45、3人の攻防
城内の一室では、数人の騎士や貴族を交え会議を開いていた。
先日の商人の事件を受けて、城下に関を設けることになったのだ。
自由に人や物が出入りできる状態だったのだが、しばらく関を置いて兵の巡回も増やすように決まった。
それは不便な状態になるが、今の隣国との関係の様子を見て柔軟に対応すればいい。
ここのところ戦いは無縁で安穏に日々を暮らしていただけに、急にわき起こった隣国とのこの状況に慌てて決めなければならないことも多く、最近トップを任されるようになった者は特に、あまりにも平和すぎた状況に頭も痛かった。
ザレルも親衛騎士長だが一般の騎士長をも束ねるトップにあるだけに、連日の頭を使う会議で疲れが見えてきた。
よほど剣を振り回している方がラクだと幾度思ったことだろう。
「それでは、その件は騎士長に指示を頼む。関は特に上下の連絡を緻密にする必要がある。」
「了解した、人材の選抜を部下に……」
びょうと風が部屋を吹き荒れ、地図と書類が舞い上がる。
「おおっと……ひどい風じゃ。……ザレル殿?いかがなされたザレル殿?」
ザレルがその場に立ち上がり、窓を向いて耳をすませる。
「失礼する!」
そして、いきなり部屋を飛び出した。
「ザレル様!」
「騎士長!」
いきなり廊下を走り出したザレルに、部下の騎士2人もついて走り出す。
廊下を行く女たちが慌てて横により、大柄な男たちに道を譲った。
「どうなさいました?!」
「わからぬ、妻の配下の者が急げと言う!」
「風の?!」
それは、普通の者には見えない風の精霊。
共に暮らすうち、ザレルにも見えるようになっているのだ。
精霊の道と言われる、その異なる世界が。
階段を駆け下り、回廊を駆けているとレスラの警護に当たっていた兵が血相を変えこちらに向かってきた。
「どうした!」
「に、庭にお嬢様とレスラカーン様が!」
状況を端的に聞くと、突然もやがかかり彼らの姿が見えなくなったという。
しかし、何故かそこに近づけないと。
そこは庭園の中央にある噴水の奥、バラに囲まれひっそりとしたベンチがあるはずの場所。
そこだけが白いもやに包まれ、見通せない。
ザレルが足を進めるが、その場所では跳ね返されるように踏み出せない。
「いったいどうなっているんでしょうか?近くにいた兵も消えて……」
「消えた兵は何人か?」
「ええ、ええと、確か2…いや3人……かと。」
「この怪しげな霧は切り払えましょうか?」
部下が剣に手を添える。
「いや、待て、中の状況がつかめぬ以上剣は使うな。
魔導師殿を呼んできてくれ。結界を破らねば話にならん。」
「はい、すでに呼びに走らせております。」
「宰相殿には知らせたか?」
「はい……あ、お見えに…………」
「ザレル!これはどういう事かっ!」
サラカーンが息を切らせて血相を変え駆け寄ってくる。
親であれば、誰しも心は同じ。
目の前にいるはずなのに、何も出来ないこの状況は歯がゆい。
いったいそこで何があっているのか、ザレルは途方に暮れて空を見上げた。
剣と剣が交わるたびに、鋭い金属音が響き火花が散る。
ライアは善戦しているが、相手は城の兵士。
何者かに操られている様子では、出来れば殺すことは避けたい。
「ライアが一人相手にしておる!レスラ、どうする?……あっ!」
ガサガサ物音に目をやると一人、やせた兵がつるバラをかき分け、服を破きながら現れた。
何故か目を閉じ剣を手にぶらりと下げて、眠ったようにゆらゆら身体が揺れている。
「レスラ、右から一人来た!剣を手にしておる!やっぱり様子が変じゃ、これは誰かに操られておる!」
フェリアの声に、兵がカッと目を開ける。
ぐっと手に力が入り、剣を構えた。
「こちらに向かってくる!」
「おおお!」
ヒュン!声と同時に風を切る音がかすかにして、一息に剣を振り上げた。
「フェリア、そばを離れるな!」
レスラがフェリアの手を離し、杖から仕込み剣を抜いた。
音を頼りに、横になぐ。
兵が振り下ろす剣がはじかれ、大きく男がよろめいた。
「王子!」
ライアが相手の足を切り、隙を見てレスラの元へと足を向ける。
しかし、相手はケガのあることにも気がつかない様子で、また重い剣を振りかざしてくる。
「くっ!このままでは!」
やせた兵は、また体制を戻してレスラに襲いかかる。
「右から来る!」
フェリアの声に、レスラが剣を右に構える。
しかし、左からもまた一人、新手が現れた。
「左からもう一人出た!」
懸命にフェリアを守ろうとするレスラだが、音を頼りでは2人を相手にするのは無理だ。
しかも仕込み剣は細く、まともに剣を受けられない。
駄目!駄目だ、レスラが死んじゃう!
救いたい!その感情に応えるように、フェリアの身体から熱い何かがこみあがってくる。
フェリアは両手をもやに包まれた空に掲げ、大きく声を上げた。