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459、絶望の中の精霊たちにかける言葉

大きく息を付く。

身体中が燃えそうな怒りに包まれていた。



僕は、私は、  私は! このままでいいのか?!



ギュッと手を握る。

落ち着け、落ち着け、目を閉じるとイネス様の顔が、何故か浮かんだ。


ああ、あなたの神は罪深い。

それでも、ただ単に、ヴァシュラムが目の届く所に私を置いておきたかっただけにしても、


私は、私は、あなたとお会い出来て良かったと、そう思うのです。


うつむいて目を閉じ、大きく息を付いて顔を上げる。


「 なるほど、それでフレア様は眷属の解放に積極的ではないのですね。

 理由がわかりました。

 ならば、地の精霊王に、この穴を閉じていただきます 」


『 地の王は気まぐれな御方、聞きいれていただけるかどうか… 』


リリスが驚き、ボッと髪を燃やして目を見開いた。


何故? なにも、期待していない…… と言うのか。私が来ても、何も……


精霊は、表情も乏しく顔が仮面のように動かない。

時々頬に手を当て、微笑み方を思い出そうとしているようだった。

リリスがそっと彼女の頬に手を当て、ニッコリ笑う。

精霊が、その手に手を重ね、リリスを真似て口を動かしぎこちなく笑った。


『 我が巫子、ああ、我らは希望を持つのが恐ろしい。

 希望を持っては打ち砕かれ、開くことの無い真っ黒な空を見続けてきた。

 今度また、 また…… 本当に……

 お会い出来る時があるのなら……

 ああ、いいえ、きっとその日は来ないでしょう。

 地の神は動かない。我らの神にもどうすることも出来ない。

 誰も動かない。誰も動けない。誰も……


 もうすでに沢山の同胞が力尽きて消えてしまった。

 我らは、あと数百年、ここで命尽きる日を待ちます。

 あなたとお会い出来たこの一時が、我らの大切な生きる糧になるでしょう 』


息を呑んだ。

この一時を、良い思い出で終わらせようとしている。


精霊たちの心は、ここまで疲弊しきって、すべてを諦めている。

彼らがこんな所でひたすら穴を塞ぐことを強いられ、誰にも顧みられず見捨てられてきたこの300年を思うと打ち砕かれそうになる。

これほど心が激しく動揺して、締めつけられたことは無かった。


「 いいえ! 駄目です。地の神には動いて貰います。きっと! いえ、絶対に!

 これはこの世界の、力を持つ精霊王の義務です。

 出来ることはやっていただきます。 

 今、私の元に地の巫子もいらっしゃるのです、代が変わり口伝も届いていないはず。ですのでお伝えします。

 だから、だから、 だから! 希望を、捨てないでください! 」


シュリクマの手をギュッと握る。

自分は、今、ひどいことを言っているのではないかと、後ろめたさに冷や汗が出る。

出来るのか、出来ないのかわからない。

わからない事に希望を持てと言う事の、なんと空々しい事よ。彼らの願いはこれほど切実なのに。


怖い、言葉1つが重すぎて、絶望が深すぎて、怖い、恐ろしい。


『 我が…… 巫子、ああ、希望の灯火よ。

 私の火種があなたの力になるだろう。

 我は原初の火、人と出会って長い長い年月、火を受け継いできた。

 火は火、その姿は変わらず、あなたと共にある。

 火よ、火よ、私の火種よ、燃えよ絶えることなく。

 分かたれし我が心は巫子と共にある 』


「 シュリクマ…… 」


シュリクマが、そっとリリスを抱きしめる。

その時、リリスの足下にスッと一条の光が降り注いだ。



『   戻れ 巫子よ  そこは  汝、存在する場所に、あたわず   』



日の神の声が、リリスに響く。

ここまで迎えに来てくれたのだ。ああ! 来てくれたのだ!

シュリクマが、リリスの手を取りその光に誘う。


『 さあ、あなた様は光の下にお戻り下さい。お会い出来てようございました 』


自分だけ、自分だけ戻るなんて、戻るなんて出来ない。

リリスの手が震えてシュリクマの腕を掴んだ。


「 ぼ、僕は…… 僕は…… 」


僕は卑怯(ひきょう)だ。何も出来ないで帰るなんて。

小さな希望を与えて、結局は見捨ててしまうのだ。なんて、卑怯だ!


シュリクマが、そっとリリスの手に手を重ね、その手を包んだ。


『 我らは、いつまでもお待ちしております 』


リリスが唇を噛む。震えが止まらない。また来ますと言えない。

ここは、城は、魔物のねぐらなのだ。


光が無数の手となり、空から動けないリリスを包み込み彼女から引き離す。

ふわりと足が宙に浮き、上へ上へと引き上げられた。

シュリクマの周りには火が沢山集まって、見送ってくれる。

沢山の火から小さな手が出て、名残惜しく手を上げていた。


『 待ってる 』『 待ってる! 』『 待ってる!! 』


「 待ってて、待ってて、待ってて、必ず、必ず、必ず 」



『『『   待ってる!   』』』



リリスが光の中で、必死で手を伸ばした。


「 待ってて…… 」


涙がポロポロ流れて止まらなかった。

一面に広がる火の明かりが弱々しく輝き、やがて封印の壁に入り、火の光が見えなくなる。


「 えっ、えっ、えっ、ひっく、ひっく、ひっく、ううううあああ


 あああああ、ああああああ


 うわああああああ、ああああああああああ!!!!

 

 わああああああああああああああ!!! 」


両手で顔を覆って泣いた。


また、必ず来ますと、必ず助けますと言えなかった。


言いたかった、ウソでもいいと思った。

けれど、ウソなんて適当な言葉、彼らに言うくらいなら自分もあの場所で共に生きて死んだ方が万倍もマシだと思ったのだ。

希望を捨てるなと、無責任な言葉を言うのが精一杯だった。


彼らがここに縛り続けられた理由は、明らかに火の者には手が無かったことを表している。

閉じても閉じても開くのだ。

何度閉じても、大きくなって行くのだ。


火の精霊がすべてで取りかかって、それでも穴の半分はすでに開いたままだった。

彼らにはもう、穴を塞ぐ力は無い。



無いんだ!



ヴァシュラムが、あの姑息な精霊が、利も無く閉じてくれると思えない。

イネス様! 僕は、僕は、どうすればいい?!


光の手が、温かく抱きしめる。

リリスはその手に抱きついて、声を上げて泣いた。

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