460、汝は我が友、我は汝が友
光に守られ、封印の壁を越えて行く。
まぶしさにも目が慣れて、ゆっくりゆっくりの浮上で、リリスはようやく落ち着いてきた。
「 ひっく、ひっく、……主様 」
『 名前 』
「 シャシュラマシュリカカシュカシャラ様、来ていただいて、ひいっく
ありがとう、うぇっ、うぇっ、ございました 」
『 解である。不可解な音は感情の音であるな、解である。
顔から流れる物は感情の水か、解である 』
「 うっ、うっ、わかっていただいて、ありがとうございます 」
服のすそで涙をゴシゴシふいて、大きく息を付く。
ああ、なんて澄んだ空気なんだろう。
神の手は、これほど落ち着いて満たされるものなのか。
それにしても、これほど強固な封印をしく力、それでいて穴を塞げないのか。
「 ぐすっ、主様、我らにあの穴を塞ぐことは出来ないのでしょうか 」
『 名前 』
「 シャシュラマシュリカカシュカシャラ様 」
『 うぬう、2度も我が名を軽々しく述べるとは不遜なり 』
「 言えとおっしゃったじゃないですか 」
『 それは地の領分である。
この封印も、あの混沌を塞ぐには不完全である 』
「 えっ?!これでも不完全だと?? 」
『 然り。よって穴は至る所に空きやすくなり、混沌が流れ込み、美しい規律が崩れ、精霊は数を減らしている。
この世は、我らと人の調和の上で成り立つ。
それが崩れる時を見ている 』
「 見ているのですか?! 」
『 我は閉じること能わず 』
「 出来ないという事ですね?
ヴァシュラム様は話を聞いて下さるでしょうか? 」
『 カカッ!あれは真っ先に自らに跳ね返る。
美しい人の子にばかり目を奪われ、神の位置を分身に奪われた 』
「 奪われた??奪われたとは?!ああ……ああ……そうか、それで地の巫子様は力が出ないと仰っていたんですね。
このままでは神殿に帰れないと困っておいででしたが、力は戻るのでしょうか? 」
『 地には関せず 』
「 そうですか。主様はいろいろご存じなのですね? 」
『 名前 』
「 シャシュラマシュリカカシュカシャラ様 」
『 見事!見事なり!汝、よく覚えた 』
「 はい、ありがとうございます。
それより、新しい地の神はどなたなのでしょう。お会いすればわかるでしょうか? 」
『 穴を、塞ぐか 』
大きく深呼吸する。
両頬を叩き、目を見開いた。
泣くのは止めだ。私にはやることが多すぎる。そして皆、それを待っている。
泣いている場合では無い、諦めるなど許さない。すべて元に戻して精霊の国を回復させる!!
『 はい。これは精霊界全体の問題と思います。
自分たちは向き合うことをせず、穴を閉じる力の無い火の精霊に背負わせることは理に反します。
力のある者が、自らの役割の元に向き合うべき事。
そのために精霊は地水火風、四精霊にわかれ、互いを補い、互いで支え合い、人間は彼らを敬って力を与える。
本来そうであるべきなのです 」
『 おお! 』
光の中、リリスの頭上に巨大な瞳孔の無い金色の目が開き、リリスを見下ろした。
『 おおお!汝!汝にはそれが出来ると言うのか?!やれると言うのか?! 』
リリスはそれを見上げ、大きく息を吸って、身体中で答えた。
「 成せばならぬ! 」
力強く覇気のある言葉に、金色の目が驚愕して見開き、1つまばたきをする。
じわりと目がうるみ、金の涙がボタリとリリスの額に落ちた。
ゾワリと違和感が額に走り、思わず両手で押さえる。
なんだ?普通の涙じゃない。痛みは無いけど、熱い。
「 うっ、な、何をなされました? 」
『 汝に我が力を与える。汝はそれに値する者である
我が名はシャシュリシュラカ
我が巫子リリス、汝は我が友、我は汝が友
我は常に汝と共にあり、汝消えゆくまで汝を明るく照らし、行く末を見守ろう 』
リリスが大きく目を見開いた。
信じられなくて、身体が凍り付いた。
何を言われたのか、良くわかる。
わかる、もの凄く。
凄く、すごく、すごく、凄い。
それを得るには、どうすればいいのか探していたから。
やっと、やっと!!マリナ!マリナ!!見ているかい?!
頭が真っ白で、言葉が浮かばない。
金の目玉が、じっと見てる。
何か言わなきゃ。なにか!
反応が無いのにいぶかしんで、目玉からヌウッと白い発光体が出てきた。
『 不満であるか? わかるぞ、見られたくない時も有り
だが、じいっと見ているわけでは無し 』
まん丸にウサギのような耳の生えた発光体が1つ、ぽわぽわ落ちてくる。
それを手に乗せると、頭の上の目玉が光の中に消えた。
何だか可愛い。思わず、フフッと微笑んだ。
「 名前、短いんですね。良かった 」
『 うむ、是非も無し 』
「 シャシュリシュラカ様、私で良いのでしょうか? 」
『 汝が疑う時、我は力を閉じるであろう 』
耳が触手のように伸びて、リリスの頭を撫でる。
ウフフと笑って、少し元気が出た。
「 はい、これから私がお爺さんになるまで、末永くよろしゅうお願いします 」
『 うむ。 汝が同胞は戦っておるぞ 』
「 はい 」
『 納得出来ぬ者がいたな、罰するのか 』
「 まさか!あれの言う事はまさしくのこと。
ですがあの時、他に力を使っては、この封印を超えることなど出来なかったでしょう。
うふふ、今は怒られないかとヒヤヒヤでございます! 」
笑うリリスに、発光体が一つ金色の目を開き、ニッと笑った。
『 重畳である! 』
発光体は満足したように、手の中でポンポン跳ねた。