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470、超現実主義者

ルクレシアがどんな人間でここに呼ばれたかを察し、重い気持ちが周りに感染する。

外の喧騒だけが響き、一緒に行動する者達は次第に無口になった。


質素な階段を上がり、一番奥の部屋に進む。

屋敷はダンレンド家の半分も無い。


「風の女王の家にしては小さいね」


「はい、昔、母上は魔導師を育ててらしたのですが、弟子は皆向こうの離れで暮らしておりました。

母屋にいたのは、母と下働きしていました私だけでしたので。

あとは皆様通いでいらっしゃいましたから、使っていない部屋がほとんどで、こんなに沢山客室作って掃除ばかりでウンザリする!って思っていましたが現状は助かっています。

この奥にも玄関正面の階段を上った所に部屋があるのですよ。

下は薬草庫ですから、少し匂いがしますので、気にならない者が使っています」


「下働きで?じゃあ君の部屋は倉庫の隣?」


「え?どうしてですか?」


「下働きはそういうものさ」


「いえ、今からご案内する角部屋です。一番明るい部屋なので、今は祭壇を置いてますが」


「なるほど、そうか。それで、ようやくわかった」


ルクレシアが笑って立ち止まりリリスの顔を見る。


「君は自分を奴隷だったと思うなら、それは間違いだ。

そんないい部屋、精霊の女主人は君を、大切にのびのびとした希望を持った子として育てたに違いない。

下働きなんて、人間たちが勝手に決めた物だ。

女主人は恐らく、それを条件に人間に援助を貰ってたんだろう。

風の神殿が無かったことを、相当後悔しただろうさ」



『   まさしく!!しかり!!  』



ガタガタガタ、ごおおおお


突然、空気を揺らす声がして、びゅうっと風が吹き抜けた。

吹き抜けを風が巻いてカーテンや窓が音を立て、セフィーリアが姿を現す。


『 汝の言う通りじゃ!なんと言う聡明な青年よ!

 お前の観察眼、まことに面白い!気に入ったぞ!

 わしが気に入る人間など、そういる物では無い!

 光栄に思うが良い! 』


ルクレシアが目を丸くして、険悪な表情でぎこちなくリリスを横目で見る。


「誰?」


「あ、母上様、風の精霊女王セフィーリア様であらせられます」


ニッコリ、満面の笑みで答える。が、彼は何とも言えない表情だった。


「悪いけど、僕は精霊とか、そういう類いは信じてないんだ」



ガーーーン!!



セフィーリアがショックで姿が霧になって行く。


「 な、なんと!お呼びでなかったとは、とほほ……」


愕然としたセフィーリアが、そのままシュンと消えてしまった。


「ああ……母上様。

そのようなお言葉、この国では初めて聞いたような気がします。

あれ?では宰相を乗っ取っていたのは……」


「そうだな、僕は彼をそう言う生き物だと思ってるから」


「生き物?!ですか??」


なんて事だろう。

驚くほどに、この精霊の国にいながら超現実主義者だ。

普通、精霊王と聞けば手くらい合わせる物だ。

悪霊さえ、そう言う生き物だと言い切る。

彼のドライな性格には、その場にいた全員が引いた。


「僕はね、現実がすべての、いろんな物への信仰心が消え失せるような生活をしてきたのさ。

毎日朝が来てはホッとして、夜が来ては絶望した。

君にはまた違った苦労があっただろうけど、貴族暮らしで育った僕は、死んだ方がマシな時期があった。

そういう目にあってきたんだ。

まあ、身から出たサビでしか無いけどね。

精霊に何も助けられた気がしなかった僕に、その存在を感じろって言うのが無理なのさ」


後ろで爺がまたハンカチを目頭に当てている。

肩をヒョイと上げて、先に行こうと指を指す。

リリスが、うなずいて歩きながら返した。


「ビックリです。そういう考え方は新鮮でございます。

でもきっと、精霊を特別視しない方は普通にいらっしゃるのでしょう。

私は精霊に囲まれて生きてきましたから、私の中では特別な存在なのです。

さあ、どうぞ、こちらです」


ドアの前にいたグレンが頭を下げてドアを開く。


ルクレシアが胡散臭そうな顔で天井から下がる白い布をめくり祭壇の部屋に入ると、驚いて目を見開いた。


「ルクレシア、会いたかった」


ラティが涙を流し、胸に手を当てルクレシアに膝を付く。


「ラティ!なぜここに?!」


それは2度と会えないだろうと思っていたルクレシアには、驚くべき再会だった。


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