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456/581

455、倒すのが先か、眷属の解放が先か


「王よ!何をしているのです!今こそあなたのお力をお見せ下さい!」


玉座の背後から、キアナルーサの声が響いた。

動かないランドレールにしびれを切らしたのか、あれは闇落ち精霊の声だろう。


「ちから……ち、から……」


「侵入者を殺せ!殺せ!コロセ!!」


声を大きくして、彼に叫ぶ。

ホールに奇妙なほど反響して、宰相がドロリとした目を見開いた。


「う、う、う、うるさい!!」


振り上げた腕から黒いおりを吹きだし、天井近くの壁をドロリと汚した。

身体を支えきれず、ガクリと膝を折って四つん這いになる。

口からも澱を吐き出しながら、低く、呪われたような声を上げた。


「うううう、うう、るさい。オオオオオオ


あああああ!!我は!!わ、わ、我は!王!なるぞ!!


め、め、いれい、スルナ!」


「殺せ!殺せ!殺せ!」


「オオオ……」


頭を抱え、耳をふさぎ顔を上げる。

指のすき間や口から、ドロドロと黒い澱が流れ出した。


うわっ……


ホカゲが思わず下がり、リリスの透ける身体を踏みつけた。

慌てて横に避けて見ると、リリスはランドレールなど気にもとめず床に手をあて目を閉じていた。


「赤様、どうかお下がり下さい」


『 手を出されるまで出してはなりません 』


「それは、わかっておりますが。でも」


わかっているけど、ああ、そうさ。私は逃げたい。

今すぐここを逃げ出したい。

今まで戦いには影で対応してきた。

こんなまともに戦ったことなんか無いんだ!


黒い澱に囲まれつつある状況で、どう動いていいか不安げなホカゲに変わって、ゴウカがリリスの前に立ち身構えた。


「攻撃は、もう始まっていると判断いたします」


『 任せます 』


「お心のままに」


ゴウカが宰相であったものに向かって左手を向けた。

その手の先から、灰になってボロボロと崩れ周囲に漂う。

腰の袋から繭を1つ取って口にくわえ、フーッと周囲に吐く。

何かがキラキラと吹き出され、灰が混じってそれを受け止め3人の周りに漂った。


「 グギギギギ 」


ランドレールからは黒い澱があふれ、宰相の身体を飲み込んで行く。

その流れがピタリと止まり、3人の周りの澱がバッと宙に舞い上がった。

四方の黒い澱が花のように開いて上から襲いかかり、3人を飲み込もうとする。


ゴウカが右手でパチンと指を鳴らす。

一瞬で周囲が煙に巻かれたようになって、ドスンと落ちてきた澱を受け止め遮った。


それは、(まゆ)だ。

ゴウカは間髪入れず右の指を唇に押し当て、歯を擦って息を吐く。


「シッ!」


バーーーンッ!!


まるで落雷が落ちたように、繭が轟音を鳴らして火花を散らす。

澱が弾けて飛び散り、繭はパリパリと放電していた。


「凄い!凄いよ、ゴウカ!」


ホカゲが耳を押さえて思わず身をかがめ、初めて戦うゴウカを見て目を見開く。


「終わりではありませんよ、ホカゲ。我らでお守りしなければ」


ハッと顔を上げると、飛び散った澱はドロドロ流れて次第に集まりはじめている。


また、来る。


息を呑んで背筋を伸ばす。

足下のリリスを見て、ギョッとした。

手が半分床に沈んでいる。


「赤様!」


『 呼んでる。呼んでいるのです!声がかすかに聞こえるのに、駄目です。

 血の通わない身体では、神気が弱くて壁を突破出来ない。

 身体を呼びます。後は頼みます 』


実体を呼ぶだって?!なにを言うんだ!冗談では無い!!


「そのような!まだ退路が確保出来ていません!!お止めくだ……!」


「承知いたしました、我が巫子」


ホカゲの引きつる顔をよそに、ゴウカが顔の前垂れを上げて、胸に手を当て一礼する。

リリスが胸元で手を合わせ、そして天井に向け大きく手を広げた。



「来よ!」



ズズズズ……ビリビリビリビリ、城の空気が振動して、あたりに閃光が走る。


ドドーーーンッ!!


それは城を揺るがすほどの振動をもって、澱を弾き飛ばし落雷のように落ちてきた。

思わず天井を見ても、穴など空いていない。

繭の中に煙が立ちこめ、それが次第に真っ白に輝く。


「あ、赤様!なんて事だ」


リリスを見ると、実体となって髪を白く燃やし、まぶしいほどに輝いている。


「ギ、ギ、ギ、」


部屋中に散った黒い澱が奇妙に重なるくぐもった声を上げ、瞬時に宰相の身体の中に吸い込まれ隠れた。

宰相は、顔を覆ってまぶしさから逃れようとしている。

ホカゲが、大きく目を見開いた。


今!今なら、あいつを浄化出来るのではないか?!


またとない機会に、ホカゲがバッとリリスを見る。

だが、彼は床を凝視して、すべての力をそこに集中していた。


「赤様!今なら浄化出来ます!!」


だが、動かない。

これほどの力を持っているのに、動かないことにいらだちを感じた。


「今の力なら消し飛ばせる!向こうが先だ!リリス!!」


思わず名を呼ぶと、ようやくリリスが顔を上げた。


「今、私がやらねばならないことは、悪霊の浄化では、無い」


「しかし!!魔導師なら、いつでも出来ると思ってはならないはずだ!

やれる時やるのが最善の策、後回しにして成せなかったことなど、山ほど見てきた。

いつでも出来ると思うのはおごりだ!!」


ゴウカが厳しい顔で、ホカゲに手を向け制する。


「赤様のお考えに従うのです」


「でも!」


ゴウカが静かに首を振る。

リリスは、真っ白になるほど神気を上げて床に集中して封印に向かっている。

宰相が顔を覆ったまま身を起こし、また闇を吐いてきた。

それは玉座との間に立ちこめて、壁を作ろうとしている。


「リリス!リリス!!これは好機だ!考え直せ!それはその後で出来るではないか!」



「後回しには出来ぬ」



“  黙れ!!ホカゲ!!黙れ!控えよ!! ”



ホカゲの頭の中で、他の神官たちが黙れと叫ぶ。

割れるような声に頭を抱えていると、ゴウカが歩み寄って横から口を塞ぎ、心話で一喝した。


“ 敵の前で不和を見せるなど、正気か?お主! ”


ホカゲが顔を歪ませる。

任せよと、先ほど言ったばかりでこの体たらく。

だから青様には、あれほどなじられたというのに。


力を持つリリス自身が魔物と対峙しないことで、ホカゲはひどく焦っている。

事が済んだら、リリスを無事に城から出さねばならない。

自分の空間転移の力を当てにされているとしたら。出せるのか?また失敗したらどうする?

ホカゲは自分の失敗で、先代の巫子を失ったときの恐怖に包まれていた。

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