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464、家族が僕を守ってくれる

ルクレシアが家に帰って、以前は不在が多かった父が、いつも気がつくと家にいる。

最初自分の為なのかと思ったけれど、どうも違うようだ。

来客が多かった家も、しんとして使用人は掃除や片付けばかりしている。

ルクレシアは食事をしながら、思い切って聞いてみることにした。


「父上、最近お仕事はいかがされているのでしょうか?」


初めて仕事のことを聞く彼に、父が少し驚いたように目を開いた。


「心配せずとも良い。今訳あって仕事を国内にとどめている。

貴族院での話し合いの取り決めがあるのだ。

これは他言無用にせよ、近くお前達はベスレムの別荘に移って貰おうと思っておる」


なるほど、城から姿を消した貴族は、自分たちで取り決めて様子をうかがっているのか。

早々に逃げ出す算段など、どこでも似たようなものだろう。

父が残ると言うのは、侯爵としての王族への忠誠の証か。

城にいた貴族は様子がおかしかったから、正気では無かったのかもしれない。

不気味なことだ。


「ベスレムに?遠いですね。

少し前、途中の山に族が出ると言う噂でしたので、移動はグルクの方が安全かと存じますが。

ベスレムはここと変わらぬあつらえですので、身1つで行っても困ることはないでしょう。

以前と変わらなければの話しですが……」


早速の助言に、父が明るい顔でうなずいた。


「ほう、そうだな。考えよう」


「まあ!私グルクに乗るのは久しぶりだわ。

ほら、結婚前にベスレムへ行ったとき、あなたと空からの物見に回ったでしょう?

沢山シビルがいて、楽しかったわ」


「おお、懐かしいな」


「私は、あなたの後ろに乗りたいわ。だからフィランシアとルクレシアは先に行って、ベスレムで待ってて頂戴ね」


「は……そ、それは……困ったものだな」


家族を心配する父が上手く言ったつもりなのに、母に出し抜かれて苦笑している。

微笑む母上の、なんと輝いていることか。母は父と運命を共にする気なのだ。

ああ、お二人とも、すっかりお年を召してしまった。

その原因であった私は、お二人に何が出来るのかを考えねばならない。

それでも……ああ、昔の穏やかな家族の姿が戻っている。


良かった。


「ルクレシア、風の館を訪ねるのですって?

まあ、あなたは流されやすいから一人は心配だわ。爺、付いていって頂戴」


「は、奥様」


「必要ありません、私が共に参りますゆえ」


巫子がやはり牽制してくる。


「あら、年寄り1人、爺は空気のようでしてよ?お邪魔にはなりませんわ。

だって、爺はルクレシアから2度と目を離しちゃ駄目なの、そう家族で決めましてよ。

爺、お願いね」


微笑む母は昔から押しが強い。強いから昔はひどく反発した。

巫子がグッと言葉を詰まらせる。爺は静かに頭を下げた。


「承知いたしました、奥様」


ククッとルクレシアが笑う。

すましていた巫子が、初めて焦った顔でチラリと睨んだ。



食事を済ませて、馬車を準備して貰う。

風の村は意外と屋敷から遠いらしい。

なんでそんな所までわざわざ出向いて、巫子なんかに会わなきゃいけないのか不服ではある。

父や弟が、初めての外出に心配してホールまでついて来た。

爺はいつも外出時はステッキをもって、風のようにルクレシアにピタリと付く。

年を取ってもその安心感は変わらない。

それが当たり前だったから、家を出てラティを守る立場になると戸惑いと不安しか無かった。

爺は本当に頼りになる。


まあ、だから僕をいいようにしたい、この巫子には邪魔者なんだろう。

口ひげがピンと張って一分の隙も無く、ジロリと見る巫子と視線で火花を散らした。


「爺、頼むよ」


「承知いたしました、この爺、命の限り若様をお守りいたします」


「大げさだな、みんな心配し過ぎだよ。あそこは風の精霊王の館だよ?心配いらないよ」


ホールのドアを出ると御者をしてくれる下男のダグレスが、馬車のドアを開けて待っている。


「お前の言う、心配いらないほど信用できぬものはない。

良いか?何か言われても、腹を立てるな。

城へは、誘われても絶対に1人で行ってはならん。


最近、城は内情がわからん状況だ。

いや、お前の方が詳しいのかもしれんな。

交易相手から王への口利きを頼まれて様子をうかがっているが、複数の者に止められて登城を控えている。

どうも、人にはどうにもできぬ呪詛関係のようだ。

皆、風の丘の巫子が何とかしてくれるのを待っていると聞く。


風の丘にいらっしゃる方は、昔途絶えた最高位の巫子殿らしい。

本物なれば良いがな。

隣の大国が兵を出したという話も聞くし、(いくさ)になることも考えておくべきだ」


呪詛か、呪いには違いない。

あんな物が王家に巣くっているなんて、誰が考えただろう。

大国が攻めても、あの魔物たちなら太刀打ち出来るかも知れない。

だがその時、この国は精霊の国なんて名目はつかなくなるだろう。


ルクレシアが久しぶりに着る外出用の上着の襟を正し、羽根飾りの付いた帽子をかぶって顔を上げた。


「わかりました。

帰りません時には、どうか私に構わず先にベスレムへご避難を。

私は爺と、あとで参ります。

家に迷惑はかけませんのでご心配なく」


「かけても良い、傷つくのを恐れてはならぬ。

良いか、何かあっても1人で解決しようとしてはならぬ。

必ず爺に相談せよ。不穏な計画に誘われても、1度必ず家に帰るように」


ルクレシアが、驚いて父の顔を見る。

父が、肩を叩き帽子を直してくれた。

世間体を気にすると思っていた父は、本当に彼を守ると決めたのだ。

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