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454、戦いへのきっかけ

リリスがマリナとの会話を止めて、周囲を見回す。

ゴウカの結界の周りの床がすべて黒いモヤで埋め尽くされている。


「これ以上はまずいかと」


ホカゲが緊張して杖を握りしめる。

彼はすでに緊張で吐きそうだった。

今までの彼なら、敵に出会った瞬間逃げている。

だが、今は巫子優先なのだ。

しかしだからこそ、指示を受けて待つ時間が100倍長く感じた。


自分は今までひたすら逃げてきただけに、戦い方が急に変わってしまった事になる。

魔導師の長と言っても、先見の魔導師だ。

ひたすら安全圏だけを確保してきた。

それは使命があるだけに、生き残ることが何より大切だったからだ。


「はあ、はあ、はあ、」


息が乱れる。

宰相は無言で呆然と闇を吐くだけで、動かない。

無だ。

頭が働いていない。

3人を相手にして、きっかけを待っている。



リリスが、チラリとホカゲを見る。

ゴウカと違って余裕がない。

実力はあるはずなのに、どうしてだろう。


魔導師の長にまでなった方が……そうか、そうだった。


アトラーナには、戦える魔導師が劇的にいないと。

長い平和の中で、魔導を応用して戦う事を考えていないのだと。

そうレナントで聞いてきたのだった。


まだ、日は落ちていない。

明かり取りの木窓が開けば日の光が届く。


リリスが指を組み、揺らぐ言葉を放った。



『 風よ、吹け 』



ごぉぉぉぉぉぉおおおお!!!


外から、風のうなる音が響いた。



ドーーンッ!



城を揺さぶるほどに、並ぶ窓に激しく風が叩きつけられる。

簡単な作りの窓だ。普通ならば開くはずだ。だが、それでもビクともしない。

リリスが上目遣いで、玉座にグッタリと座る宰相を見る。

宰相は、呆としていた目玉をギョロリと向け、彼を見下ろしニイッと笑った。


「 我ガ、城ゾ 」


『 どうやらそのようですね 』


立ちこめる黒い闇など問題では無い。

ここは、城は、彼らの執着する住処だ、数百年を経て、場を支配している。

崩れた魔導師の塔は、恐らくそれを抑える為の結界だったのだろう。

だが、それはもう崩れてしまった。

地下の恐らくそこにある王子を、結界と重ねて封じた術も、すでに決壊してしまっている。

彼らを抑えるものがなにも無い。

敵に利がある、それは覚悟の上だ。


リリスが大きく息を付く。

宰相が、頭が痛くなるような声を上げはじめた。


「 オオオオオオオオオオオオオオオオ 」


すでに正気では無い。

少し考え、心話で2人に語りかける。



“ 青たちの情報から、魔物が火ヘの恐怖を克服したかを見る為に出てきたのだと思われます。

 だから今回は、極力、火を使いません ”


“ な、なんですって??ここで浄化しないのですか?! ”


ビクンと、ホカゲが動揺する。

ゴウカが表情も変えず、心話でホカゲを叱咤した。


“ 魔導師の長ともあろう者が! ”


“ もっ、申しわけ、ありません!でもっ、どう?どうするのですか?

赤様は実体では無いので安心ですが。

 ここへはまた出直せますでしょうか?結界を残して……いや、それは無理だ。(かなめ)をすぐに破壊されてしまう ”


うろたえるホカゲに、フウッとリリスが息を吐く。

心話は隠し事が出来ない。考えていることがそのまま出やすい。


“ 出直すのは、無理でしょう。恐らくここは彼らによって閉じられてしまう。

 ここは眷族を解放するすべを探りながら戦います ”


“ な、なんですって?!バカな!!そんな事出来るはずもない! ”


“ ホカゲ!うろたえるな!赤様の御前なるぞ!! ”


“ で、でも!……はっ!動いた! ”




ゆっくりと、宰相が咆哮を上げながら立ち上がる。

焦点の合わない目で、見回すと狂気の表情で笑った。


「 カカカカカカカカ! お、お、お前達、我は!王、なるぞ!!


 控えよ!! 」


ドッと、何か重い空気が落ちてきた。

リリスがクルリと手でないで、それを払う。術で返そうとして、手を止めた。


駄目だ。

きっかけだ。

それが戦いのきっかけになる!


ああ、優位だと思われたら負けだ。

少なくとも、ホカゲはここにいるのだ。命に関わる。

このうろたえようでは、同じなのだ。戦ったことが無い。


それに眷族はここに封印されている。

しかも、恐らくそれは敵に知られた。


ああ……

なんとしても、ここは死守しなければならない。


まだ、眷族の封印を解く方法がわからない。

ここを追い出されては、それを調べることも出来なくなる。


日の力を使うか?いや、駄目だ。

宰相のお身体を残すことが出来るかどうか。

レスラカーン様のお気持ちを考えると、出来れば奪還したい。

それに、この魔物たちは簡単に取り憑く者を取り替える。

ランドレールという王子であるのか無いのか、また他者に乗り移られれば見分けるのは難しかろう。

被害者を増やすだけだ。


どうする?

どうすればいい?


大きく息を付く。



手を掲げ、大きく振り下ろした。


ブオッと風が鳴り、周囲の黒い闇を一気に消し去る。

リリスたちの周りの床が、スポットライトを浴びたように明るくなった。



『 ジタバタしたって、思った通りに事が運んだ事なんてありません。

 ホカゲ、自分に出来ることをお考え下さい 』


ホカゲがゴクリとツバを飲む。

リリスの言葉が敬語になってしまった。


きっと、見苦しい所を見せてしまったからだ。

うろたえるなど、神官の名折れ。

青様はとにかく、赤様には頼られたい!


ホカゲがシャンと背を伸ばす。

ゴウカに会って、思わず子供の頃に気持ちが返ってしまった。

今は、いっそルークにならねば!


大きく深呼吸して、スッと一歩リリスの前に出る。


「赤様、このホカゲ、腐っても魔導師の長、今一度、お見知り置き下さい」


『 良かった!では、よろしくお願いしますね? 』


「え?」


振り向くと、満面の笑顔でリリスが微笑む。

なんだか嫌な予感がした。

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