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471、ひねくれ者だが頭も切れる

驚くルクレシアに、マリナが軽く会釈して微笑んだ。


「ようこそ、お出でくだされた。

彼は、あなたの為にここで修行していたのだ。

まあ、超短期ではあるが、基礎はできただろう。

あとは自分で修行せよ。侯爵家であれば、剣の相手も1人や2人いるだろう」


「剣の?どういう事だ?お前は私の手を離れて自由の身になったのでは無いのか?

まさか!連れてこられた?!」


ルクレシアがラティを引き寄せ、マリナたちに敵意をむき出しにする。

マリナが呆れて首を振り、ガッカリうなだれた。


「まーて、まてまて、なんでそうなるんだ?!

ラティール、お前の主はなんてひねくれた奴だ。

ねじれてねじれて一周してる。真っ直ぐすぎるリリと足して割って丁度いいねじれ具合だ」


「本当、なのか?ラティ」


ルクレシアが、ラティを見る。

しかし、その彼は今まで見たことが無いほどに背筋をシャンとして、胸に手を当て頭を下げた。


「はい。ルクレシア、僕には呪いがかけられていたのです。

巫子様がそれを解いてくださいました。

そして、これから恩返しにあなたをお守りしたいと申しましたら、剣を習うようにと、こちらへお世話くださったのです。

私は初めて剣を習うことが出来て、こちらで初めてこの顔で嫌な目に遭わずすんだのです。ビックリしました!」


キラキラした目で嬉しそうに言うラティなんか初めて見る。

ルクレシアはわかったと告げて、帽子を取り、マリナに頭を下げた。


「失礼した。家の者が世話になったようで、礼を申し上げる。」


マリナがうなずき、中へと迎え入れる。


「ここは祭壇の部屋で、神聖な場所としている。

よって椅子など無い。よろしいか?」


「構わぬ。私は信じていないが、それでよければ」


「いいとも、心は自由だ。汝の意思を尊重する」


2人、祭壇の前で向かい合って座る。


「さて、私は火の巫子の青、マリナ・ルーと言う。

我ら火の巫子は、赤と青の2人いる。

汝が考えるよりも忙しく、決して役立たずでは無いことを申しておこう」


ルクレシアがくすりと笑った。


「承知した。ここにいる者の顔を見ればわかる。

あなたがたは他の巫子とは少し違うようだ。

それは神殿の無い、認められた巫子では無いからだろう」


「よし、ではこれ以上リリをいじめるのは無しに願おうか。

あれは汝より賢いぞ、何しろ世継ぎだからな」


「驚くことを言う、だが、あの髪の色なれば不思議は無かろう。

下らぬ迷信に人は振り回される。

僕もこの子を守るのに必死だった」


「私は汝にバカなことをしたと思う。

だが、それ以上に汝を尊敬する。


そして、それ以上に、汝には自分の身も大切にして欲しいと願う」


視線を落としていたルクレシアが、マリナの顔を真っ直ぐに見つめる。

火の巫子は、思った以上に人格者がそろっている。

見た目は子供だが、それだけ自分と同じに苦汁を飲んできたのだろう。

これだけの人を集め、そして食わせるだけの金がある。

城から援助は無いはずだ。

これは、援助を集めているな。

それだけ、人の心を打つ何かがあるのだ。

惑わされないようにしなければ。


「お前達は、私を利用しようとしているはずだ。」


ルクレシアの瞳が、ギラリと輝く。

マリナがキョトンとして、クククッと笑った。


「ひどい言われようだ。

私が利用しようとしているのでは無い。

お前の中のもう1人の者がお前を利用しているのだ。

お前は夢を見るだろう?」


ギクリと思わず顔をそらす。

なにもかも見透かされているようで、薄気味悪い。


「まあいい、今日はそのことでは無い。

お前には悪霊が付けたアザがあるはずだ。

それを見せよ。」


「何をする気だ。」


マリナが大きく息を吐き、城の方向を指さした。


「辿るのだ。悪霊に辿って、これ以上被害者が増えぬよう紐を断ち切ってこなければ。

悪霊は紐を使って次々と人を殺して生気を奪い自分の力にしている。このまま放っていたら、アトラーナから勇士が消える。

お前が知るか知らぬかわからぬが、隣国からはすでに兵が出た。

これでは国を守る者が半減してしまう。

アトラーナは今、最大の危機を迎えようとしているのだ。」


「断る、紐など付けられる隙を与えた者の末路に付き合う気は無い。」


マリナがキョトンとして、大きく息を付いた。

ここまでバッサリ断られるのは、まあ考えなかったわけじゃない。


「さて、どうしたことか。お前はなかなかに頭が切れるな。判断が速い。」


「用がそれだけであれば帰る。」


「おやおや、とんだ貴族だ。保身に走るか」


「なんとでも言うがいい。

僕の腕を見ろ、これ以上僕から何を奪うと言うんだ。もう骨と皮だ。」


「貴族は誰の上に立っている。それは何の為だ。

意味の無い物に民衆は働いて飯を食わせているのか?」


「ならばこんな貴族なんて捨てるさ、父は民衆と同じに忙しく働いている。

城からの金なんて微々たる物だ、使用人の給料も賄えない。

領地や商いから収入があれば税も納める。

こんな地位の為に命を捨てる気は無い。」


「はっ!なんて口の達者な奴だ。」


「そっくりお返しする。」


ルクレシアが立ち上がった。

ドアに向かうとリリスが立っている。

ニッコリ笑って、サッと道を空けた。


「良かった!私もマリナが命をかけるのは心配でしたから。

ホッとしました、ありがとうございます!

さあどうぞ、お帰りはご勝手に。」


ルクレシアの顔が、悔しげに引きつった。

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