてここにいた。

そして、その怨念は膨れ上がり、なぜか彼の手にある火の巫子の指輪の力を得て悪霊へと変貌してしまった。

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