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452、玉座の守(もり)

大きな扉を開き、謁見の間に足を踏み入れる。

広間の中央には美しいベスレムの敷物があり、正面の玉座にはドラゴンと呼ばれる精霊王たちを使役するドラゴンマスターに相応しい、4つの頭を持つドラゴンを従える王を描いたアトラーナの紋章のタペストリーが雄々しく目を引く。

ホカゲはそれを見るなり、苦々しい顔で首を振った。


「このような紋章、災厄のあとで作り替えられた物です。

元は四精霊を表す意匠の上に星の花が描かれる平和な物でした。

一つとして精霊を王族と同等の場に置きたくない人間の傲慢さが現れています」


『 そうなのですか? 私は、この紋章しか見た事がありません。

 そう言えば、以前顕現されたヴァルケン様の装飾にあった物が、初めて見る物でした。

あれが本来のものなのですね。

なるほど、王家の宝物庫を閉じて一切見せないのも、そういう理由かもしれません 』

 

「玉座をご覧下さい、紋章を付け替えたあとがあります。

本当に腹立たしい物です」


先導するホカゲのあとを付いて、中央に進む。

リリスはここに来たのは何度目だろう。

2度は頭に分厚い毛布だったかかけられて、髪が見えないようにさせられたっけ。

なにも見えなかったから、どこにいるのかもわからなかった。


「いかがでしょうか? 眷族の封印された場所はわかりますか? 」


『 んー、これは本当に面白い封印の術ですね。

 扉の前に立つと、ここだとわかるのに、入った途端ボンヤリとぼやけてしまいます 』


「それで、玉座だけに粗探し出来なくて、難儀しておりました。

どうなさいますか? 」


『 この、隠すようなモヤ、というか、霧を払います。

  …… いえ、 それは、ダメですね。

 うん、これは、王をお守りする霊術ですね 』


「霊? 術?? 魔導ではなく?? 」


『 水の神殿にあった誰かの日記にですね、

 “ 先祖の霊をもって守とする。それを守護霊術と名付ける ”

 そんな一文があったのです。

 どういう事か尋ねても、誰も知らなかったのですが、今ならわかります 』


そう言って、リリスが玉座に向かい、胸に手を当て深々とお辞儀する。

ホカゲもワケがわからず同調した。


『 (いにしえ)の王妃よ、私は一時途絶えた火の神のしもべ、火の赤の巫子でございます。封印されしわが同胞のありかを探す為に参りました。

お騒がせいたします事、謝罪いたします 』


ポッと、玉座の背後から小さな光が輝き、それが人型を取る。

白く輝く手を差し伸べ、スウッと近づいてリリスの頭を撫でると、床を指して消えた。



『「 え?? 」』



『 ゆ、床?! ですか?? 』


「床?? まさか!! 」


思いがけない答えに、2人が足下を見る。

そこには巨大な美しい敷物があり、床は直に見えない。

だが、ここに何かが隠されているのだと、守の王妃は教えてくれたのだ。


「まさか、足下に? この数百年を、ずっと踏みつけられていたというのか?! 」


『 まさか、こんな所に…… まさしくまさかですね 』


「なんと言う屈辱。などと言ってる暇はありません。

端から丸めてみましょう。下を見なくてはなんとも…… 」


ピタリと、ホカゲの動きが止まった。

リリスが、王の出入りするドアを見る。


『 ああ…… 来てしまわれました 』


ズルリズルリ、足を上げず這うように進む人影が天幕の影の奥の暗闇に見えた。

それは真っ直ぐに玉座に進み、ふうふうと凍えるような息を吐く。

そして、ようやくドサリと玉座に座った。


『 あれは? 』


「宰相です、どうやら生きておいでとは言いがたいお姿ですが」


ふうふうとしている息も、呼吸の為の息では無いような気がする。

それほどに、宰相は服が血に濡れてそれが黒く変色していた。

顔は青白く、土のような色で生きている気配さえ無い。

ヒソヒソ話す2人の姿に、焦点の合わない目でジロリと向いた。



「 無礼者メ、ヒレ伏スガイイ 」



まるで、地獄の底から聞こえたような、重苦しい声だった。

リリスの表面が、一瞬パッと燃える。

ハッと隣を見ると、ホカゲが苦しそうな表情で杖を盾にしながら、片手で顔を押さえていた。


「赤様、お下がり、下さい。

まだ、まだ、あなたは戦うときでは、ありません」


リリスの前に、塵のように広がっていた灰が集まり、ゴウカの姿が現れる。


「赤様、お戻り下さい。まだ戦ってはなりません」


2人はこう言うが、リリスは口から闇のような黒い霧を出し始めた宰相にふうんと様子を見る。

何をしに来たのかわからない。

彼の弱点はわかっている。

「火」だ。

火の指輪を付けて焼け死んだと思われる彼は、そのトラウマから極度に火を恐れる。

我らを打ち負かそうというなら、彼らに毒されて自由に操ることの出来る人々を出すと思っていた。

なのに、何故出てきたのか。


『そうですねえ…… 』


黒い煙のような霧が、玉座から次第に彼らの足下に近づいてくる。

ゴウカが足下を指で一閃し、パチンと指を鳴らす。

彼らの前には火の結界が出来て、霧はその周りを埋め尽くしはじめた。


「赤様、何かお考えがございましょうか? 」


ゴウカが慌てる様子もなく聞いて来る。


『 さて、試されているのか、それとも…… 』


「試す? なにをでしょうか?」


『 青に聞いてみましょう。彼らには何か目的があるような気がします 』


リリスは次第に周囲を黒い霧につつまれながら、心話でマリナを呼び出した。

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